そう告げた後に、直ぐドリブルで上がって行く。途中車田や倉間がボールを奪おうとスライディングをして来たが、悠那はボールを踵で上げ、難なく二人を越した。地面に足を付けて後ろで跳ねるボールを再び踵で蹴り上げ、自分の前に落とした。その姿は昨日のボロボロの姿では考えられない程の身のこなしだった。

その姿に一同は驚愕の表情を表すが、直ぐに浜野が上がって来た。浜野もまたスライディングをして来ようとしたが、する前に悠那はボールを足で持ち上げ、浜野の身長を越すくらいの高さで跳んだ。

「へえ、やるじゃん♪」
『…あ、』

浜野を越した悠那の前に立ち塞がる先輩。その人物は昨日、自分が勝手に絶対宣言を約束した霧野の姿があった。
それと同時に後ろから古手川やら金成やらがパスをしろと言う声が聞こえてきたが、絶対に渡したくない。何故なら自分のパスが取れなかったら自分の所為にするからだ。上手く渡っても直ぐに先輩達に取られるに決まっている。悠那はその声を聞こえなかったかのようにスルーをして、そのまま霧野と1対1となった。

「悪いが、止めさせて貰うぜ」
『昨日、言いましたよね』
「っ!」

悠那は片足でボールを軽く蹴り、自分だけ霧野の左に体をズラす。交わされると思った霧野は自分も左へ体をズラした。だが、その予想は外れてしまった。悠那はその場から一歩下がり、右足で霧野の右側に向かって蹴り出した。

『絶対受かってみせますよ。勝負はこれからなんですから』

その言葉と共に霧野の横でそのボールを受け取る音がした。霧野がそちらを見れば、自分の横を通り過ぎる天馬の姿があった。上手く悠那からのパスを受け取った天馬はそのまま上がって行く。

「そうだよ!これからこれから!」
「パスか…!」

古手川と押井の声を聞かなかったので、悠那はパスをしないと予想していたのか、霧野はしまったと言わんばかりに急いで天馬を追おうとしたが、それは悠那によって止められた。
悠那に止められた霧野は改めて向かい合う形になった。悠那は少し考える素振りを見せて、霧野に向かってニカッと笑ってみせた。

「(どうやら、言った割だけはある、という事か…)」

悠那の方が一枚上手だったらしい。
霧野は抜かれて悔しいものの、密かに真剣に悠那とサッカーをやりたい、と不覚にも思ってしまった。

「こっちだ!」
「よし!」

一方、悠那からのパスを貰った天馬はドリブルをしながら上がっていた。その途中、古手川が自分にパスを回せと片手を上げながら合図をしてきた。天馬はその合図を悠那とは違い、何も疑わずに古手川に受け取り易いてあろう(悠那曰わく)パスを出した。ちゃんと古手川の二歩程先にパスを出したのだが、古手川はそれを取り損ねてしまった。

「どこ蹴ってんだよ!」
「ええ!?ご、ごめん…」

おかしいなあ…と言わんばかりに肩眉を下げながらも古手川に謝る天馬。もしかしたら自分が間違ってパスを出していたのかもしれないからだ。本当に彼等は受かる気があるのだろうか、と疑いは徐々に大きくなっていく悠那。霧野が傍に居る中、両手を腰に当てながら呆れた目で古手川という少年をさっきのチャンスを返せと言わんばかりに見た。

転がっていくボールは浜野に渡り、ボールを受け取った浜野はそのボールを信助に渡そうと軽く転がすが、信助はノロノロと転がってきたボールを取り損ねてしまい、ボールはそのまま転がっていき、速水の足の元へと行った。

「こんな簡単なパスなのに…」

速水もまた、呆れるような顔をして信助を見る。最早これはサッカーバトルというよりボールの取り合いだ。いや、実際そうなのだが、今のサッカーバトルはそんな程度じゃなかったのだ。
落ち込む信助に天馬は気にしないように笑顔で信助に駆け寄って来た。

「信助!落ち着いて行こう!」
『大丈夫大丈夫!失敗は誰にだってあるよ!ボールの動きをよく見ていこう!』

天馬に続き、悠那もまた霧野から離れ信助にそう言葉を掛けた。二人の言葉に残念そうにする信助だったが、うんと頷いたのを見て、天馬は速水からボールを貰った。それを胸で受け止めた天馬はそのままドリブルをしていく。その様子を見て私も、と悠那も上がり出した。

お互い、パスをしていく中、天馬が再びボールを持つ事になり、倉間を天馬が抜き悠那へパス。ボールを貰った悠那は浜野を抜いて再び天馬へとパスを出した。抜いた去り際に「やるじゃん!」とまた言われ、少しだけ浜野を好きになれた。人の力を素直に褒められる先輩は随分大人だ。まあ、そんな事はどうでも良く、今度は天馬へと渡ったボール。天馬は先輩達にを抜いて少しだけ舞い上がっていた。だから、目の前に居たあのキャプテンの存在も怯む事は無かった。


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