『ただいまー、ん?良い匂いー…』
「あら、悠那ちゃんお帰り」
『秋姉さん』

自分の忘れ物も無事持ち帰る事に成功し、木枯れ荘に戻ってきた悠那。玄関のドアを開ければ、甘い匂いが悠那の鼻を擽った。
その香りに暫く癒やされていれば、秋がキッチンの方から出てきた。

「忘れ物はあった?」
『う、うん!それより秋姉さん、クッキー焼いたの?』
「ええ、今天馬の所に置きに行こうとしてたの。悠那ちゃんも手洗ってきたらあげるわね」

その言葉に悠那は思わず顔を緩め、秋姉さん愛してる!と抱きつき、そのまま鞄を持ちながら洗面所の方へと急いで向かった。
元気そうな悠那の姿を見て秋は、キッチンの机に置いてあるクッキーの乗ったお皿と二つのマグカップを見て、もう一つ増やさないとね。と棚からカップを取り出した。

…………
………

『秋姉さんのクッキー♪』

手を洗って一旦自分の部屋へと戻ってきた悠那。鞄の中から必要な道具だけを取り出しながら、今朝と同じように鼻歌なんて歌っていた。そして、筆箱を取り出したと共に、何かが引っ掛かり筆箱と同時に何かが出てきて、それはカサッと小さな音を立てて床に落ちた。
部屋は自分しか居なかった為静かであり、悠那は直ぐに気付いた。
ハッとしたように目線を下に向ければ、案の定そこには自分が先程忘れ物忘れ物!と騒いでいた物だった。悠那は急いでそれを拾い上げて、ジッと見つめた。


落としたそれは小さい頃よく皆が遊んでたであろう物。姿は少し歪で、色も元の色とは少しだけ落ちていたりしていたが、それでもちゃんとした自分の大切な宝物。
それを持っていれば、自分は少しでも安心でいられるような気がして、今日はそれを持ってきたのだ。

――…紙飛行機。
何故こんな物が大切かと言えば、随分昔に大切な人から貰ったからだ。

『…京介』

そう剣城京介が随分昔に自分にくれた物。初めて彼が自分にくれた物。その紙飛行機を開いても表裏には何も書いていない。形も歪で上手く飛ばないけど、色は落ちてしまっているけど、大きさも通常より小さいけど、確かにこの紙飛行機の上に彼の気持ちが詰まっていた物だった。
だから自分はこの紙飛行機を大切にしている。いつかこれを持っていたら自分はまた京介に会えるんじゃないかって。だが、まさか今朝みたいな出会い方だとは思っていなかった。

彼はこの紙飛行機を覚えているだろうか…?
いや、忘れてしまったに違いない…

『ええーい!考えるのは止めだ止め!!折角秋姉さんがクッキーを作ってくれたんだ!!』

そんな事を考えながら食べてれば折角のクッキーが台無しだ!と、悠那は顔を激しく左右に振り、紙飛行機を鍵穴の付いた引き出しの中へと入れ、鍵を掛ける。天馬がやサスケがたまに自分の部屋に入ったりするのでこれは隠さなければならない。いや、別に見られて良い物なのだが、絶対にゴミだと思われ捨てられるに違いない。(まあ天馬ならしないと思うけど…)
紙飛行機の事は京介との幼い約束をしているので、捨てる事も出来ないし、皆に言う事も出来ない。だから自分にとっても大切なのだ。

さて、天馬の部屋にお邪魔しちゃおー

悠那は鍵をポケットの中に入れて、自分の部屋を後にした。

…………
………



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