例えば、サッカーが大好きな少年がいる。
だけど、その少年は生まれた時から重たい病気を持っており、サッカーなんてスポーツは出来た物ではなかった。

きっと、彼がサッカーをしていたのならその素晴らしい才能を生かしきれただろう。日本代表所じゃない、きっと、いや、絶対、彼は世界まで上り詰められただろう。

だけど、ああ、なんて悲しい悲劇。彼は自分の病の所為で酷く気に病んでいる。自ら自分の才能を無き物にしてしまおうとしている。
勿体ない。実にもったいない。どうして神様はこんな残酷な運命をこの少年に定めたのだろう。可哀想な少年。
今すぐに解放してあげよう。

君は、この世界に自分の名を残すのだ。自分の力で。病なんて気にならないくらいに。
私が、消してあげよう。

痛くない。とても楽しいサッカーの始まりだ。
私の管理するサッカーは、才能があるにも関わらずサッカーをプレイす機会が与えられなかった子ども達も、存分にサッカーが出来る環境を与えるのだ。そうする事によって、才能を開花させ、やがては化身を使えるようになれる。
彼等は我が管理サッカーの象徴が今まさに頂点に立とうとしている。
私の正しさを証明してくれるのだ。彼等が…

え?例えばの話しじゃなかったかだって?
いやいや、これはまだ例えばの話しさ。何故かって?

だって、彼はまだ、世界に名を残していないからね――…


ホーリーロード決勝戦。雷門対聖堂山も後半を半分経過。4対2の聖堂山が二点リードとなっていた。
それは、角間の実況で改めて思い知らされる事実。
だけど、先程よりも絶望を感じていない。それはきっと、天馬が雷門の皆と自分達のサッカーは何だったのかを確認し直したからだと思われる。
もはや、清々しい程だった。改めて気合いも入る。

不意に、パンパンッと乾いた音が聞こえる。そちらを見てみれば、どうやら天馬が自分の太ももを叩いていた。きっと、気合いを入れ直す為に。
そんな彼を見て、悠那はふっと笑って見せる。そして、視線を変えて上村裕弥の居る方へ向く。
彼は面白くなさそうな目で雷門を見ている。彼も、救うんだ。
自分だけじゃない。皆で、彼を救うのだ。

『絶対に、大丈夫!』

だって、こんなにも頼りになる仲間達がいるんだから――…

「如何に意気込もうと俺達の勝利は揺るがない」

僅かに雷門の雰囲気が変わろうとも何とも思わない大和は、ッハ、と嘲笑う。そう、何故なら彼等の方が点数もリードしている。力だって雷門より優れている。自分達は全員化身も扱える。才能だってある。
負ける訳がない、そう信じているからだった。
だけど、それは雷門も同じ。仲間の力を信じ、自分の気持ちを信じているから。

点差は二点。でも、雷門は本当のサッカーで絶対に――…

「絶対に勝つんだ!!」

ピィ―――ッ!!

雷門のキックオフで、試合が再開される。
輝から剣城にボールが渡る。ボールを受け取った剣城は直ぐにフィールドを駆け上がった。そんな彼の行く手を塞ごうとするのは、FWの二人。

「「“精鋭兵ポーン”!!」」

後藤と御戸が、精鋭兵ポーンを出現させいきなり剣城からボールを奪って見せる。やはり、化身相手に無謀過ぎたのだろうか。
それでも雷門は、諦めなかった。剣城は直ぐに体制を戻し、相手が余裕の笑みを浮かばせている間に隙なくボールをスライディングで天馬に回していく。ボールを受け取った天馬は、そのまま上がって行く。

「無駄だ!!」
「「“精鋭兵ポーン”!!」」
「うわあ!」

聖城と伍代がはたまた化身を生み出し、天馬を弾き飛ばす。だが、天馬は怯んでいないのか、直ぐに片手を地面に付きながらも体勢を整え直ぐに転がっているボールを取り駆け上がっていく。
更に、天馬の目の前にはキングを守ろうとする魔宰相ビショップと鉄騎兵ナイトが立ちはだかる。彼等は自分の手に持っていた杖と棒を振り上げるとそのまま天馬を弾き飛ばす。再び体勢を崩される天馬。
だけど、そこで諦める天馬ではない。

「無駄だとまだ分からないのか!」
「まだまだ!!」

大和が笑う。彼の挑発的な言葉も、もはや天馬の耳には入っていても相手にはしないだろう。相手にする時、それは彼が全ての少年達を抜いた時に、大和と一対一になった時。
天馬は立ち上がり再びボールを自分の足に寄せる。駆け上がる。

三人の選手が、立ち塞ぐ。

魔女クイーンレディアに番人の塔ルーク。
その守備に再び天馬は吹き飛ばされる。もはや化身は天馬を痛めつけるように彼の周りを囲っているようにも見えた。
流石に天馬も化身に連続攻撃されたらボールも手放し、フィールドにうつ伏せになるだろう。五味と猪狩はそんな天馬を嘲笑った。

「これで大人しくなるな」

だが、その二人は天馬の事を甘く見ていた。
嘲笑ったと共に天馬に向けて背中を見せた時、天馬はそれがチャンスとでも思ったのだろう、直ぐに彼等の間を抜け、それと同時にボールを奪って見せた。

「へえ、あの天馬って子…少しはやるんだ。まあ――」

つまんない事には変わりないけどね。
裕弥は一人で駆け上がる。別に天馬からボールを奪う為だけではない。かといって攻めさせる訳にもいかない。中間、中間の存在を維持するんだ。
彼女――悠那と勝負をするために。自分の存在を確かめる為に――…

「うわああ!」

また化身に天馬は弾き飛ばされる。そしてボールも相手側に渡る。もう天馬に奪わせまいと言わんばかりに自分の方に来たボールを蹴り上げる聖堂山。
そのボールは天馬の上を余裕で超えていき、やがては雷門のゴール前まで飛んでいき、それを見た霧野と車田が大きく飛躍。だが、それよりも高く跳んだのは御戸だった。

「フンッ…――――ッ!」

バシッ!!

鼻で小さく笑った時、御戸よりも遥かに高いジャンプを見せつけたのは誰でもない信助だった。
誰よりも高いジャンプが出来る信助だからこそ守れた。思い切りパンチングを繰りだし、ボールを飛ばした。雷門のゴールから少しでも距離を取る為に。

いくら弾き飛ばされても、何度も何度も立ち上がる。入学式の時、そんな天馬を見て自分も絶対、天馬と一緒にサッカーをしたいと思えた。

信助は自分よりこのフィールドを駆けまわっていく天馬の姿を見た。
そこには自分と同じように、だけど沢山転がっていたであろう天馬が立ちあがっていた。目線が合う事は無かったが、ポジションも、守る方法も違うけど、自分達はこのフィールドで一緒に戦ってきている。
だから、信助もまた自分のポジションへと戻った。


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