ゆらゆらと、カーテンが風に吹かれ揺れている。
今日は快晴だ、なんて思いながら目線は白いベッドの上で眠っている青年へ向ける。
今日も、ぐっすりと眠っている。
呼吸器は早い段階で取れたらしい。自分で呼吸出来る程、回復力は早かった。それはきっと、今までのリハビリと、薬のお蔭なのではないか、ととても複雑だがそれでも嬉しかった。

あの決勝戦以来、言葉を交わしていない。
いや、交わしたいけれど、まだそれは叶わないらしい。
それでも、頻繁にこの病院に来ている訳はきっと、早くこの人と話したいと思っているからだ。
早く、早く目が覚めないかな。
まずは初めましてからかな?そして、お礼を言って、今までの13年間の事を話して、この人の話しも聞いていきたいな、って――…

「そろそろ面会時間が終わるわよ」
『あ――…』

ぎゅっと、手を握りしめる。
この人は今日も目を開けてくれなかった。
だけど、私はいつでも待ってるよ。やっと、この世界で会えたんだもの。
それじゃあ、

『行ってきます。――お兄ちゃん』

そう言って、私はまたこの病室を出た。


―――――…………
―――………

「いきます!」

雷門中。
あの決勝戦から数日過ぎ、雷門は今では弱小サッカー部とは呼ばれず、称えられる日々。どうやら決勝戦での出来事は学校中に噂として流れていた。
そんな中、今は部活の時間。天馬は、そう声を上げるとお得意のドリブルをして、錦を抜かしていく。そんな彼を霧野と天城が天馬の前に立ちはだかる。
それを見た天馬は近くで駆け上がる倉間と輝にアイコンタクトをとり、それを合図に輝が前へ飛び出し、その隙に天馬は倉間へとパスを出した。

「あっ!」
「しまった!」

輝に気を取られ、倉間のマークを逃す。パスを貰った倉間は容易く霧野と天城を抜き、そのままゴールへとボールを蹴り上げた。

パシッという乾いた音を響かせ、三国が倉間のシュートを止める。

「流石ですね、三国さん。…お前もいいパスだったぜ」
「はい!…じゃあ次、いきます!」
『次いきまーす!』

倉間の言葉に嬉しそうに頷きつつ、次の練習に移る。天馬の掛け声に悠那が腕を振りながら自分の番だと訴えていたので、三国はそのまま彼女に向けてボールを蹴り上げた。
大きく弧を描くボール。それを胸で受け止め、他の選手へとパスを送る。

そんな雷門の選手達の様子をベンチで見つめていたマネージャー達は微笑ましそうにする。

「一度はバラバラになりかけたあの子達が日本一になるなんて、」
「私の見込んだ通りですよ」


小さく笑う春奈。思えば、彼女が一番この雷門のメンバーを見つめていたのだ。彼等が変わっていく姿を一番に喜んでいるのはきっと誰でもない彼女。
そんな春奈に、ベンチに座っていた水鳥が誇らしげに胸を張り、春奈を見上げた後再びフィールドを見つめる。

「あいつらは必ずでっかい事をやり遂げるってね」
「まあ、」
「ふふふっ」

水鳥がマネージャー(専属だが)になったのも、そんな確信があったから。そう言いたげな彼女に、春奈は関心したように呟き、茜はクスクスと笑いだす。
突然笑われた事に水鳥は拗ねたようにムッと頬を膨らませる。

「何でそこで笑うんだよ、もう…」
「だって、うふふっ」

神童の背中を追ってカメラを構え続けていた茜。そんな彼女のカメラのメモリーには神童だけではない、気付いたら天馬や悠那、そして雷門の選手達の写真までが記録されていた。

そんな二人を見つめた後、葵は再びフィールドへと目を向けた。

――皆、本当に頑張ったよ…

未だに鮮明と思い出すあの決勝戦で勝ち抜き、革命を見事に成し遂げた光景。
それを成功させたのも天馬の何とかなるという言葉と、悠那の大丈夫だという確信の言葉があったから。
二つの風が、最後に二つの台風として、勝利を導いたのだ。

「来るぞ!サイドに挟め!」

三国の掛け声がフィールドに響く。
悠那と車田が輝を止めようとし、ボールをトラップしようと倉間と錦がぶつかり、青山を交わし速水へとパスを繋げようとする浜野、一乃にスライディングを決め込みボールを奪う霧野、マサキからボールを奪う信助、ゴールへ向けてシュートをする剣城、ボールを持って駆け上がる天馬。

