「こんな事が…」
「一度ならず二度までも…ッ」
ガンッ!と、自身の拳をゴールポストにぶつける。
手袋をしているとはいえ、痛みが無い訳ではない。じわじわと痛みを主張する熱に、これが現実だと言われているみたいで、大和は更に顔を歪める。
「俺達ドラゴンリンクが負ける事など有り得ん!有り得んのだッ!」
まるで自分に言い聞かせるように。これは夢だと言わんばかりに雷門を睨み付ける。
そんな彼の言葉が、もはや雑音になって聞こえて仕方がない。彼の言葉を傍らで聞いていた上村は不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
「……そう、こんな事があっちゃいけない。こんな事、あってはならない」
だって、自分は今までフィフスに忠誠を誓ってきた。貧弱だった自分の体だって今ではこの通りだし、これまでの苦痛な思いをしてまでずっと、ずっと、力を望んできたじゃないか。
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと――…
あれ?
「おかしいな僕」
なんの為にこの力を望んできたんだっけ?
フィフスに忠誠を誓っている?それは間違ってない。顔も知らない妹を人質にするフィフスなんて許さないからだ。
管理サッカーが正しい?それも間違っていない。本当のサッカーの方が楽しいに決まっている。
妹を守ろうとしている?それも間違ってない。管理サッカーに反している一人の妹がバカらしい。潰してしまおう。
………あれ?
「あれ?」
あれあれあれ、あれれれ。
僕、何のために、このフィールドに立っているんだっけ????????????????
再び聖堂山からのキックオフで試合が再開される。五味がボールを持って上がってくるが、それを悠那が、阻止して見せそのまま自分の傍で走っている天馬にボールを回した。ボールを回る際、二人は目が合うとお互いに何か思ったのか力強く頷いた。
雷門はまた、攻め上がっている。
「剣城!」
「“デスドロップG3”!!」
「親父の理想のサッカーを止めさせるものか!!――“賢王キングバーン”!!」
赤と紺色のオーラを身に纏ったボールが、そのままゴールへと迫っていく。それを見て、大和はもう点数はやる訳にはいかない、そんな気持ちが化身を再び生み出す。
大和が化身を出したと同時に、天馬と悠那が走り込んできた。
『いくよ天馬!!』
「うん!はあ!」
『「“ダブルタイフーン”!!」』
二つの風がやがて吹き荒れる風に変わっていく。その風が一つになった時、二人でその台風の中心で震えているボールを左右から同じタイミングで力強く蹴り込んだ。
シュートチェイン。吹き荒れる嵐に変わったボールは、そのまま聖堂山のゴールへと突っ込んでいく。
「そんなの、信じないぞ僕はああああ!!」
『!裕也さん…!?』
「“虚無神ニエンテ”!――“ニエンテの一撃”!!」
『裕弥さん!もう、もう無理しなくていいんだよ!もう、そんな悲しい顔しないでッ!!』
「ッ!」
台風の目の前に、立ちはだかる裕也。化身を出現させ、シュートをブロックしようと対抗するが、悠那の叫びとも呼べるその言葉に、一瞬の戸惑いを見せた。そして、その一瞬の隙で裕弥の化身は打ち消されてしまい、そのまま裕弥の横を台風が通り過ぎる。
「これが俺達の」
『私達の!』
「本当のサッカーだあああ!!!」
「“キングファイア”!!
――ッ、何故だ!!何故、化身使いの俺達が…、こんな奴等にッ…ぐわあああっ!!」
大炎の炎も、台風には勝てなかったのか、堪えようとするも、大和自身がもう分かっていたのだ。コイツ等には勝てなかった。ゴールを守り切れなかった。自分の父親のサッカーに対する気持ちには答えられなかったのだ、と。そんな気持ちがあってか、そのままゴールを許してしまう。
得点が入ったと告げるホイッスルは、この時のが一番大きく長く聞えた気がした。
《ゴールッ!!雷門逆転!!決めたのは谷宮、そして松風と剣城だあああ!!》
「「「「やったぁあああ!!!」」」」
一気に逆転を決め込められた天馬と剣城、そして悠那に喜びの声を上げながら駆け寄った。
一点を入れたごとに仲間達と喜び合えるその光景。千宮路は、目を奪われるように、呆然と見ていた。
そして、何かに気付けたのか、口元を小さく緩ませた。
「…そうか、そういう事か…」
ピッピッピィ――ッ!!
ここで、三回鳴るホイッスル。この試合が、この革命を賭けた戦いが、終了したサインだった。
「勝った…」天馬のその言葉に、皆はより一層喜びの声を上げる。天馬は、電光掲示板を見つめた後、剣城へと振り向く。すると、彼は小さく頷いて見せた。円堂にも、振り向き同じく頷かれる。
『天馬』
「ユナ…俺、俺達…!」
『うん、大丈夫。何とかなったね』
「〜〜〜っ!やったああ!!」
『うわっ!?』
隣に立った悠那が、自分の口癖と天馬の口癖を合わせて伝えてみせれば、天馬は漸く実感が持てたのか、徐々に笑みを浮かばせて悠那に抱き着く。
それに対して、悠那も驚愕の表情を浮かばせるが、それは一瞬の事で直ぐに自分も受け入れた。
やったね、大丈夫だったね、何とかなったね、その言葉をまるで呪文のように繰り返した。
《ホーリーロード全国大会優勝は雷門中だあああ!!》
それぞれが、それぞれの喜びの表現を表していく。
「勝ったのか…」
「キャプテン!」
悠那から離れた天馬は観客席から小さく呟いたもう一人の雷門の選手であり、もう一人のキャプテンである神童の近くまで駆け寄って行き、大きな声で彼を叫ぶ。
そして、満面の笑みを浮かばせると彼に向けて言い放った。
「俺、雷門に入って良かったです。キャプテンと円堂監督と皆と出会ってサッカー出来て良かったです!」
笑って、泣き合える、そんな雷門のチーム。神童もまた、自分の頬を濡らしながら天馬の言葉に深く頷いた。
「天馬…」と神童が天馬の名前を呼ぶ。それを聞いて、天馬はもう一度叫んで見せた。
「キャプテン!また一緒に、サッカーやろうぜ!!」
握り締めた拳を神童に向けて伸ばす天馬。それを見て、神童もまた自分の拳を力強く伸ばして見せた。
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