「神童キャプテン!」
「…合格するなんて、本気で言っているのか」

相手が神童だと分かった天馬はドリブルを一旦止めて、彼を見る。悠那もまた、天馬の動きが止まったと同時に走るのを止め、ただ黙って神童を見る。彼からは、昨日のような困っている表情ではなく、凛々しくもどこか切なそうにする表情。だが、自分達を見る目はまるで軽蔑するかのようにも見えた。
神童のその問いかけに、天馬も真剣な顔から笑うような顔をした。

「はい!!俺、入りたいんです。雷門のサッカーがしたいんです!!」
『私だって!』

そこで、神童は自分の中で何かが切れたような感じがした。
足掻いてももがいても、本当のサッカーは遠くなって行くばかりなんだ。それを分かっていないコイツ等を見ていると無償に腹が立つ。勿論勝手に苛々しているのはコイツ等に教えていない所為。つまり自分の所為だが、教えなくても良いと思ったのは事実。ただ好きだというだけでは、今の中学サッカーではやっていけないんだ。ここで不合格にすれば、俺達みたいに苦しくならなくて済む。

「ここにサッカーは…無い!!」

気が付いたら、自分は目の前に居る松風天馬を突き飛ばしていた。
突き飛ばされた天馬は、痛そうに地面へと倒れる。それを見た悠那はこれでもかという位に目を見開かせた。その行動にはどうやら部員達も驚愕の表情をしていたが、そんな事はどうでも良かった。

『――あのさあ、』
「?」

突き飛ばされた天馬を悠那は焦る事も無く、ただ黙って肩を貸して起こして上げた。それと同時に悠那は神童に向かって、かは分からないが声を上げた。静まり返ったグラウンドにはベンチに居た葵達にまで聞こえていたらしいが、悠那はそれでも良いと言わんばかりに天馬に肩を貸しながら言った。

『先輩達はどうしても私達に合格させないつもりらしいけどさ、私達はそんな事じゃ諦めませんよ』

そう、何があったって自分達は諦めない。あの古手川や押井、金成はどうかは分からないが、信助を含む自分達は絶対その位で諦めたりしない。大体そんな事で諦める位だったら自分達は今の時点で居ない筈だ。それに自分にも、天馬にもサッカーをやりたい気持ちはある。自分だったら京介とまたサッカーをやる為とか、10年前のお兄さん達の伝統を受け継ぎたかったからとか。天馬だったら命の恩人が通っていたであろう学校へ通う事、そしてこのサッカー部でサッカーをやる事を憧れてとか。
その思いがある以上、自分達は絶対に諦めないのだ。

『例え、今ここで不合格って言われたって、何度もアンタ達に挑戦し続けてやる』

べえっと舌を出して、空いている手で自分の目の下を伸ばして挑発するようにすればあちこちから先輩達の声が聞こえて来た。水鳥なんて自分に向かって「良いぞ!もっと言ってやれ!」と言って来ていたが、これ以上言うと本当に不合格されるに決まっているので言わなかった。

『天馬、大丈夫?』
「う、うん…!」

まさか先輩達に向かって舌を出すなんて…天馬は若干胸を張っているような悠那を見て何故か感心してしまった。
なんて思いながら悠那の首に回っていた自分の腕を退かして、悠那から離れる。ぶつかられた場所は正直痛いが、悠那に心配かけないように笑顔で「ありがとう」とお礼を言った。

「やっぱりキャプテンはスゴいですねっ、簡単に抜けそうに無いや!俺もユナと同じで諦めません!」

そうそう、と悠那が傍で頷いていれば、神童がまたそれを見て眉間に皺を寄せて睨むように見てきた。
その瞳が、昨日の京介みたいに見えて少しだけ居心地が悪い。そんな表情をさせたのは自分達だが、諦められないのも事実。
どうしてそこまで不合格にしたがるのかは知らないが、だからと言ってやって良い事と悪い事がある。まずは天馬に謝って欲しかったが、今のこの人じゃ意味が無いんだろうな、なんて思ってもみた。

「出来るものならやってみろ!」
『「はい!!」』

そこで、神童の本気が見えた気がした。押井のドリブルを止め、古手川からボールを奪い、金成のシュートも止めた。
それはもう自分達にとってはあっという間の出来事で、目が追い付いていけなかった。完全に今の神童は最高にご機嫌が悪いらしい。
ボールを貰った信助も、あっという間にボールを奪われてしまい、神童はまた信助にボールを返した。早過ぎる…

「…合格しようなんて、無理だったのかな…」

自分の目の前に転がり、転がらなくなったボールが自分の目の前で止まった。不意に自分に襲い掛かった不安が漏れ出してきた信助。
だけど、今回のテストは神童達先輩達を抜くだけがテストじゃない。攻め込む事も大切だが、仲間との協力が無いと意味が無いのだ。
そんな信助に天馬と悠那は力の差を出されても尚、笑顔で信助に近付いて行った。

「まだ終わってないよ信助!」
『そうだよ、終わるまで自分の全力出し切ろ!』
「天馬、悠那…」

二人の呼びかけにも、信助はやはり不安を隠しきれないのか、俯いてしまう。
だが、それでも天馬は信助の目の前で転がっているボールを蹴り、ドリブルをしながらゴールに向かって走り出す。ゴール前には勿論GKの三国が居て、その前にはゴールを守ろうとする倉間、南沢、霧野、天城、そして神童が居た。

「俺は諦めない!諦めなければ、何とかなる!!」

そこで、天馬は先輩達に向かって突っ込んで行った。そして、それと同時に今朝のようなドリブルを思い出した。青いタイルだけを踏むように赤いタイルを先輩達に見させて、倉間と南沢を交わしていく。そして、次には神童。天馬は焦る気持ちを抑えながら突っ込もうとする。が、それは神童の高度なテクニックであっさりとボールを奪われてしまった。いきなり自分の足元からボールが奪われてしまった為、その反動で天馬は転んでしまった。

まだまだ起き上がる天馬。それを心配そうに見る信助。別にそこまでしなくてもという速水。もっと教えてやれと笑う倉間。黙って事流れを見ようとする三国。信助、天馬、悠那の事を心配する葵。特に気にするもなくそこで見下げている剣城。
悠那はただ、その光景を見るだけだった。

そこから天馬と神童の対決が始まった。ボールを貰ってはドリブルで駆け上がる天馬。だがそれをあっさりと奪う神童。天馬はボールを奪われる度に転んでしまい、ジャージは土だらけで汚れてしまった。それを見ていた信助もまた諦めたくないという気持ちが高ぶったのか、天馬と同じようにボールを奪いに向かった。だが、それもまた神童に避けられてしまった。


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