パンパンッ!と乾いた音が練習をしている悠那達が使っていたグラウンドに響いた。音を発したのと同時に自分達の動きは止まり、葵の方を見た。

「天馬ー、信助ー、ユナー!そろそろ昼休み終わるよー!あと5分で午後の授業が始まっちゃう!」
『もうそんな時間かあ…』

春とは言え、運動するとどうしても熱くて汗が出てくる。額に少し汗を垂らしながら悠那は葵の言葉を聞いた後、ここから見える時計を見た。どうでも良いが外にも時計があって良かったと思った。パスをしていた天馬と信助もまた止めて、葵達の方を向いた。

「分かったー!ユナも行こ!」
『ほいよー』

悠那は急いで天馬達の元へ走り寄り、校舎へと走って行く。土手を駆け上がり、また校舎へ入る前の階段を駆け上がれば、直ぐそこの壁にもたれかかっていた剣城が居た。片手には赤い携帯を持っており、これから授業が始まるというのにも関わらず、弄っていた。

最初は天馬達の後ろに居た為見えなかったが、移動をして何を見ているのかとそこへ目線を送った悠那。そして、誰を見ていたのか分かった途端、自分の脳裏に昨日の事が蘇ってきて、思わず自分の口元に手を当てた。吐き気とかでは無い。出そうになった言葉を押さえ込む為に当てたのだ。あまりにも衝撃的すぎて、悠那は思わず傍に居た葵の制服にしがみついた。恐らく彼は自分達の存在に気付いている。ただこちらに目をやらないのはきっと関わりたくないからだ。悠那が葵の裾を掴んだのが見えたのか、天馬は意を決したようにボールを脇に持ちながら段々と剣城に近付いて行った。剣城はそんな天馬を怪訝そうな顔をして携帯を弄るのを止めた。

「俺は、サッカー部に入る」
「ふん、好きにするんだな」

天馬はそれだけ言い、自分達の元へと戻ってきた。どうやら昨日の事で話しをする為じゃなかったらしく、何故か安堵の息を吐いた。剣城も剣城で、あれ以上何も言わなかった事に安心した。そしてそのまま自分達が上がってきた階段を降りて行こうとする剣城を見て、葵は天馬に校舎へ入ろうと急かし、天馬もまた腑に落ちなさそうに剣城に振り返る。

「(あんなにサッカーが上手いのに…何で…)」

天馬もまた昨日の事を振り返り、彼のプレイと言動に矛盾さを感じて疑問を持った。だが、せれは剣城にしか分からない事で、天馬は言いはしなかったが、やはり気になる事には過ぎなかった。
剣城と悠那が実は幼馴染みという事は流石に驚いたが。

「ほら、ユナも…大丈夫?」
『うん…』

葵から離れ、今にも消えそうな剣城の背中を下唇を噛み締めながら見る悠那。だが、ただ見ているだけじゃダメだ。天馬みたいに、自分の事を言わないと。悠那は一歩一歩踏み出して、数歩進んだ所で止まった。

『京介!私もサッカー部に入る事にしたから…!!』

昨日の京介は怖かったけど、それは錯覚だ。自分が怖く感じてしまったら本当に怖くなってしまう。
大丈夫、京介は京介だ。

『私、京介を信じてるから…っ』

自分の声はちゃんと出ているだろうか、ちゃんとキミに届いているだろうか…歩みを止めない剣城を見て、悠那は若干虚しさを感じたが、このまま叫んでもしょうがないので、待ってくれてる天馬達に歩み寄り、校舎の中へと入って行った。

「バッカじゃねえの」

行った所を見て、剣城はそこで歩みを止めた。そして今さっき自分が下りて来たであろう階段の上を見上げた。もうそこには悠那は居ない。アイツ等の声も聞こえない。足音も遠ざかってやがては聞こえなくなった。剣城は特に表情を崩す訳でも無く、ただ悠那が居たであろう場所を見ていた。

…………
………

何とか授業が始まる前に間に合った悠那達。
そしてたった今、SHRが終了のチャイムが学校全体に響いた。その音共に隣のクラスから凄い勢いでドアが開いた音がした。多分天馬と信助なんだろうな、とか苦笑しながら鞄の中に教科書を入れていた。おっと、自分も急がなくては。

『あ、でもどこで着替えよう』

今日はジャージでテストを受けるが、今は制服。つまり着替える必要がある。だが、あのサッカー部は男子しか居なかった筈。多分女子更衣室は無いだろう。春奈から聞いた話しではマネージャー達は教室で既に着替えて来ていたらしいが、生憎今教室は数人の男女が残っている為、着替えにくい。本当は今年から女子更衣室を作ろうとしていたらしいが、残念ながらマネージャーが居なくなった為、作られるかどうか…流石に皆の前で着替える訳にも行かないので、うーん…と腕を組んでどうするかを決めていた。

「あれ、どうしたの悠那?」
『あ、環…』

部活は?と聞いてくる環に悠那は苦笑しながらも今自分はこんな状況でどうすれば良いか迷っていると、話した。
話せば、環は「なるほどねー」と、肩眉を下げながら呟いた。どうやら自分の状況を分かってくれたらしい。環も女の子なので、「男子と一緒に着替えれば良いじゃない」とか言わなかった。

「んー、それならバスケ部にある女子更衣室を使うと良いよ」
『え、良いの?!』
「理由を言えば先輩達も許してくれるよ」

話しを聞けば環はそのバスケ部の先輩達と仲が良くなっているとか。そんな話しを聞くと羨ましく感じる自分が居た。サッカー部の先輩だって話せばきっと優しいかもしれないが、あの寄せ付けないオーラと、昨日の事で仲良くなろうにもなれない。環に「ありがとう!!」とお礼を言えば、「どういたしまして!」と笑顔で返してくれた。一気にその笑顔で自分の中にあったモヤモヤが晴れた気がした。
持つべき物は友とはこの事を言うんだろう。うん。

…………
………


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