昨日、帰りに河川敷で天馬とサッカーの練習をしていた時だった。秋姉さんからの突然の知らせに私と天馬の足はボールまでもを置いて、雷門中へと向かっていた。詳しくは知らない。ただ、これは葵や信助に言われたフィフスセクターの関係じゃない事。ましてや忘れ物を取りに行く為じゃない。
酸素が足りないと叫ぶかのように自分の息が荒れていく中、雷門中の校門へと辿り着いた。
肩で酸素を吸い、まだ開いていた校門の門を手で押し、中に入っていく。周りをよく見渡し、誰かを必死に探す二人。その人物は自分達が中に入った数分後に見つけ、急いで近寄った。

「久遠監督!あの…」

サッカー棟近くを歩いていた久遠監督を天馬が声をかける。だが、呼んだは良いがその後の言葉が出て来なかったらしく、詰まっていた。そんな天馬を見て今度は息を切らしながらも悠那が天馬の言おうとしている言葉を詰んだ。

『監督を辞める事になったのって、私の所為…ですか…』
「Σ!?」

そう、久遠が監督を辞める事だった。だから自分達は急いで雷門中にまだ居るであろう久遠に監督を辞めさせる事は自分の所為かと聞いてきた悠那。その言葉に天馬は俯かせていた顔を上げて悠那を見た。悠那を見れば、顔を自分と同じく俯かせており、固く作った拳をフルフルと震わせていた。

「違う!俺の所為ですよね、監督…」
『天馬…』
「そうじゃない」

決して悠那だけの所為じゃない。天馬は悠那のその言葉が無かったかのように庇い、久遠を見上げた。自分が最初に神童達にどうして真面目にやらないのかを言ったのだ。悠那はまだそこまで知らなかった。なら、全てを知った自分の所為である、天馬はそう考えていたのだろう。自分達の責任で辞めさせられたと。だか、久遠の口から思わない言葉が出てきた。

――谷宮の責任でもなく、ましては松風の責任でもない。これは分かっていた事だ。

そう言った。

『…!?』
「そんな…!俺、監督にサッカー教えて貰いたかったです…」
『私だって、イナズマジャパンみたいに強くなりたいんです…!』

自分達は、久遠にサッカーを教えて貰いたい。上手くなりたいし、強くもなりたい。だけど、どうすれば良いか分からない。我が儘だと思うが、これは二人の正直な心だった。
ここに来てから久遠に教えて貰った事は片手で数えられる程。これからだ、という所で久遠は辞めさせられるのだ。分かっていた事でも自分達の所為には違いはない。

「それは、サッカーを続けていく事でしか見えない」

その言葉を聞いた悠那と天馬は何も言えなくなり黙って久遠を見た。どうしてこんなにも誇らしげに自分達を見れるのか、まだこの二人にはまだ分からなかった。だけど、今の二人にとってその答えは答えになっていなかった。だが、口に出せないのはきっとこれ以上言っても正確な答えをくれないと思ったから。完全に黙ってしまった二人を見た久遠は最後の言葉を続けた。

「後は、新しい監督の元で頑張れ」
『「…え?」』

10年前もそうだった。イナズマジャパンの監督になった時も、何かと難しい事を考えていて、遠回しに意味を伝える。10年経った今でも覚えている。だからたまに嫌われたりしていたけど、その意味が分かった瞬間に信頼を得ていった。
そこまで考えて、悠那はハッとしたように久遠を見上げた。もしかして、さっきの言葉や今の言葉には何か意味があるのではないか…?

