前半戦で活躍した選手達は自分達の控室まで戻り、少し疲労を感じている体を休めるため、ドリンクを飲んだり筋肉を伸ばしてみたりとしていた。
そんな中、前半戦でかなり頑張っていたであろう天馬に、マネージャー達が近付いていき、声をかけた。

「すごいじゃない天馬っ」
「聖堂山と互角の勝負をしている、大したもんだぜ!」
「ええ、………」
「どうしたの天馬?」

ここは喜ぶべき所なのにも関わらず、天馬の表情は曇っている。その様子を見て葵が声をかけてみれば、天馬は苦笑したまま自分の腕に付いているキャプテンマークに触れた。

「俺、神童キャプテンみたいにちゃんとやれてるかなって」
「やれてるって、点だって取り返して。どっちかっつーとこっちが押してるじゃねぇか!」
「自信持って」
「そうそう」
「うん、」

マネージャー達の言葉がけも天馬はあまり納得のいかないような表情をしている。自信がないのだろうか、それとも別の事が気になっているのだろうか。どんな理由があるとしても、天馬がこの調子だときっとプレッシャーに負けてしまうかもしれない。
声をかけるべきだろうか、と天馬の様子を見ていた悠那が思った時、三国が天馬に近付き肩を叩いた。

「お前は十分、キャプテンとしての務めを果たしてる」
「ありがとうございます。神童キャプテンの思い、それに皆の思いを背負ってるから、何とかやれてるんだと思います。…でも俺、」
「心配すんな」
「お前の後ろには俺達が居るド!」
「俺達がしっかり支えてやる!」

三年生からの言葉かけに、天馬はうんと頷いてみせた。天馬がキャプテンというのは荷が重すぎたのでは、と考えたが、今はもうそんな心配はしなくても大丈夫な気もする。いや、それでも不安な事もあるが、もし天馬が不安に押しつぶされそうになっても先輩達や、自分達が天馬を支えてあげればいいのだ。

「はい、俺…少しでも神童キャプテンに近付けるように頑張りますっ」
『…?』
「僕達も応援してるからね!」
「ありがとう、」

少しだけ、天馬の言葉に疑問を感じてしまった。何故だか分からない。天馬がキャプテンになって目標を決めるのは別に個人の自由だからあまり気にする事はないけど、それでもやはり…どこか違和感を覚えてしまった。
そんな疑問を感じている間に話しは先に進んでいく。輝の言葉にうんと頷いていくメンバーに、天馬は小さく笑みを浮かばせながらお礼を言った。

「やっぱり重いのかな、キャプテンの責任って」
「うん……あ、でも、聖堂山と試合出来て嬉しいんだ。こわい相手だけど、皆本気でサッカーと向き合ってて、ホントにいいチームだなって思う」
「そっかあ、僕達もフィールドで戦いたいよ〜。っね、悠那〜」
『え?』

二人の会話をぼーっとしながら聞いていれば、信助がこちらを見るなり同意を求めてくる。それを聞いて思わず疑問符を浮かばせた。何故今私に聞いてきたのだろうか、と思いつつ離れて会話をするよりも近くで話した方がいいと思い、彼等に近付いて行く。

「悠那も早く聖堂山と戦いたいよね〜」
『あ、うん。そうだね』
「……、」
『天馬?』

ふと、天馬の視線が私の首元に来た。その視線を辿っていけば、そこにはいつぞや京介が私にくれたあの折り鶴。これが一体どうしたんだろうか、と首を傾げながら彼に声をかけてみれば、天馬数秒ぼーっとした後顔を左右に振った。そんな天馬に気付いていないのか、信助が天馬に再び声をかけた。

「天馬、僕の分も頑張ってね。悠那も後半頑張ってねっ」
「うん」

信助の言葉に天馬と悠那は頷いてみせる。そう、後半からは悠那も雷門の選手としてフィールドに立つ。天馬や剣城と一緒に革命を成し遂げる。大丈夫、足は引っ張らない。この革命を終えて皆はやっと自由を掴むんだ。
そんな様子を見ていた狩屋がドリンクを片手に少し笑ってみせた。

