ずっと、怪しいと思っていた。
日本代表である前に、彼は一人のサッカープレイヤー。誰よりもサッカーを愛していたに違いない。
いや、私自身もそうであるが、彼のサッカーに対する気持ちと、私のサッカーに対する気持ちは明らかに違っていたのだ。
それが、分かっていて何故自分はこの男を傍に置いていたのか。何故自分ではなくこの男にサッカーの管理を任せていたのか。
あの松風天馬と剣城京介がこの男の必殺技を受け継いでいた瞬間を見て、やっと分かった気がした。

「お前が教えたのだな」
「ええ。ですが、決めたのは彼等です」

この目。この、覚悟している目。希望の目。革命の目。
私のやってきた事は間違っていた、と訴える目――…

「やっと分かった。…あの日、私の前に現れたお前からはサッカーへの強い想いを感じた。…しかし、お前はフィフスセクターの為に尽くそうとしたのではない。サッカーを取り戻す為にこの革命を仕組んだのだ。
――イシドシュウジ。…いや、豪炎寺修也。お前は日本代表の座を降りて私の僕となった。…自分のサッカー界での地位を全て擲ってサッカーに捧げた」
「サッカーは私の恩人なんです。サッカーが無ければ今の私はありません」

脳裏によみがえる、豪炎寺修也が、イシドシュウジとなったあの日。
自分の判断が未だに良かったのかすら分からない。そしてやってきた事が自分にとって良かったのか分からない。だけど、誰かがやらなくては、こんな判断をしなければ、雷門は今頃どうなっていただろうか。
豪炎寺は、雷門のベンチで選手の一人ひとりを見据える円堂を見つめる。そして、再び千宮司を見上げた。

「あの頃のメンバーは皆サッカーに救われたんです。しかし、今のサッカーでは誰も救う事が出来ない。だから、私はどんな手段を使おうとサッカーを取り戻すと決めた」
「それが、お前の真実か」
「本当のサッカーで管理サッカーを倒す。それこそが、みんなの目を覚まし、サッカーを唯一の手段だと私は信じています。…その為ならどんな犠牲も払う覚悟です」

起こった事はもう取り戻せない。どんな選択をしても誰かが悲しい目に遭ってしまうのなら、自分から汚れ役を演じよう。サッカーで悲しむ人が出てこないように、本当のサッカーが消えてしまわないように、自分がやる事をやった後に悲しもう。自分が汚れてしまおう。
そんな覚悟。
だけど、その覚悟があるのは、豪炎寺だけではなかった。

「全てを賭けているのはお前だけではない。管理サッカーは全ての者に平等に機会を与える正しきシステムなのだ」

どちらの判断も、サッカーを思っての事。それはただ少しだけすれ違っただけであり、どちらもサッカーが好きで好きで仕方なかったのだ。
それだけの事だった。

一方、雷門では、フィールドに立っていた浜野と速水が随分と疲れた様子で、しゃがみ込んでいた。
それに気付いた円堂は直ぐにベンチの方を振り返った。

「一乃、青山。行くぞ!」
「「はい!」」

ここで、メンバーチェンジ。浜野と速水はお互いに支え合いながらも重たい足取りでフィールドの外で待っている一乃と青山の所までゆっくりと歩み寄る。
そして、やっと傍まで来た瞬間、二人は一乃と青山に向けて笑みを浮かばせた。

「ちゅーか…」
「後はお願いしますね…」

そんな二人を水鳥と葵が支える。自分達にかかる二人の体重が一気に襲いかかった。それだけ、彼等はこのフィールドを駆けまわっていたのだ。そんな二人を見て、これからその二人と代わる一乃と青山は、力強く頷いた。

「ああ!」
「任せろ!」

ピィ――ッ!

ホイッスルが鳴り響くと同時に、聖堂山は動き出した。伍代は颯爽と化身を表すと、雷門ゴールへ真っ直ぐに向かう。
少し前の雷門だったら、無闇に近付いていたかもしれない。だけど、もう雷門はサッカーの楽しさを知ってしまっている。別に化身同士ぶつからなくても、皆の力を信じていれば、その必要が無かったんだ。
狩屋が前に出た。

「“ハンターズネット”!!」
「何っ!?」

駆け上がってくる伍代に、マサキが必殺技で対抗。ネットに引っかかった伍代からボールを奪い、そのまま目の前で駆け上がる天馬へとパスを出した。

「抜かせるか!」
「“そよ風ステップ”!」

マサキからボールを貰った天馬。それを聖城が止めに入ろうとこちらに向かってくるが、天馬は焦る事なく、自分の得意なドリブルで軽やかに彼を交わしていった。

これは――…

「一乃先輩!」

聖城を交わした天馬が一乃にボールを回す。彼の傍には青山もついて上がっていた。彼等にとって、試合はあまり出た事が無い。だからこそ、この試合の流れをスムーズに進めて貰う。
セカンドだって、やる時はやるんだという所を見せる時なのだ。

「絶対に勝とうぜ、青山!」
「おう、一乃!」

そんな二人の意気込みの中、郷石が化身を出現させながら止めに入ろうと大声を上げる。
だけど、今の二人には天馬の意志を受け継いでいる。浜野と速水の意志を受け継いでいる。自分達の気持ちを信じている。
一乃はボールを持って跳び上がり、青山も続いて跳び上がった。

「「“ブリタニアクロス”!!」」
「うわああ!!」

一乃と青山は、帝国でも見かけた必殺技を繰りだし、郷石を交わす。
確か、帝国の試合の時一乃と青山はまだこのメンバーに入っていなかった筈。きっと、彼等もあの観客席に居て、あの試合を見ていたのだろう。
そして、相手の必殺技を、自分達の力で手に入れたのだ――…

「奴等の必殺技が俺達の化身に打ち勝っているだと!?ふざけるなッ!!」

「錦!」

そろそろ大和が、雷門の選手と流れが変わってきているという事に、焦りを感じてきていた。
それもその筈、自分が今まで強いと思っていた化身の力が、誰にでも手に入れる事が出来る必殺技で、抜かれているのだ。
そんな彼を余所に、一乃は錦にパスを出した。

「“伝来宝刀”!」
「“賢王キングバーン”!!――“キングファイア”!!

…な、なにッ!?」

王様の炎でも、もはや焼き消す事が出来なくなってしまったのか、それとも彼等の必殺技の威力が上がったのか、ただ分かる事は聖堂山はまたもや雷門に点数を奪われたのだ。
ピィ―ッとホイッスルが鳴り響く。
雷門は、聖堂山と点数が並んだ。



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