この場の皆が、革命を成し遂げた。

「良かったね」

葵は、そう小さく微笑むと呟いた。

この練習光景は、止まる事はなかった。
陽が僅かに傾いて、空が紅くなりかけてきた頃だった。

「天馬ァ!」
「抜かせねぇぞ!」
『止める!』

錦が天馬にパスを回し、マサキと悠那が天馬のマークにつく。だが、天馬も負けじと張り合い、二人を上手く交わすと剣城へとパスを出した。

「でやぁっ!」

上手く剣城にパスが回ると、それを三国がキャッチ。
それを「どうだ!」と誇らしげに言う三国に、天馬はナイスセーブだと声を上げた。
それに頷き返す三国。次の練習だと、ボールを投げようとした時、彼はこのグラウンドに歩み寄る一つの影に気付いた。

「あっ!」
「神さま!」

「やってるな」

二人の声に目線をそちらにやってみれば、そこには病院服でも私服姿でもない、雷門のジャージを着た神童がそこに立っていた。確か入院している筈だと思われたが、もう松葉杖無しで一人で歩いている所を見ると、彼の足はもう治って退院をしたのだろう。
階段を降りてくる神童に、皆は思わず駆け寄って行き、茜もまた神童の復帰にその姿を写真に納める。

「神さま復活」

「キャプテン!」
『拓人先輩!おかえりなさい!』
「皆、キャプテンが戻って来るのを待ってました!」

天馬、悠那、信助が特に嬉しそうに声を掛けつつ、彼に笑いかける。

「足はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、軽くなら走れる」
「焦るなよ」
「分かってる。無理はしないさ」

思い切りではないが、神童の足はもう完治されている。徐々に足のリハビリも兼ねてサッカーを続けるだろう。霧野は神童の復帰に、心の底から安心したように笑みを浮かべ、またいつも通りの親友として、念を押す。その言葉に、神童も頷いた。

「また一緒にキャプテンとサッカー出来るんですね!嬉しいです!」
「俺も嬉しいんだ。これからは俺達お縛る物は何もない。皆と本当のサッカーがやれるんだから」
「本当のサッカー…」

今までは革命やら本当のサッカーの為にこの雷門のメンバーでサッカーをやり続けていた。時に壁にぶつかったりしたが、今はこうして自分達のやってきた事は正しかったんだと思えるぐらいになれた。もう、自分達は自由にサッカーが出来る。
誰の為でもない、自分達のサッカーが出来るのだ。

「…キャプテン。俺、ホーリーロードを戦って思ったんです。もっともっとサッカーの事、知りたいって。
これからも、よろしくお願いします」
「あぁ」

本当のサッカーを知って行くのは、ここから始まる。このメンバーと一緒に、誰一人欠けてはいけない。天馬は神童に頭を下げると、神童もまたそれに応えるように力強く頷いた。

「全員揃って雷門サッカー部の新たな出発じゃ!まっことめでたいぜよ!」
「んじゃ、とりあえず目指すは連続日本一っしょ!」
「「「「おう!!」」」」

まずは日本一を改めて狙っていく。きっと、本当のサッカーが出来た瞬間、一気に強くなっていく学校も増えるだろう。天馬達は気合いを入れて拳を空に突き上げた。


「やりましょう!俺達なら出来ます!」
「おっ、随分前向きになったじゃないか」
「えっ、そうですか…?」
「ははっ…自覚ねぇのかよ」

後ろ向きな考えが多かった速水でも、今なら何も怖い物もない、皆で乗り切ったからこそ、少しずつ前向きな捉え方が出来るようになったのかもしれない。それも本人さえ自覚していないくらいに。
倉間の指摘に速水は照れ臭そうに頬を掻いた。

「がははっ!俺、サッカー辞めないで良かったド!」
「あぁ、最高のチームだぜ!」
「…皆に感謝するよ」

もう、受験生で残り僅かの中学校生活。その中で、一番やり遂げられたかもしれない、このサッカー部。きっと辞めないで来れたのも三年生としての意地があったからこそだろう。天城も車田も三国も、自分達の後輩に向けて改めて感謝のお礼を言葉にした。




prevnext


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -