「結果を発表する。合格者は…」
「(居ない…全員不合格に決まっている)」

サッカー部員である先輩達は緊張しているであろう一年生達をただ黙って見ていた。
古手川、押井、金成は後半自分達みたく動いていないが為、特に疲れた表情はしていなく、誇らしげに久遠を見ていた。天馬、信助、悠那は大分ボロボロであり、息切れをかなり上がっていた。
古手川達三人はサッカーのプレイがグダグダだった為合格は無い。天馬達もそうだ。ドリブル等はまあまあだが、彼等の言動により合格は出来ない。つまり、ここに居る一年生達は全員不合格だ、と神童達は確信していた。
だが、やはりそこは久遠。

出した結果は、また彼等の予想外な事で外された。

「松風天馬」
「えっ…?」
「西園信助」
「へっ…?」
「谷宮悠那」
「うそ…」

信じられない…この三人は特にドリブルや奪う事も上手く行っていない。悠那の最後のは自分で言うのもアレだが、ゴールに入ったのはまぐれだ。しかもタメ口で反抗していたような…
思わず自分の耳を疑った。疑うどころか、谷宮悠那って誰だっけ?という訳の分からない記憶喪失になりそうなぐらいだった。頭の中で整理のつかない悠那達に再び告げられたのは「以上三名だ」という言葉。
結果が本当に信じられない方向に行ったのを見た先輩達は、かなり目を見開いていた。

テストに落ちてしまった他三人は納得いかないと声を上げるが、監督の目を見た瞬間言葉も失ったのか、うっと何も言わなくなってしまい、それぞれ愚痴を零しながらそのまま立ち去って行った。

『…!!』

横で天馬と信助が頬を引っ張っている中、それを目で追って行けば、不意に視界へ階段の一番上でこちらの様子を観察するように見る剣城の姿があった。自分の合格を素直に喜んでいた悠那だったが、その姿を見た瞬間止まってしまった。
彼は、ずっとあそこから自分達を見ていた…?

「おめでとっ!天馬、ユナ、信助!」
「「うん!」」
『う、うんっ』

暫くそちらを見ていれば、葵からの祝福の言葉。その言葉に天馬と信助は元気良く答え、悠那もまたどもりながらも返事を返した。
そして、悠那達は先輩達の前に並びに立ち、改めて挨拶をした。

「松風天馬です!!」
「西園信助です!!」
「谷宮悠那ですっ」
『「「宜しくお願いします!!」」』
「ああ!宜しくな!」

三人が声を合わせて挨拶をすれば、それを受け入れてくれた先輩達も居た。が、その反面納得していない先輩達も居た。だが、入部テストも多少ボロボロになってしまったが、無事に終わりを告げた。
下げた顔を上げれば、笑顔を振りまく三国や浜野の姿。天馬と信助もそれを見て緊張が解けたのか、笑顔で話しをしていた。それを見て、悠那は少しだけ微笑んだ。そして、次に視界に入れたのは階段の上に居る剣城。剣城は先程テストに落ちてしまった一年生三人と何やら話しており、三人は何を言われたか分からないが、肩を落として階段を上りきった。

『(京介…)』
「ユナ!やったね!」
『……』

喜びが溢れている天馬が不意に悠那に話しかければ、悠那の返事が返って来なかった。仕方なく悠那が見ている方を辿っていけば、そこには剣城の姿が。今まであそこから自分達を見ていたのだろうか、と天馬も若干悠那と同じように考えていた。そして、視線を再び悠那に戻す。まだ悠那は剣城を見ていた。二人は幼馴染み。悠那が剣城を心配するのは当たり前だとは思ってみたが、それと同時に自分の心臓に何かが突き刺さるように突いてくるのを感じた。

自分も小学生の時からだが、彼女の幼馴染みなのに、自分は悠那の7割を知ったばかり。なのに、それでも知らない悠那が居て、それを知っている剣城が羨ましい。もしら悠那と出会っていたのが自分の方が早かったら、彼女をこんな風に不安にする事は無かっただろうか…?

「ユナ…」
『…天馬、ちょっと待ってて』
「え、ユナ!?」

天馬に有無を言わせず、悠那は自分に背を向けて歩き出す剣城を急いで追って行った。

『京介…!』
「……」

階段を一気に上がった所為か、悠那の息は上がっており、肩を上下に振りながらも剣城の名前を呼んだ。剣城は振り向く事をしなかったが、ちゃんと歩くのを止めた。

「…何だ」
『…私、ちゃんと合格したよ』
「俺には関係ない」

見ていたから分かっていたかもしれないが、悠那はちゃんと剣城を見てそう報告をした。勿論テストを全部見ていた剣城にとってはどうでも良い事。だから、剣城もまた遠回しに「どうでも良い」と伝えた。そんな答えが返って来ると分かっていた悠那は、その答えについて何も言わなかった。いや、言えなかった。

『京介…』
「いずれお前にも今のサッカーの恐ろしさが分かる」

それだけを言い、立ち去ろうと止めていた歩みを再び動かす剣城。今の言葉にこそ悠那にはまだ全く分からなかったが、自分はそんな考えをしてはいけない、と素直にそう思った。だから伝えよう、キミに。自分の言葉を。しつこいと言われても良い。自分は絶対伝えなければならないのだ。

『サッカーは怖くなんかない。私には楽しい思い出があるから。怖くなるなんて絶対に無い』
「…勝手に言ってろ」

悠那の言葉に、剣城は思わず口を小さくながらも開けてしまった。表情こそ自分には見えないが、きっと目を見開かせているに違いない。直ぐに平然さを取り戻した剣城は悠那にそう言った。そして、結局悠那に振り返る事なく、立ち去ってしまった。
京介、どうして何も言ってくれないの…

悠那の不安は消える事なく増えていくばかりだった。



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