結局、直ぐに空気は重くなってしまい、そのまま朝練は終わってしまった。終わった事で、一年達はボール籠を転がして、グラウンド中に転がっているボールを拾って、その籠に入れていた。

「ユナは今日、イキイキしてたよね」
『そう?いつも通りの筈だけど、』

と、そこで思い出されるのは先程の先輩達。皆が皆、監督や神童の事で頭がいっぱいでいつもより動きが鈍く、表情も暗い。悠那だけは何故かそうじゃなかったので、目立って見えたのだろう。悠那は最後のボールであろうそれを天馬と信助が低く籠に入れて、はにかみながら笑った。まあ、何はともあれボールを集めたので先輩達の方へと戻る三人。戻ってきても、ここも相変わらず空気は重かった。

「サッカー部はどうなっちゃうんでしょうね…」
「久遠監督はこんな雁字搦めな状況でも、俺達の自由を認めてくれてたよな」
「でも、それも出来なくなりますね…」

伝わり難い言い方をする久遠でも、やはり10年前の円堂達みたいに信頼を得てきたのだろう。
落ち込んでいる先輩達を見て、改めて悠那にそう感じさせた。それなのに、久遠は何故自分と天馬に“分かっていた事だ”なんて言ったのだろう。何かがあるとはいう、やはりピンと来ない。悠那がそう疑問符を浮かばせている中、やはり天馬は気にしてあたのか、顔を俯かせていた。

「っま、どーせフィフスセクターから来るんだろ?適当に言う事聞いて、内申書に合格点貰えば良いさ」
「それで良いのかよ!?」
「それが部活でサッカーをやる意味だろ」

誰に言っても返ってくるのはこの言葉。車田も分かっていながらもつい聞いてしまうんだ。それでもこうして聞くという事はまだ認めたくないからだと思う。南沢だってそうだ。ああは言っているけど、心のどこかではきっとかなり悔しいと思ってるんじゃないか。あの必殺技だって、その気持ちがあったからこそ出来たに違いない。

「結局、誰が来たって同じって事か」

「そんな事は無いぞ!!」

『――え、』

不意にどこからか自分にとって、とても懐かしい声が聞こえてきた。幼い自分に優しく接してくれた、お兄さん。
声が聞こえた方を一同が揃ってそこへと目を向ける。逆光で顔はよく見えなかったが、それでも悠那には分かった。声を上げたその人は、ゆっくりと階段を降りてきて、グラウンドへと足を踏み入れてきた。焦げ茶のツンツンした髪、頭にはオレンジ色のバンダナ。そして、あの声。

―「俺は !由良とは友達なんだっ、宜しくな!」

―「お前は何をしてる時が一番楽しいか?」

―「おお!上手いな!!」

周りの人達が皆「誰?」と言うような目でその人を見ている中、悠那だけは唖然とだらしなく口をOの地なして開けていた。そして、春奈もその人物が誰かを理解したのか、悠那と同じように目を見開かせていた。その人は、春奈に気付いたのかニッと大人ながらも子供のように笑いかけてきた。

「お久しぶりです!!」

と、春奈はその人へと近付き、頭を深々と下げた。それを見た悠那は我に返ったかのように肩を揺らして、改めてその人物を見る。言葉が上手く出てこない。開けた口から出てくるのは自分の息。悠那がそんな状態の中、その人は春奈から目を外し、悠那へと目を向けてきた。
目が合った瞬間、全身に静電気が走ったかのようにビリッと一瞬だけ痺れた。そして、その人物が悠那に向かって微笑んだ瞬間、何かが悠那の中の妙な緊張を解した、気がした。

「っよ、ユナ!」
『…もし、かして…』

やっと出てきたのにも関わらず声は震えており、やはり言葉が上手く出てこなかった。それでも何が言いたかったか分かったのか、その人はニカッと笑って、悠那に近付いてきた。そして、自分の手の平をそっと悠那の頭に乗せて、ぐしゃっと不器用ながら撫でた。

「おお!元気にしてたか!!」

と、がっつりとした大きな手が頭に乗っており、それが先程まで撫でていたものが、いきなり速度が少しだけ速くなり、ぐしゃぐしゃっとかき回した。それには流石に吃驚したようで、体制を崩してしまった。

『うわあっ!?』
「大きくなったなあ!」
『っちょ、髪が…!』

再開した時の感想が少しだけじじくさいなとか思いながら頭の上に手を伸ばせば、その人物の手が当たり、思わず掴んでしまった。それと同時に自分を撫でていた手の動きが止まった。それを見て悠那は改めてその手をペタペタと触った。(変態とかそういうんじゃなくて、)
間違いない…このごっつくて、大きくて、それでも優しいこの手はかつて雷門イレブンのゴールを守ってきたもの。

『久しぶり、』
「ああっ」

太陽みたいな笑顔。悠那はぐしゃぐしゃの髪をあまり気にする事なく、その手を自分の頭に乗せたままそう呟いた。これで漸くまともな言葉で言えた。その人物もまた、笑顔を絶やさずに悠那に返した。
その手を離せばその人物の手が自分の頭から退いた。それが少しだけ虚しかったが、仕方ない。悠那は乱れた髪を手で直し始めた。気付けば唖然とした様子で自分とその人物を見ている部員達。だが、それは気にする事なく、その人物は部員達を見渡した。



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