「明日決勝戦だな」
『逸仁さん…』

場所は雷門町の公園。サッカーの練習も終わり、制服に着替え終わった後、携帯を開いてみればそこに一件のメールが入っていた事に気付いた。それは逸仁からのメール。“雷門町の公園で待ってる”という一文だけが入っており、悠那はよく分からないまま、そのまま公園へと目指した。
そこに行けば、携帯を弄りながらベンチに座っている逸仁の姿。悠那に気付くと、逸仁は小さく笑みを浮かばせると、持っていた携帯をポケットの中に入れて立ち上がった。
そして、何を言われるかと思えば明日の決勝戦の事だった。確かに雷門は明日で決勝戦を迎える。つまり、残る革命も明日で決まるのだ。まさか、それだけを言う為に呼んだ訳じゃないだろう。

『それだけを言う為に、呼んだ訳じゃないですよね…』
「何だ、分かってたのか。まあそうだな」
『どうして、環に裕弥さんの事…』

別に、逸仁さんがいつその事を話そうが私には関係ない。ただ、どうしても気になった。確かに逸仁さんと環は裕弥さんの事知ってたから逸仁が妹にその事を話すのは無理ない。だけど、こちらもこちらで心の準備が必要だった。
逸仁さんにそう尋ねれば、逸仁さんはへらっとした表情を戻し、苦笑の笑みに変えた。

「迷惑かけたか?」
『いえ…あ…少し、』
「っぷ、言うようになったな。学校でなんか言われたか?」
『はい…でも、環は分かってくれました…』

恐かった。環が私の友達でなくなってしまうんじゃないか、と。軽蔑されていたらどうしようと。だけど、そんな心配はいらないみたいに、環は普通に接してくれていたし、決勝戦も応援してくれると言ってくれた。

『私は…多分、逸仁さんに感謝してるんだと思います。きっと、私は環に何も言えなくて、決勝戦に挑んでたかもしれません』
「感謝、ねえ…」
『だから、ありがとうござました』

軽く頭を下げて言えば、逸仁さんは再びっぷと笑って見せる。人が感謝してお礼を言っているのに、やっぱり逸仁さんはいつも通りの対応をしてきた。

「んじゃ、俺はその感謝をありがたく受け取らせてもらうよ。感謝ついでに、俺がお前をここに呼んだ訳を話そうか」
『やっぱり他にも訳があったんですね』
「まあな。上村について新しい情報が入った、と言えば分かるか?」
『新しい、情報…?』

まさかの逸仁の言葉に、悠那は驚きの表情を隠せなかった。逸仁は裕弥の情報を殆ど知っている。それ以上の情報を、フィフスはまだ持っていたとなると、かなり重要な物に違いない。逸仁はその情報を手に入れたのだろうか?と、疑問符を浮かべていれば、逸仁は悠那の思考を読み取ったかのように、再び口を開いた。

「っま、俺はもうシードじゃないから、残念ながらその情報を手に入れてない」
『そう、なんですか…』
「けど、強力な助っ人が今俺には居るんだ。確か名前何だっけな…緑川なんとかって人と、吉良なんとかって人がフィフスの情報を探ってんだ」
『緑川…吉良…』

懐かしく聞き覚えのある名字が逸仁の口から出てきて、悠那は更に目を見開かせた。もしかして、その二人もまた鬼道みたいにレジスタンスに協力しているのだろうか。もしかして、その二人もまた逸仁さんみたいに情報を探っているのだろうか。

『でも、何でそんな事を私に…?』
「俺は、一つでも多く、あいつのしたかった事を知りたかった。お前もそうじゃないのか?」
『そうですけど…』

それとこれとは若干違う気もする。だけど、気になるのも事実だった。裕弥さんの事をもっと知りたい、自分の知らない所で自分を守ってくれていた兄の存在をもっと知りたいと思えたんだ。

「明日には、嫌でも分かるかもしれないけどな…」
『え…?』
「いんや、何でも。頑張れよ、決勝戦」
『は、はい』

はぐらされた感じはあったけど、逸仁さんは優しそうな笑みを浮かばせて私の頭を撫でてきた。今はまだ私は知らなくてもいいのかもしれない。明日は私や雷門の皆にとっては大切な試合。私達の今まで繋いできた革命がかかっている。気にしなくていい。明日の事だけ考えていればいいんだと、逸仁さんは言いたいんだ。
なら、せめて。せめて私の決意を逸仁さんに言わなくちゃいけない。逸仁さんの手が頭から離れた所で、私は逸仁さんを真っ直ぐに見据えた。

『逸仁さん、私…明日は、裕弥さん…いえ、

――兄さんの為に試合をやります』
「は…?」
『裕弥さんは今まで私の事を守ってきてくれました。でも、私は何もしてない。何も返せてない。そんな私が、裕弥さんに唯一恩返しが出来るのは、兄さんの大好きなサッカーを守る事。つまり、革命を成し遂げる事。
私は、兄さんの為に明日の革命を成し遂げます』
「い、いやいや…お前の気持ちは分かるぞ。言ってる意味も…けど、雷門の皆は…」

それを許してくれたのか?と言いたげな目を私に向けてくる。自分の兄である上村裕弥の生い立ちを逸仁に聞いたように話したあの日。私の中ではもう、自分のしたい事は決まっていた。きっと他の人からしたら無責任で自分勝手な奴だと思われるかもしれない。だけど、これはもう決めた事。もう、曲げる事はしないだろう。

『もう、決めたんです。これは、私の恩返しなんです。兄さんに向けてでもありますが…逸仁さんにも当てはまるんです』
「俺にも…?」
『はい。逸仁さんも、サッカーが好きになってくれた。それは裕弥さんにとっても、私にとっても嬉しい事なです。やっと好きになってくれたんです。明日は絶対に失敗する事はできません。だから、私は恩返しとして、明日のサッカーをやります』

そう言って、笑みを浮かばせてみれば、逸仁さんもまた困ったように笑みを浮かばせて頷いてみせた。

…………
………

『天馬…今日も遅い』

もうとっくに7時を過ぎているというのに、まだ帰って来ない。最近いつもこうだ。部活が終わっても私だけ帰らせて自分はどこかでサッカーの練習をしている。そして、帰ってきたら私も秋姉さんとも会話しないでお風呂に入って、ご飯食べて、さっさと眠っていた。明日は決勝戦だっていうのに、今日も遅くまで帰って来ない。

『明日…』

いや、集中しろ私。明日は大切な試合。負ける事は絶対あってはいけない。逸仁さんや、環。裕弥兄さんの為にも私は明日の試合で天馬達と一緒に勝って、本当のサッカーを取り戻すんだ。
ふと、悠那の視線が机の上に置いてあるいつぞや剣城に貰った折り鶴に移った。
これは剣城が悠那とサッカーをやりたいという気持ちが詰まった折り鶴。もう、約束はお互いに果たしているが、それでも肌身離さず持っていた。
悠那は傾いているボロボロの折り鶴を見るなり目を細めて、つんと折り鶴をつついた。

『明日、雷門が勝ちますように…』

願掛けなんてらしくないが、それでも言ってしまう。悠那に指で押されたその折り鶴は一度傾いて見せるともう一度元の位置に戻った。その姿が願いを受け入れるみたいに見えて、悠那は小さく笑みを浮かばせた。
そして、自分の部屋の電気を消すと、早くもベッドの上に寝転び、就寝した。



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