すっかり陽も落ちて、空も青から紅に変わってきた頃、入団テストに落ちてしまった天馬と悠那は少女とサスケと一緒に雷門街にある鉄塔へと来ていた。
しばらく、目の前の景色を見ていた頃、少女は申し訳なさげに天馬へと謝罪した。

「ごめんなさい、私のせいで…」
「そんな!気にしないでよ。また練習を続けて挑戦するからさっ
それより、悠那も何で入団テスト辞めちゃったの?キミなら合格出来ただろうに…」
『…私、天馬と一緒にサッカー、やりたい、だから止めた…』
「そうなの?ならしょうがないねっ」

こくり、と頷いて見せる悠那。元々入団テストには天馬から誘われやってみようと思っただけ。悠那自身も天馬とサッカーがやりたかった故に、天馬の居ないチームに入っても意味が無いと思ったのだろう。
そんな二人のやり取りを見て、少女は小さく微笑むと、柵に手をかけてぼそりと呟いた。

「あの野良犬、怖かった…」
「う、うん…」
「?」
「サスケに縄張りを荒らされたって、勘違いしたのかもね。でも良かったよ、何ともなくて」
『うん、ちょっと冷やっとしたけど…』

野良犬は確かに離れて見ていても怖かった。だからこそボールの蹴りが間に合って良かったけど、天馬のミスキックは本当にヒヤヒヤしたであろう。
悠那の言葉に天馬も思わず苦笑の笑みを零す。

「二人共、追い払ってくれてありがとね」
「悠那のお蔭で何とかなって良かったけど、あの人みたいに出来なかった…」
「あの人?」

ふと天馬が口にするあの人という人物。少女は首を傾げるが、悠那は何となく理解していた。
それは、天馬が今抱えるそのボロボロのボールが物語っている。
そのボールには密かに稲妻のマークが記されており、悠那は何となくだが、どういう人が書いた物なのか察していた。

「小さい頃、このサッカーボールで俺を助けてくれた人がいたんだ」
「助けてくれた?」
「うんっ、昔俺とサスケの上に材木がガラガラって倒れてきてさ、それを、すっごい遠くからドッカーンって吹き飛ばしたんだ!」
「へぇ…!」
「俺、その人みたいになりたいって思った!」

それで入団テストに挑んだ。
その理由も一つであり、天馬の通う小学校もサッカー部は無いのも一つだった。

「俺、サッカーがしたいんだぁ!」
「へぇ…そんなに好きなんだ!ねぇねぇ、君は何で入団テストに?」
『え?』

不意に話しかけられた事により、悠那は思わず聞き返してしまう。だが、話しの流れで何故入団テストをやりたいと思ったのか、とそう聞かれているのは間違いなかった。
悠那は少し考えた後、テンポがずれずれになりながらも自分もその理由を話した。

『えっと…私、天馬に誘われて、テストやった…』
「でも、君結構サッカー上手だよね!やってたの?」
『うん、最初は幼馴染と…そして、沢山のお兄さんとお姉さん達に、サッカーを教えて貰って、イタリアでも、師匠に教えて貰ってた…』
「へぇ、そうなんだ!じゃあサッカーに恵まれてたんだねぇ!」
『…うんっ』

記憶は少し曖昧になってきてるけど、それでもサッカーを通せば全てが全て大切な思い出で、サッカーが大好きだって教えられた。この鉄塔だって、殆ど記憶はないけど、前にも何回かここに来た気もする。
雷門街は少しずつ色を変えてるけど、昔の名残も残っている。それだけで十分だった。

「二人とも、サッカーがそんなに好きなんだ!」
「うん!世界にはすごいプレイヤーがいっぱい居るんだよ!」
「へぇ〜!」
「一番好きなのは、炎のシュートを打つストライカー!」
『私は…師匠みたいになりたい。よく、特訓してた』
「俺も!俺はね、家でよく練習してたんだ!
こんな風に…ぅおっっとっと!」

サッカーの事になると熱くなってつい勢いあまってしまう事がある。それは天馬もそうだったらしく、彼はサッカーボールを勢いのまま蹴り上げようとしていたが上手く蹴れず空振り。そしてそのまま転びそうになった時、サスケが素早く彼の襟元を咥え天馬に立って貰う。
サスケに助けられた事と転びそうになった所を見られた天馬は恥ずかしげにえへへ、と苦笑の笑みを零す。

「本当にサッカーが大好きなんだね、貴方達の夢、私も応援するよ!」
『「!――うんっ」』

差し出される少女の手、それを見て天馬と悠那は顔を見合わせると嬉しそうに頷き、彼女の手を取った。
短い間だけど、この握手をしている間は、この三人の中で深い関係が築けたのではないか、と思えた気がした。そして、お互いに手を離すと「じゃあ!」とお互いに背を向けて走り去る。
天馬はサッカーボールを持ち、少女はサスケの縄を引っ張り…

「「あああ!…」」
『はあ…』

思い出したように天馬と少女は慌ててサスケを返され返し。やれやれと、若干呆れたように首を振って見せ、改めてさようなら、と手を振ったその時だった。

「ねえ!」
『「?」』
「私、空野葵!貴方達は?」
「天馬!松風天馬だよ!」
『私は谷宮悠那…!よろしくねっ』

****

「今思えば、かなり無茶な挑戦だったかもな」
「ホント懐かしいね。でもあれからだよ。私がサッカーを好きになったのは」
『あの後、一緒にサッカー部を作ろうって言いだしたのには驚いたけどねっ』
「頑張ったよね、ダメだったけど」

河川敷にある階段に天馬と悠那は座り込み、葵は立ちながら目の前のフィールドで行われるサッカーを微笑ましそうに眺める。
幼馴染同士の懐かしの会話に思わず口元を緩ませた。そういえば、三人でこんな落ち着いて会話する事なかったかもしれない。いや、あったとしてもこんな懐かしい話しはしなかったであろう。

「今はマネージャーやってるけど、ユナやあの子みたいに自分でプレイするって道もあるかもしれないな」
「やってみたらどうだ?」
「!」

ふと、そんな会話をしていたら、聞き覚えのある誰かの声が間に入ってくる。その声に驚きながら、振り返ってみれば、やはりそこには髪を一つに纏める元聖帝イシドシュウジの豪炎寺修也がそこに居た。
そして、豪炎寺は少しずつこちらに歩み寄る。

「これからは女子の中学サッカーも盛んになるだろう。悠那の影響でな」
「豪炎寺さん!」
『修也兄さん!』

思わぬ登場に驚くも、三人の顔は嬉しそうに緩み切っていた。



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