「おいおい、敵を褒めてどうする?」
「っあ、そうだね」
「だが、天馬の言う事も分かるぜよ。あいつら中々骨があるきに」
「確かに、聖帝が監督を務めるチームだなんて信じられないですよね」

聖堂山が強いという事は知っていた。舐めていた訳ではない。だけど、最初は最弱と呼ばれて、部員も少なくなってしまい、戦力外だった雷門が今ではここまで来ている。強さは互角に近いだろう。流石は聖帝イシドシュウジ…いや、豪炎寺修也というべきか。彼の育てたチーム、それは素晴らしいチームだという事は理解出来た。

「――天馬」
「! はいっ」
「キャプテンの力が本当に必要になるのは、ピンチの時だ。その時、お前がチームの皆を支える事が出来るか、それが大事なんだ。その事を忘れるな」
「(ピンチの時に皆を支える…)はい、頑張りますっ」

天馬の表情がやっと晴れたような気がした。

改めて気合いを入れ直した後、雷門の選手達は準備の後、会場に行こうと並んでいた。さっきまで緩んでいた表情を少しだけ引き締めて、これから始まるであろう後半戦に挑もうとしていた。だが、相手チームの聖堂山がまだ並んできていない。まだ控室に居るのだろうか、と疑問符をそれぞれ浮かばせていた、その時――…

ゴゴゴゴォォッ!!!

「「「「!?」」」」

いきなり地面が…いや、このスタジアムが大きな音を立てて揺れ出した。あまりの揺れに、私は目の前に居たマサキのユニフォームの裾を掴んだ。この揺れが、数分続くと同時にいつもより空との距離が縮まったようにも感じた。そして、揺れの間に感じた妙な浮遊感。一体このスタジアムに何があったのか。皆して周りを見渡してみれば、次には慌ただしい足音。そちらの方を見てみれば、珍しく焦ったような表情を浮かばせている逸仁の駆け寄ってくる姿だった。

「悠那!!」
『逸、仁さん…あの、今の一体…』
「それは分からない…だが、俺はお前に伝えなきゃならねえ事が出来たんだ」
『伝えなきゃならない事…?』

ゴクリと、思わず生唾を飲み込む。周りの皆も落ち着きを取戻し、こちらへと一斉に振り返る。一体何を伝えられるのか。早く知りたいと思うと同時に、何故か怖くなった。聞いてはいけない、気がした。聞いてしまったら、私はきっとどうすればいいか――…

「お前の兄貴…上村裕弥は、生きてる」

分からなくなってしまう。
逸仁の背後から、今度は沢山の足音が聞こえ、立ち位置上その姿も見えてしまう。混乱する中、そちらの方に目をやってみれば、先程の聖堂山とはまた違ったユニフォームを着て、違う顔をしたメンバー達がこちらに歩み寄ってきた。
近くまで来たと同時に、私と逸仁の横に立った人物が居た。目の前に居た逸仁が目を見開き、呆然としている。思考が上手く回らないにも関わらず、私の目はその人物を捉えようとしていた。
そして、

「久し振り、逸仁」
「お前は――ッ!!」

《なんという事だ!!アマノミカドスタジアムがその姿を変えていく!!聖堂山中対雷門中ホーリーロード決勝戦後半戦は天高く聳え立ったこのアマノミカドスタジアムで行われる事となりました!!

ん?ええええ!!?し、失礼しました。ここでメンバー交代です!》

《なんと、聖堂山は監督、選手全てをメンバーチェンジしてきました!!これは如何なる辞典でもフィフスセクターはルール変更できるという少年サッカー法第五条に基づくメンバーチェンジ…との事です!》

『……う、そ』

この人が…上村裕弥…?




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