自分の周りに倒れている仲間達。
皆、もはや立ち上がる事すら出来ない。
化身も使えない。
戦う気力も、ない。

それは、“今”のキャプテンの良かれと思った作戦。口に出すのは簡単だったが、実行するにはあまりにも過酷な物で、その結果がこれ。
自分だけ、仲間の中心で立ち竦んでいる。

やっぱり、一年生の癖にキャプテンなんて向いていなかった。
周りに煽てられ、悠那にも大丈夫なんて言われて、キャプテンとしての責任なんてこれっぽちも理解していなかったんだ。
一回目の作戦が上手く行ったからって、調子に乗ってたんだ――…

何で、何で…こんな自分にキャプテンなんて任せたんですか。何で、俺なんですか。

――神童キャプテン…

「俺、…キャプテン失格です。皆を引っ張る事が出来ませんでした」

でも、ちょっとはキャプテンらしく出来たんじゃないかって思えた時だってあったんだ。
それは、ほんの一時かもしれない。いや、もしかしたら気のせいだったかもしれない。それでも、こんな自分でもキャプテンに一瞬でもなれたって事が嬉しかったんだ。誇りを、少しでも持てたんだ――…

天馬は、自分の愚かさを実感した。無責任を学んだ。自分には何も出来なかったと、無力を知った。
だからこそ、神童からの視線を逸らすしか出来なかった。自分の不甲斐無さで神童に顔向けが出来ないからだ。
責められるのだろうか、と天馬は恐れたのだ。
だけど、神童から出た言葉は天馬を責める物ではなかった。

「…天馬。お前なら出来る。俺には分かる」
「―!」

出来る?出来るなら、何故この試合に活かせない?出来るなら、何で仲間達はここで横たわっている?
神童の言っている意味が分からない。だけど、次に目が合った瞬間、自分と神童の空間だけになったかのように心に響いてくる。神童と自分との距離は近い。だけど、神童はそんなのはお構いなしに片方空いている腕を動かし、天馬の胸にある雷門のマークに指を差した。

「お前の武器は、そこにある」
「…!……俺の中に、サッカーが好きだって気持ち…」

決して、忘れる事のないこの気持ち。それは、自分が最も信じられる気持ち。
サッカーが大好きだ、という気持ち――…
きっと誰にも負けない。悠那にだって、負けない。円堂監督にだって負けない。サッカーが大好きだという気持ち。
何故その気持ちが溢れ出したか分からない。だけど、自分の武器はフィフスセクターの人間には持っていないであろう、サッカーへの想いだったんだ。

だからこそ、豪炎寺に出会えた。悠那と信助とサッカーが出来た。剣城を救えた。円堂監督とサッカーが出来た。色んな壁にぶつかった。色んな人がいるんだ、と分かった。
色んな出会いが、あった。

「…気持ち、」

神童が、小さく微笑みながら頷いた気がした。

試合は一度中断。流石の審判もこのまま試合続行は危ないと判断をしたのだろう。その判断に甘えて、アイシングを行うマネージャー達。
その時、ベンチでずっと何も言わず様子を伺っていた円堂が立ち上がり、天馬に声を掛けた。

「天馬、見てみろ」

円堂の声に、天馬は周りを見渡す。
周りは相変わらず息を荒くする仲間達の姿。特に酷いのは化身を扱っていた人達だ。彼等を見渡した後、円堂が改めて天馬に問いかけた。

「これがお前のやりたかったサッカーか?」
「俺のやりたかった…」

みんなを犠牲にして、ボロボロにして、革命や勝利にだけ捕らわれてサッカーをするのが、雷門のサッカー?いや、違う。それだとフィフスの人間となんら変わりない。
天馬は首を左右に振った。

違う、こんなんじゃない。自分がしたいのは――…

不意に蘇える、仲間達とのサッカーをしている時の思い出。
その中の仲間達は、沢山傷付いていたけれど、沢山苦しんでいたけれど、だけど、それ以上に笑っていた。楽しんでいた。サッカーを好きでいた。

「俺がしたいのは…!」

ハッ、と天馬は思い出す、
そうだ、自分がしたいのはこんな勝負に捕らわれるような、そんなサッカーじゃない。サッカーは、自分に努力、勇気、楽しさを沢山教えてくれた、そんな素敵な物だったじゃないか。
皆が、笑ってサッカーが出来てなきゃ、意味が無いんだ!

