助けなきゃ

誰を助けるの?

助けなきゃ

何から助けるの?

助けなきゃ――

君にそれが出来るの?

ポーンッと、自分の足から跳ね上がるボール。今は試合中だと言うのに、空に浮かんだボールはまるで幼い頃からずっと見てきた光景と似ていた。
そのボールは真っ直ぐに幼い剣城に渡る。
いや、幼かった剣城が、成長して今の剣城が受け取った。
ちらっと、剣城が悠那に振り返る。小さく微笑むと、彼は直ぐに前を向き、天馬へとボールを回す。天馬は、錦へ。錦から影山へ渡って行く。

だが、鉄壁の最終ライン、護巻、郷石が立ちはだかった。

――みんなで繋いだこのボール…
――無駄にはしないぜよ!

「「はああ!!」」
「「うわあああ!!」」

護巻と郷石が化身を懲りなく出していき輝と錦を弾き飛ばす。
またボールを奪われてしまうのか、一瞬の緊張感。だけど、輝と錦はまだ諦めていなかった。二人はフッと笑みを浮かべると、錦は体を空中にいながらも回転し、それを輝が錦の足を踏み台にし、更に高く跳んで見せた。

「うっぎぃぃいいい!――“エクステンドゾーン”!」

自分達の持っていたボール目掛けて飛んでいく。そして、輝が独特の雄叫びを上げた時、ボールに紫色の光が纏い、やがてはその光は渦を巻きボールを中心に大きな球体が出来上った。それは、空中に消えると、輝もまるでワープしたかのように球体の周りを飛び回り、やがてはその球体を蹴り込む。

輝のシュートが、二体の化身を吹き飛ばした。
だが、それはいいが輝の放った必殺技は化身を吹き飛ばすだけで威力を失ってしまい、大和もそれを見てフッと笑って見せる。

「威力の削がれたボールなど――…」

いや、これはシュートではない。あのボールは、輝と錦が協力して繋げたボールは、

天馬と剣城へのパスだった――

ボールの着地点、そこへと真っ直ぐに剣城と天馬が駆け上がっていた。間に合う、そう確信した剣城は、ふと自分の数歩後ろに居るであろう天馬へと目をやった。

――俺がここに居られるのは…松風…お前が居たからだ…。いや、お前と悠那の二人が居たからだ!!

「天馬!!」

ここで、剣城は初めて天馬の事を名字ではなく、名前を呼んだ。それはきっと、剣城の中ではもう天馬という存在は大きく、眩しく輝いていたのだ。
剣城の口から自分の名前が出た途端、天馬は小さくはにかんで見せ、それを合図に二人は同時に高く飛躍して見せた。

「本当のサッカーを取り戻すんだ!」

「無駄だ!はあああ!!――“賢王キングバーン”!!」

無駄なんかじゃない。それを一番分かっているのは、自分達なんだ。

「「ファイアトルネードDD(ダブルドライブ)!!!!」」

二人が、二つの炎の渦を生み出し、ボールを蹴り落とす。
それはまるで、どこかで見た事のあるような技が進化して戻ってきたのだ。彼等が、生み出したのだ。
その必殺技は真っ直ぐに大和の方へ――…

「“キングファイア”!!

――ッ!?何だ、この力は…ッ」

こんなの、雷門のデータには無かった。いや、無かったとしてもそこまでの威力ではないだろう。なのに、何故…何故自分の化身で跳ね返せない…?

キングの操る炎でも、焼き切れない。むしろ、その炎の中をこの二人の炎を纏ったボールは押し寄せてきていた。この必殺技がそうとう強い物なのか、それともあの二人のサッカーに対する気持ちとやらが強いのか――…
確かなのは、自分がこの程度の必殺技すら押し返せない、という事だ。

「「「「「いっけぇぇえええ!!!!」」」」」

「――ッ!」

二人の他に、雷門の掛け声が一気に聞こえてきた。何故、二人しか放っていない技なのに、何故大勢を相手にしているような感覚がするのか。
気付いたら、大和は押し負けており、審判がピィ―ッとホイッスルを長く吹く。

電光掲示板に、雷門の方へ点数が追加された。

3対4で、雷門一点差に追い上げた。点数を加点したのは、剣城と天馬がいつの間にか生み出していたファイアトルネードDD。あの豪炎寺修也が日本代表の試合で一度だけ使ったという伝説のシュートだったのだ。

「二人技…」
「同時にファイアトルネードを打ち、エネルギーを増幅させる必殺シュート」
「二人が動きを完璧にシンクロさせなければ成功しない、超難度の技だ」

ファイアトルネードがどれだけ難度の技かも、威力もどのくらいだったのかも、円堂と鬼道は分かっていた。だからこそ、二人のあの技を見て関心の眼差しを送る。いや、それと同時に二人にsか出来ない、二人なら出来る必殺技なのだとも思えた。

「入学式の頃からじゃ想像出来ないぜ!」
「これもサッカーが持っている力ね!」
「鬼道」
「ああ」

あの二人はきっと、これを切り札として、今までずっとこの試合で走り抜けただろう。仲間に隠すのにも必死だっただろ。何せあの悠那にまで黙っていたのだから。
観客席で見えていた神童もまた嬉しそうにその二人を見つめる。
見事に一点取り返せた。そんな二人の活躍に一同は関心したと天馬と剣城の周りに集まる。

『あんな必殺技を隠してたなんて』
「あ、ユナ…ごめんね、内緒にしてて。でも、これも勝つ為に必要だったんだ!」
「革命の為…俺達のサッカーを守る為に、な」
『天馬…京介…』

ああ、この二人は本当に、サッカーを愛してる。
改めて、その事に気付くと悠那は胸の上で揺れる折り鶴を握りしめる。
この二人が、サッカーに希望を与えてくれたんだ、と折り鶴も喜んでいるような、そんな気がしてならないのだ。
ふと、そんな事を思っていると、傍らでドサッという音が聞こえた。

「…ちゅーか、とりあえず…」
「一点ですね…」

これが、二人の精一杯の喜びとなった。



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