場所を少し移動し、一同は河川敷の階段下にあるベンチへと座っていた。
だけど、どこに移動しようが目線はあの子ども達のやっているサッカーへと向かう。

「あの子、上手いですね」
「ああ」

一人だけ女の子にも関わらず、男の子二人に一歩も引かず上手くボールをテクニックで交わしていく女の子。
その姿に、豪炎寺はふと自分の昔の記憶を思い出していた。中学の頃、自分達男子と混じってサッカーをやっていた少女、悠那と同じ女選手である人物。軽やかなプレイに、誰もが驚いていたであろう。
そして今では、自分達が昔面倒を見ていた悠那が、今こうしてサッカー選手としてまた目の前に現れてくれたのだ。サッカーが、全てを繋げている、そんな気がした。

「良い物だな」
「え?」
「誰もが自由にのびのびとサッカーを楽しむ時代が始まろうとしている」
『うん』
「一つのボールを蹴り合い、取り合う。ボールで楽しむ事こそが本当のサッカーなんだ」
「はい」

三人で、この河川敷を改めて見回す。
豪炎寺からしたら、随分と変わってしまったと思うだろう。だけど、昔の面影も僅かながらに残っている。時代は変わり、風景も変わり、自分も大人になり、サッカーの制度は変わっていた。
だけど、どこか昔の面影が残っている。自分も大人になったけど、サッカーに対する気持ちは変わらないし、そして、サッカーも今こうして自由なサッカーを取り戻して昔と変わらぬ色をしている。

「俺、この河川敷でずっとドリブルの練習ばかりやってました。だから雷門中に入って皆と一緒にサッカーが出来るのが本当に嬉しかった」
『私も、守兄さんや修也兄さん達のやってきたサッカーを、雷門中でやれるのが嬉しかった』
「そうか、」

二人の似ているようで似ていない言葉に思わず小さく笑みを零す。葵もまた、二人の背中を見てきたからこそ、二人の気持ちを知っていたからこそ、嬉しかった気持ちは一緒だった。
受け継がれている、とでも言うのだろうか。自分達のやってきたサッカーは確かに遠回りもして壁にも何度かぶつかったかもしれないが、確かにこの二人にも、あの雷門中サッカー部のメンバー達にも受け継がれていたのだ。

「最初は全然へたっぴで先輩達に付いていけなかったけど…でも、絶対に上手くなるんだって」

それから色んな事が一つ一つ出来るようになって、チームの皆や対戦した人達とも分かり合えた。
――1つのボールが、皆の心を繋いでいくんですね。
その言葉に、豪炎寺もまた頷いた。

「俺、サッカーに出会えてよかったです。ずっとずっとサッカーを続けます」
『私も。だって、皆が守ってきた、大切な物だもん』
「天馬、悠那…これからもサッカーをよろしくな」
『「はい」』

二人の肩に置かれた手。
守るのは豪炎寺や円堂ではない。これからは、天馬や悠那、雷門の皆がこのサッカーという物を守り続ける番なのだ。今まで与えられてきた分、今度は与える番になるのだ。
それを分かっていたのか、心地よいそよ風と、気まぐれな風が吹き向け、天馬達は再びフィールドを見つめた。

するとその時、ゴールキーパーをやっていた男の子がゴールをスルーして、フィールドの中を駆け上がって行ってしまった。

「ッ!…ガッツ!?キーパーが離れてどうすんの!?」
「僕だってシュート打ちたいんだ!」

そう言って、女の子の制止の声も聞かず、他の子達の間で取り合いが行われているボールを横から奪ってみせた少年。
そして、その場からシュートの構えを取った。

「ダイナソーブレイク”!!」
「「「わあ!」」」
「すごい!」

地面から巨大な恐竜の骨が出現し、勇ましく吼えればガッツと呼ばれた少年はそのままシュートを蹴り込む。
あんな必殺技を持っていたなんて、と言わんばかりに驚く少年達だったが、ガッツの放ったボールはゴールから大きく逸れてしまい、河川敷に生えている木の方へ向かうとそのまま引っかかってしまった。

「あっ、引っ掛かっちゃった…」
「もー!あんなに高い所どうすんのガッツ!」
「ごめん…」

どれだけすごいシュートでも木の上に引っ掛かってしまえば、それからのサッカーの練習は不可能となる。子ども達はどうするんだ、と木に引っ掛けてしまったガッツに問いかける。
背丈も小学生の身長でも届かない。引っ掛かったボールを見上げるしか出来なかった。

「天馬」
「?」

その一部始終を見ていた豪炎寺は、不意に天馬へイナズマのマークの付いたサッカーボールを差し出して、目を合わせると静かに頷いて見せる。
このボールを使って何とかしてみせろ、そう言っているようにも見えた。
最初はどうするのだろう、と首を傾げそうになったが、直ぐに豪炎寺の意図が分かった天馬は「はい!」と元気よく返事をすると、その差し出されたボールを受け取り、そのボールを地面に置き、勢いよく蹴り上げた。

バシッ

幼い頃よりコントロールを増したボールは大きく逸れる事なく、枝の上に乗ってしまった子ども達のボールに確かに当たり、二つのボールが木の中から落ちてきた。

「よしっ」
「あ、落ちてきた。ありがとう!」
「「「「ありがとう!」」」」

ガッツが落ちてきたボールを拾い上げながら天馬にお礼を言い、傍にいた子ども達も天馬にお礼を言う。それはまるで、場面も状況も違うけど、天馬が幼い頃豪炎寺にされたような人助けみたいに思えた。
それが天馬にとってはこそばゆく感じるも、それと同時に誇りにも思えた。
自分が雷門中の選手であること、このイナズマのボールで人助けが出来た事、雷門のサッカーが出来る事。
全て誇らしげに思えた。

「ねえ!一緒にやらない?」
「え?入れてくれるの?」
「もっちろんよ!」

思わぬ所でサッカーのお誘い。天馬は嬉しそうな顔をしながら、豪炎寺と悠那に振り返った。

「ユナも一緒にやろうよ!」
『え、あ…ごめん!私これからお見舞いだから、』
「あ、そっか。それは残念だけど、うん分かった!」

「上村裕弥の、お見舞いか?」
『うん、相変わらず、目は覚めないけど…でも、また目を覚まして私と向き合ってくれる事を願ってる』
「…そうか、なら、俺も付いて行く。いくら本当のサッカーとはいえ、彼には辛い事をさせてきた事実は変わらない。そして、他のシードだった少年達も…」
『…きっと、許してくれるよ。だって、本当のサッカーが戻ってきたんだから』

だから、大丈夫!
グッと豪炎寺に向けて親指を立てて笑って見せれば、豪炎寺もまた安心したように笑みを浮かべる事が出来た。
許されない事をしていたのは自分でも分かっている。でも、本当のサッカーを取り戻す事で、彼等にやっと償いの言葉を言えるのだ。

「よーっし!サッカーやろうぜ!」

天馬の蹴り上げたボールは大きく弧を描いて宙を舞った。


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