『……』

ああ、やっぱり自分は久遠監督が苦手だ。苦手だけど、自分も守兄さん達みたいに尊敬する人だ。
まだ、何とかなるかもしれない。勘だけど、何とかなるんだ。大丈夫。そう思い、去っていく久遠の背中を見送りながら天馬の隣で何故か口元が緩んだ。

…………
………

「新しい、監督…」
『気になる?』
「うん…」

その微妙な返答に実は私も〜と、いつものように笑って言えば、天馬に不思議そうな顔で見られた。昨日の事があった為、そのテンションは天馬にとっては珍しいものを見るように感じるかもしれない。だが、これでも久遠が監督を辞めた事を引きずっていないという訳ではない。辞めた事は勿論悠那だって悔しい。それでも、こんな調子で笑えるのは昨日の久遠が悠那に何かを訴えかけているように感じているからだ。

『部活、行こ』
「うん…ってうわあっ!」

と、重たそうな足を運ぼうとしている天馬を見て、悠那は天馬の手首を掴んで早くと、急かすように引っ張った。行く気はあるみたいだが、こんな足取りでは部活に遅れてしまう、と悠那はそのまま引っ張りながら部室まで向かった。

…………
………

『あ…』
「……」

あの後、部活が始まるまでに部室へ来たので何とか間に合った。そして今は練習中。皆より遅くグラウンドまで走ってきた悠那の目に写ったのは、ベンチより少し離れた剣城京介。また悠那に気付いた剣城は、悠那に視線を送ってからまた逸らした。
彼はもう、忘れてしまったのだろうか…あの飛行機に託した思いを。

『……』

いや、今はそんな事より練習だ。降りようとしていた階段を降りていき、今日も良い天気だな〜と呑気な事を考えながら微笑み、自分も練習に参加した。

一方、そんな様子を見た剣城は一つだけ疑問を持っていた。
久遠が監督を降りたというのに、何故アイツだけが笑っているのか。これから来る監督はアイツ等にとっては都合の良いものではない。
寧ろ最悪に近い。何故なら、次に監督になるのはフィフスセクターから送られる監督。つまり、栄都戦みたいなマネをしてみればアイツ等はこのサッカー部から退部される事になるのだ。
にも関わらず笑っている悠那。昔からよく分からない奴。そんな彼女を剣城は静かに悠那を睨み付けていた。

朝のサッカー部練習。思っていた通りか、殆どの人達が練習に集中出来ていなかった。速水に関しては悠那からの取りやすいパスにも対応出来ずに取り損ねてしまう始末。おかしいな、と思っていれば速水は三国からの指摘を受けていた。
原因は言わずともあの試合の事と監督の事だ。やはりあの時は流石にやばかったのかな、と思ってはみた。だけど、もしかしたらあれで良かったのかもしれない。何が良いっていうのは正直な所分かっていないが、勘でもそれで良いと思えたのだ。

だが、空気は悪くなる一方。天城は簡単に浜野に抜かれて、倉間は決める事が出来ていた筈のシュートを大きく外してしまう。極めつけにはキャプテンである神童も居ない。二人でパスの練習をしている天馬と信助も恐らく神童の事を心配しているだろう、顔色は曇っていた。

「皆どうした!集中しろ!!」

流石にここまで集中が乱れているのを見れば、車田だって黙っていない。だが、それでも殆どの部員達の表情は浮かなかった。集中をするどころか、逆に集中を切らしてしまったらしい。

「そう言われてもな〜…」
「気合いが入りませんよ…」
「何だと…?」

もう練習したくないと言わんばかりにその場で膝を抱え込み、やる気のない声を上げる速水。
監督も辞めてしまい、キャプテンも出て来ない。気持ちは分からなくもないが、それは言い訳なのでは?集中出来る出来ないの前に本当に彼等はやる気があるのだろうか。確かに練習だけフィフスセクターなど関係なく思い切り出来るが、それでもやはり色々と矛盾がある。
速水の言い草に、車田は何も言い返せずに黙ってしまった。

「…アイツ等がいらねー事するから」

舌打ちをしながら倉間が自分達を睨むように見てきた。その目はきっと自分達の事を睨んでるかのようだった。あの試合での事だ。あれでも気にするなと言うのが難しいかもしれない。

『分かんないよ…』

誰に向けて言った訳じゃないその言葉は空を見上げた事によって、かき消されてしまった。

…………
………


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