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『あ、今日は小学生が河川敷使ってるのか、』

不意に見えてきた、河川敷。そちらをちらりと見てみれば、不意に思い出される自分の小学生の頃の思い出。天馬との出会い。そして、サッカーとの再会。
河川敷で元気よくボールを追い駆ける子ども達。それをふっと微笑みながら見つめていた。

少し、寄り道していこう。
悠那はクッキーの籠を大切そうに抱えながら見つめた。

「あ、ユナだ!おーい!ユナー!」
『ん?あれ、天馬に葵!』

ボーっと眺めていれば、どこからか自分の愛称を呼ぶ声が聞こえてくる。そちらを見てみれば、そこにはサスケを連れて走る天馬の姿と、そんな天馬を追い駆ける葵の姿があった。どうやら天馬はサスケの散歩をしており、その途中で葵と会ったのだろう。その姿を見て、悠那もまた天馬と葵の名前を呼んだ。
二人は、悠那の元まで駆け寄ると、そこで立ち止まり悠那は再び河川敷に目を移す。

「これから病院?」
『うん、まあね。でもその前にちょっと寄り道』
「寄り道…?あ、河川敷でサッカーやってる!」
「本当だ!楽しそうだ、」
『でしょ?』

今日は河川敷を使う人達がいないから、きっとあの小学生たちがサッカーをやっているという事だろう。天馬と葵もまた悠那の隣に並ぶとその光景を見つめる。
そして、あの小学生の中に目立ってボールを蹴るとある選手を見つけた。
その選手はボールを奪いに来た男の子を交わしていき、そのままゴールへと攻め込んで行っている。

「早いな!」
「あの子、女の子よ!」
「女の子?」
『あ、本当だ。男の子のチームの中に、女の子…』

楽しげにボールを蹴るのは女の子。髪型は綺麗な虹色のメッシュが入っており、雲の中に虹がかかっているような、そんな髪型。そして、プレイもまたその女の子は男の子に比べてもかなり上手く見えた。
その子はまたもう一人の男の子を抜くと、ゴールキーパーの男の子と一対一となった。

「来い!」
「いっくよー!
――“レインボーバブルショット”!」

女の子がボールを蹴り上げ、その隙に七色の色を持ったシャボン玉を大きく膨らませ、そのシャボン玉の中にボールが軟かく落ちて、そのまま宙に浮く。そのボールを女の子が勢いよく蹴り込む。
蹴り込まれたシャボン玉は弾けとんだが、一つ一つの色を持ったシャボン玉が放たれたボールの軌跡を作る。
綺麗な虹のシャボン玉は、あの女の子の雰囲気にぴったりと合っており、その必殺シュートはゴールネットを揺らした。

「見た?二人とも、すごいよ今のシュート」
「うん、すごい。あんな必殺技が打てるんだ、」
『将来は凄い選手になりそうだね』

悠那がそう感心しながら呟くと、天馬と葵は顔を見合わせて小さく頬笑んだ。

きっと、ユナに影響されてサッカーを始めたかもしれない。ユナが女の子もサッカーが出来る環境にしているのかもしれない。
なんて、二人は密かに思っていた。

ボールを奪おうと他の男の子達と対等にサッカーをやる女の子。転んでも、泣かず喚かず直ぐにボールを奪った少年へと向かっていった。

「…、」
「どうしたの天馬?」
『?』
「…思い出してたんだ、」
『何を?』

葵と悠那は天馬の方を見つめながら、密かに疑問符を浮かばせる。
天馬は、自分の思い出していた思い出を、二人に打ち明けた。

「さっき、葵と話してたんだけど、入団テストの事だよ」
『入団テスト…あ、』

小学生の頃、天馬にサッカーに誘われ、一緒にサッカーをする事になった頃の事。天馬はイナズマKFCという地域のサッカーチームに入団する、と話していた。そして、悠那もどうかと誘われ、一緒に入団テストを受けに行っていた。

****

「うっわぁ!」
『Are you OK?大丈夫、天馬?』
「う、うん大丈夫!…ここかぁ」
『うん、そうだね』

大きなサスケを連れながら、天馬と悠那はその光景を見つめた。懐かしい、河川敷の光景。そこは少し昔とは違って見え、そのグラウンドの中心に自分より少し年上の小学生が数人並んでいた。それを見て、あのチームが今日入団しようとしているチームなんだ、と思わされた。
中には女の子も居る。それだけで、少し安心してその入団テストに受けたいと強く思えた。

「何だか、緊張してきちゃった」
『うん、私も…』
「―こんにちは!」
「!」『?』

不意に声を掛けられる二人。その声の聞こえた方へと振り返って見てみれば、そこには知らない女の子がそこに立っていた。
だが、天馬には見覚えがあったらしく、その子を見てふわりと笑みを浮かばせる。

「あ、この間の!」
「すごい人数だね、頑張ってっ」
「う、うん…」
『えっと、』
「あ、えっとキミはー…」

天馬とその女の子の面識はあるらしいが、生憎悠那はその女の子とは面識がない。初めましての存在に、悠那は天馬の背中からその女の子を静かに見つめる。そして、女の子の方もこちらに気付いたのか、考えるような素振りを見せる。そして、あっと声を漏らすと彼女はふわりと笑みを浮かばせた。

「この間の転入生だよね?あたし隣のクラスだったから一瞬分からなかったっ」
『あ…うん、転入、してきた』
「ふふっ、よろしくね!あなたもこのテスト受けるの?」
『う、うん。受ける』
「そうなんだ、女の子なのに凄いね!応援してるよ!あ、そうだ。この子私が見ててあげるよ」
「え、いいの?」
「うんっ」

その少女の名前を聞くのを忘れたけど、天馬と悠那は急いで時間内に整列し始めた。緊張気味の二人。波乱の入団テストが幕を上げようとしていた。

「それでは入団テストを始めます。
時間内からディフェンダーからボールを奪ってシュートを決めれば、一次試験は合格です」
「すごいや、本物のサッカーグラウンドでサッカーするなんて、初めてだっ」
『え…?』
「え、もしかして、ちゃんとサッカーやった事ないの?」
「うん、ずっと一人で練習してたんだ…」
『……』

ああ、似てる。この子。そう改めて思った瞬間だった。
悠那も周りでサッカーをやる人達がいない、いや一緒にサッカーが出来なかったからこそ、一人でサッカーをやってきた。そして、出会えたのがフィディオというプロサッカー選手と、円堂達に出会えた。サッカーを通して色んな人に出会えた。
そして、今自分と同じ環境でサッカーをしてきた人物と巡り合えた。

「それでよくテスト受けようって気になったな」
「やるだけ無駄じゃないの?」
『ッ!ちょっと――』
「大丈夫、いっぱい練習してきたんだ」
『!』

反論してやろうと、キッと二人の少年に睨み付ける。
知りもしないくせに、分かったような事言うな。
そう言ってやりたかったけど、隣に居た天馬は、少し顔を俯かせ自分の作った拳を静かに両足に擦り付ける。そして、そのままその拳を肩まで上げた。

「何とかなる!」
『天馬…』

大丈夫、何とかなる。彼から出た言葉は、後ろ向きな言葉ではなかった。むしろ前を向いている。前を見て、真剣にサッカーと向き合っている。

――サッカーやろうぜ!

その姿はあの円堂守とよく似ていた。




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