天馬は円堂をもう一度見返すと、彼はどうやら自分の言いたかった事が伝わった、と言わんばかりに歯を見せて笑った。それはまるで、太陽のように。希望はまだ消えていないと言わんばかりに。

「分かったな」
「――はい!」

――ごめん、皆。やっと、やっと俺がキャプテンになった理由が分かった気がするよ

天馬は皆のアイシングが終わったと共に、改めて頭を深く下げた。

「すみません!俺、間違ってました!」

それは、今まで自分の勘違いで皆のプレイを乱していた事についての謝罪だった。
いきなりの謝罪に、一同は何事だと顔を見合わせるが、天馬の言いたい事が伝わったのか、黙って彼の言葉に耳を傾けた。

「本当のサッカーを取り戻すには俺達が、本当のサッカーをしなくちゃいけなかったんです。……いつも通り、だから――」
「“いつも通り”ね、」

ふと、倉間が口にする。彼の発言に、天馬に一瞬だけ緊張が走る。
今更何を言っているんだ、と怒られるのだろうか。今更気付いた自分も悪かったけど、だけど今までの事を通してやっと気付く事が出来た。天馬は倉間を見つめる。
彼の表情は何故か、緩んでいた。
そして、彼は天馬の方を真っ直ぐに見つめた。

「やろうぜ、キャプテン!」
「倉間先輩…!」
「全員覚悟は決まっている」
「俺達はお前と本当のサッカーがしたいんだ」
「俺達の革命はお前の真っ直ぐな気持ちから始まったんだからな。」

倉間だけではない。霧野や車田、三国もまた天馬に言う。天馬だけじゃない。皆が皆、天馬とサッカーがしたいから、と。皆もまた、彼等の発言に強く頷く。
三国の言う気持ち。それに気付けたのは、神童のお蔭だ。天馬は静かに神童のいる方へと視線を送った。
彼はただ黙って、雷門の様子を見つめる。その眼差しはもう一人のキャプテンのように――…

『天馬』
「ユナ、」

ふと、声を掛けられる。そちらに目をやれば、そこには悠那の不安そうな、でも困ったように笑う彼女の顔があった。どうしたのだろう、と首を傾げれば彼女は一度目線を外すと直ぐに天馬に目線を戻した。

『あのね、天馬…私バカだった…私、あんな強力なチームで、しかもあそこに自分のお兄さんが居るって分かった時、焦ってて…自分しか見えてなかった…皆と協力する事の大切さを、サッカーの大切さを忘れてた…天馬の作戦にも、天馬が言うならって、人任せにしてた…』

気付いたら、天馬を追い込んでいた。自分の目的しか見えていなかった。そう悔やむ少女の姿を見て、天馬は小さく微笑むと、彼女の肩に手を置いた。

「ユナ、一緒にこの試合を乗り越えよう?お兄さんも、一緒に助けよう?」
『天馬…』

フィフスの手から、この革命で、彼女のお兄さんを皆で救うんだ。天馬は、そう告げ彼女に微笑みかける。悠那は天馬のその言葉を聞くと、徐々に自分の圧し掛かっていた罪悪感が抜けて行ったのか、直ぐに笑みを浮かばせた。

『ありがとう、天馬。楽しもうね、この試合』
「うん、楽しもう!」

このサッカーを楽しむ、その気持ちで皆を引っ張るんだ。
天馬は自分の胸に拳を当て、そう改めて思うと自分もまた力強く頷いた。

その時、ふわりと風が靡いた。
天馬の意志により誘われてきたのか、そのフィールドに、随分と心地よい風が吹き渡った。



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