一気に相手の陣地に入り込んだ天馬。そのまま剣城にパスをし、剣城が必殺技でゴールを割る。相手のゴールキーパーは必殺技を出そうとするも、間に合わなくゴールが決まる。
ここで雷門は天馬の作戦により同点に追いついたのだ。
「やったー天馬！」
「いいぞ、追い風が吹き始めてきた！」
「聖堂山相手に一歩も引かないってすごいよ！」
『すっかりキャプテンだね、天馬』
神童よりかはキャプテンらしくはないけど、それでもこの雷門の皆を引っ張ろうとしている。皆も天馬を認めて付いて行っている。ベンチで盛り上がる中、茜が残念そうに神童の事を思っていた。神童のシュートする姿も見たかった、と。さすが茜の気持ちには水鳥も理解出来たのか、そうだなと声をかけた。
……………
………
「これで同点かあ…」
「追いついたド！」
「ちゅーかなんかイケそうな気がしてきたっ」
「おう！このまま一気に決着付けちゃるぜよ！」
同点に追いつけた事は雷門に取ってはかなりの希望になる。これでまた最初からスタートとなる。もしかしたら、この勢いでいけばこの決勝戦は浜野の言う通りイケるのかもしれない。
この試合を見てくれている神童にも、安心して見て貰えているのかもしれない。ふと、視線を天馬にやってみれば、天馬はさっきまで喜んでいた表情をしていたが、直ぐに真剣そうな表情に戻していた。気持ちを落ち着かせているのだろう。そんな天馬に霧野が声をかけた。
「天馬！こっちが押してる！勢いに乗ってこうぜ！」
「はい！」
霧野の言葉がけに、天馬はしっかりと返事をし、再び目の前を見る。雷門が今度は点数を取ったので、聖堂山からのキックオフとなる。ポジションは最初と変わらないまま。円堂は豪炎寺の方へと視線を移した。どう出るんだ、と目で訴えるかのように。だが、その視線を受け止めたのは豪炎寺ではなく、隣に座っていた虎丸だった。虎丸は円堂の様子を見ると、豪炎寺に何を言う訳でもなく、ただ笑みを返したのであった。
ピィ―――ッ！！
試合開始のホイッスル。それを合図に聖堂山の選手が一気に動き始めた。堤美からボールを受け取った恋崎が上がりだし、彼からボールを奪おうと錦もまた上がり始める。が、恋崎は錦がカバーに入る前に日向にパスを出す。
パスを受け取った日向は速水に追われながらも巧みなドリブルで雷門陣内へ上がってくる。
「いけ！日向！」
「任せろ！」
「俺が止める！」
斬り込んでくる日向の前に天馬がすかさず立ち塞がる。だが、日向はドリブルをするスピードを落とさず向かってきていた。そして、十分な距離まで来ると、彼はボールを高く蹴り上げ、自分もまた高く飛び上がってみせる。すると、彼の蹴り上げたボールは稲妻を身に纏い、日向の蹴りにより四つに分散。そのボールは天馬へとぶつかっていき、天馬はブロック出来ずに日向の進行を許してしまった。
そんな日向を止めようと狩屋も上がったが、日向は恋崎にパス。その恋崎を止めようと天城も上がってくるが、彼もまたブロックがつく前に黒裂へとパス。黒裂に渡らせまいと霧野もギリギリでボールを奪おうとするも、黒裂の方がボールに触れるのが早く、抜かされてしまった。車田のスライドを交わし、遂に黒裂は三国と一対一となった。
「狩屋！」
「やらせるかあ！！」
「はあああ！！――“炎魔ガザード”！！」
「化身！？」
黒裂にシュートを打たせまいと、天馬がDFの中で一番早く動けている狩屋に指示。そして、黒裂もまた、邪魔はさせまいと自身の化身を生み出した。それはまるで紅蓮の赤を身に纏ったような炎の化身。
雄叫びを上げると、黒裂はガザードの手の平に乗り、そこからボールを蹴り込んできた。
「“爆熱ストーム”！！」
『あの技って…！』
いつぞや豪炎寺が生み出した必殺技。化身もどことなく豪炎寺の必殺技に出て来たあの魔神とにている。豪炎寺の率いるチームとはいえ、ここまで来ると改めてあの人は本気で雷門と戦いに来ているのだと、感じられた。それが、不覚にも嬉しいと感じた自分は可笑しいのかもしれない。だけど、まるで豪炎寺と戦っているみたいで見ていても楽しいのだ。
早く、早くフィールドに立ってあの人達とサッカーをやりたい。
そんな事を思っても、今は雷門のピンチ。あんな必殺技が放たれてしまった今、三国に止められるかが不安。せっかく追いついたあの一点を無駄にしたくない。そんな時、何とかゴール前に間に合った狩屋が、必殺技の構えを取った。
「“ハンターズネット”！！」
狩屋の爪の引っ掻く後が、ネットになりボールを防ごうとする。だが、それはいとも簡単に敗れてしまい、今度こそ三国が止める番となった。三国もまた必殺技の構えを取り、高く飛び上がる。
「“フェンス・オブ・ガイア”！！
ぐぅうううっ！！」
ピシっ…ドカーンッ！！
必殺技を出して、少し威力を弱められても所詮は化身必殺シュートと普通の必殺技では、圧倒的に化身の方が上回っていた。岩の壁に亀裂が走ると、そこを中心に砕けていき、ボールは勢いよくゴールの中へと入っていった。
勢いに乗っていたのも束の間。雷門は、はたまた一点差を付けられてしまった。
「聖堂山は技や体力だけじゃなく、精神力も鍛え上げている」
「流石は豪炎寺、というべきか」
「(豪炎寺、伝わってくるぜ。聖堂山のプレーから、お前のサッカーへの想いが)」
これぞまさしく最高のチーム。豪炎寺の率いる、豪炎寺が最強だと思うチーム。そう簡単に破る事は出来そうにない。呆然と電光掲示板を見上げる天馬。そんな天馬に黒裂は余裕そうな笑みを見せながら彼に語りかけた。
「これが聖堂山のサッカーだ」
動きに無駄がなく、誰がシュートをしてもおかしくない連携プレイ。聖堂山というチームの凄さを改めて理解した天馬。聖堂山は、雷門より一枚上手だった。観客から見たら良い試合、雷門からしたら少し不利な状態、そして、この試合をモニターで見ている、フィフスセクターを作ったその“人物”にとっては実に良くない傾向と見ていた。
「聖堂山サッカーを真髄はチームワークの統制だ。しかし今、選手は思い思いに行動し始めている。これはフィフスセクターの目指すサッカーではない」
「しかし…」
「まあいい。暫くは好きにさせてやろう…っふ、ドラゴンリンクを使う時が来たか…」
「………」
先程までの試合の映像を見ながら、一人口元を歪ませるその男性。二人のSPはその人の言葉に困惑するもそれ以上は何も言わなかった。
そして、その様子を部屋の奥でじっと静かに見ていた少年は、無表情のまま映像に映る雷門イレブンを見ていた。
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