『天馬ー!!』
「うわっ!!ユナ帰ってたの?」

自分の部屋を出て数秒。天馬の部屋のドアを開けるなり、悠那は天馬に飛び付いた。因みに天馬と悠那の部屋はお隣同士だったので移動にそんな時間は掛からなかった。いきなりだった事と、抱き付かれた天馬は抵抗はしなかったものの、顔を少し染めていた。

「もしかして僕、邪魔…?」
「Σま、まままさか!?ユナ離れて!」

と、ここには居ない筈の声が聞こえ、不思議に思った悠那は視線を下に移す。するとそこには自分達の光景を見て少しだけ頬を染めていた少年がいた。
どこかで見た事あるなあ、と記憶を探れば直ぐに分かった。確かこの少年は天馬の傍に居たあの時の勇者だ。悠那が一人で納得していれば、天馬からの下からの反抗。仕方なく天馬から離れ、横に座る悠那。

『確か信助だよね』
「そうだよ!西園信助!キミは谷宮悠那だよね!さっき天馬が話してて分かったよ!」
『話し?』

何の話ししてたの?と悠那が天馬の方を向けば天馬は顔を赤くしながら背けた。信助はそれを見て、やっと天馬が何を思って自分に悠那の事を話していたのかが分かった。「き、気にしないで!」と焦るように片手を左右に振る信助。それを見た悠那は少しだけ腑に落ちないように顔をしかめながら「分かった…」と下がった。

「(ユナはテンションが上がると直ぐに抱き付くんだから…)」

心臓が持たないよなあ…と天馬は心臓部分を制服越しに掴みながら顔を赤くしていた。何故テンションが上がっているのかは大体検討は付いていた。一方そんな天馬を余所に悠那は信助との話しをしており、信助は心の底で天馬ドンマイ…と苦笑気味に思っていた。

――コンコンッ

『「「あ、はーい!」」』

すると、ドアの方からノック音が聞こえ、それと同時に天馬は復活をして三人は嬉しそうにそのノックをした人に返事をした。返事を聞き、ノックをした人もとい秋がガチャッとドアノブを回し、クッキーを持って入ってきた。悠那は秋の手伝いをして、床にクッキーの乗るお皿を置いた。

「お腹空いたでしょう、どうぞ召し上がれっ」
『「「いただきまーす!!」」』

床に全て置かれたのを見て、三人は声を合わせながらそれぞれ綺麗に並べられてあるクッキーを一枚手に取り、一口食べた。香り良し、固さ良し、味良し。甘さは自分にとって丁度良く、それプラスお腹も空いていたのでとても美味しく感じた。

『さっすが秋姉さん!とても美味しい!!』
「うんうん!」

クッキーを食べてそう言えば、天馬からの同意。信助もまた悠那の感想に嬉しそうに頷いた。と、ここで信助が思い出したように「っあ」と声を上げた。

「そういえば天馬から聞いたんだけど、悠那って英語話せるんだね!」
『英語?』

天馬から聞いた話しについては本人から聞くとして、悠那はクッキーを口に含みながら考えるように首を傾げた。
英語は世界共通語だったので、悠那がイタリアに居た頃はイタリア語より先に英語を覚えさせられていた。悠那は信助のその言葉にうん、と頷きカップに入っていた飲み物を一口飲んだ。

『たまに口癖で出るんだよねー;』
「へえー、羨ましいなあ…」

英語のテストとか余裕そーと信助に言われたが、その代わり社会と国語が苦手だと伝えた。歴史や古典なんてもってのほかだ。と、苦笑すれば信助も吊られてか苦笑をされた。小学校三年生前半まで外国で暮らしていたので国語の知識が全くと言って良い程無い。

「そうそう、入学式どうだった?緊張した?」
「緊張したよー!でも今日は朝からスゴい事があってさあ!」
「そう!大変だったんだよね!!」

秋が二人の会話を聞いて、紅茶の入ったカップを持ちながら思い出したように聞いてきた。それを聞いた天馬達はクッキーを食べながら今朝あった事件の事や入学式の事を話した。話しの殆どの内容が事件の事だったが、ちゃんと明日の入部テストの事も話した。

『絶対三人一緒に合格しようねっ』
「「うん!!」」

…………
………

『秋姉さん、おはよー』
「あ、おはよう悠那ちゃん。朝ご飯出来てるわよ」
『はーい。天馬は?』
「サスケの散歩。もう少しで来ると思うわ」

その言葉に悠那はふーん…と関心するように呟いた。よくもまあ行くもんだな。自分も前までは一緒に行ったりしたが、かなり朝が早い事にギブアップしたのを覚えてる。それだけ天馬はあのサスケが大好きなんだって思わされた。自分もサスケは好きだが、どうにも朝の散歩は慣れない。なので昼や夜の散歩だけはたまに行ったりはしていた。

「私は洗濯物干して来るわね」
『んー!』

裾を捲って沢山の洗濯物が入っている籠を持ち上げ、悠那にそう言えば悠那は片手を挙げて返事をした。そして朝食を食べる為にキッチンへと入っていく悠那。そこで暫くご飯を食べていれば、玄関からドアの閉まる音がした。秋だと思ったがあれだけの量を干すには早過ぎるな、と思い顔だけ玄関の方に出せば、靴を脱ごうとしている天馬の姿だった。
そういえばもうそんな時間か、と思い悠那は再びご飯を食べ始めた。

「あ、ユナ。おはよ」
『おはよ天馬。散歩お疲れ』

洗面所の方に向かう途中天馬は自分に気付いたらしく、挨拶をしてきた。悠那もまた天馬に挨拶を返し、ご馳走様!と手を合わせて食器を冷やかしといた。うん、今日も美味しかったや。

「あ、ユナ!待っててよ!」
『分かってるよ、今度はちゃんと待ってるから早くしんさい』
「絶対だよ!待っててよね!」
『はいよー』

そんなに信用ないか私は。と、天馬の疑いの言葉と眼差しを食らった悠那はそう思いながらも自分の部屋へと一旦戻る事にした。部屋に入れば窓が開いていたのか、カーテンが靡いており、急いで鍵を掛けた。
そして、昨日スカートに入れたばかりの鍵を取り出し、机の鍵を開けた。開けたと共に、紙飛行機が小さく揺れ、それを取り出す。

『…京介、キミになんて言われようが、私はサッカー部に入るよ』

その為には何としても今日の入部テストは絶対合格しなければならない。
今日から、テストだ…!



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