次の日もまた午後の部活で、セカンドチームと練習試合を始める事になったファーストチーム。
ユニフォームに着替えて体を解す選手達。
今度こそ負けないぞ、という気持ちで練習試合に臨むファーストチーム。こちらこそ負けないぞという気持ちを入れるセカンドチーム。
そしてこの練習試合は天馬がキャプテンとして学ぶ事がある。前の日にだって遅くまで悠那とキャプテンとしてどうするべきかを考えていたのだ。天馬は体を解しながら、ひたすら自分がキャプテンとして足りない事を振り返った。

「(もっと全体を見るんだ。相手の動きに注意して…)」

昨日の自分は焦り過ぎてキャプテンとしての力を発揮出来ていなかった。今まで普通の選手として試合に挑んでいた天馬だからこそ、いきなりのキャプテンの役割で戸惑っていたが、いつまでも分からないの一点張りではいけない。
心の中で密かに思う天馬。そんな彼をベンチで円堂は黙って見ていたが、こちらに来た春奈により視線は逸らされた。

「円堂監督、剣城君が来てないんですけど…」
「剣城が?」

そういえば先程から見ていないようにも思えるあの剣城の存在。円堂は昨日、この学校に残って夏未のお弁当を食べていた頃、冬花から電話を貰った。それは、剣城が豪炎寺の妹である夕香と一緒にどこかへ行こうとしていたという事。
見たというだけで詳しくは分からなかったが、剣城はもう雷門の大事な仲間である事は変わりない。円堂は深くは考えずに、いつものように笑みを浮かばせた。

「心配ない。剣城の事は聞いてる」
「え?」
「輝、剣城の代わりにFWに入れ」
「はいっ!」

今回は前回練習試合出来なかったメンバーがフィールドに入る。速水の入っていたポジションには悠那が。剣城の入っていたポジションには輝が入った。
十分に体を解した所で一人ひとりがポジションに入った時、試合を始めるというホイッスルが鳴り響いた。
先攻はファーストから。倉間が輝にパスをして試合は動かされた。

「よし、いけ!輝!」

いくら普段ベンチに居るとはいえ、輝もまた実力者。ドリブルで上がっていく輝に、天馬は次の指示の為に周りを見ようとするが、相手はそんな天馬に隙を作らせず、攻め込んできた。
輝の蹴っていたボールを石狩に奪われてしまう。

「あ…っ」
「あっちゃあ、いきなりかよ…」
『天馬…』

ボールを奪われてしまい、輝もどうしたらいいかとそのボールの行方を見つめる。ベンチで見ていた水鳥もまた、いきなりボールを奪われた事に頭を抱えた。
そして、直ぐに戸惑いを隠せずにいる天馬。早くもどうしようと焦っている。そんな彼を見ているだけしか出来ない悠那は、ひたすら彼がキャプテンとして力を発揮出来るようにと祈るだけだった。

ボールは霧野に渡り、青山と攻防戦を繰り返している。ここでまた奪われたら前回と同じような結果になるだろう。

「霧野!負けんじゃないぜよ!」
「霧野先輩!車田先輩に!」

苦戦中の霧野に天馬が指示を出す。霧野もボールを守りながら目線を上げてみれば、車田がこちらを見ながら上がっていくのが見える。車田は今誰にもカバーされていない。パスをしようとボールを少し転がして、車田に向けて蹴り上げるようとするが、天馬の指示と霧野の動きを見逃さなかった青山は直ぐにボールを奪ってみせた。

「あ…」
「石狩!」

再び天馬は戸惑う。青山は石狩に再びボールを渡して、石狩はその場からシュートを放つ。だが、ここでも三国はなんとかパンチングでボールを弾き飛ばし、ゴールを守ってみせた。
そんな三国に周りの皆はナイスセーブだと言い、次に備えようとする。天馬もまた三国がゴールを守った事により、安心はするもののやはり前回と同じような結果になってしまった事に顔を曇らせていた。そんな天馬を見かねてか、円堂はベンチから立ち上がり、声を上げた。

「よーっし、今日の練習はここまでだ!」
「…!」

気付けば空の色も赤に染まりかけている。円堂の練習終わりの言葉に、天馬は更に顔を曇らせた。また、ここで終わってしまった。また自分はキャプテンとして力を発揮する事が出来なかった。次々とフィールドから上がろうとしていく仲間達の背中を、天馬はただひたすら罪悪感を感じるしかなかった。

『天馬』
「あ…ユナ…」
『また暗くなってる』
「だって…」

円堂に目線をやっていた天馬だったが、不意に悠那からの声かけ。彼女の方を見てみれば苦笑の笑みを浮かばせながら天馬を見据えている。
悠那も何故天馬が落ち込んでいるのかは分かっている。今日の練習も天馬はまともな指示が出来なかったのだ。悠那から視線を外す天馬。また自分じゃダメだと思いつめているのだろう。悠那は天馬の肩に軽く触れて、小さく微笑んだ。

『今日も反省会しよっか、天馬』
「…うん、」

落ち込む天馬の背中を押して、ようやくフィールドから出たのだった。

…………
………

場所は変わり、天馬とは雷門総合病院へと来ていた。理由は言わずもがな神童の見舞い。神童に会って、天馬の今の気持ちを聞いて貰おうという事だ。昨日と今日に続き天馬は何も出来なく、精神的に来ているのだろう。悠那が天馬の傍に居ないのは、彼女がそんな天馬を知ってあえて身を引いたから。
天馬も正直、それで良かったと感じている。だが、神童に会いたいと思った束の間、新たな難題が天馬を襲った。

「でも、もうそろそろ面会の時間が…」

面会の時間の終わりがかなり迫ってきていた。つまり、天馬は神童に会えない。だが、それだけで納得のいかなかった天馬は思い切り頭を下げた。

「お願いします!」

それはまるであの時の医師に頼み込むみたいに深く頭を下げて、自分の意志を通そうとしている。看護師にとってもここは病院のルールを守って無理だと言わなければならい。だが、ここまで真剣に頼み込む天馬の姿が普段とは違う事は分かる。きっと、今彼は大きな壁にぶつかって、相談したい相手が神童なのだろう。彼の隣にはいつでも悠那が居た気がするが、彼女には話せなかったのだろうか。
何にせよこんな状態の天馬を帰す程冬花も酷くはない。冬花は困ったように笑みを浮かばせながら口を開いた。

「分かったわ。でも、ちょっとだけよ?」
「!」

冬花からの許可が下りて、天馬も驚いたように顔を上げたが、直ぐに神童の病室へと向かった。
410室。その数字の下には神童拓人という文字。ここに神童が居ると分かった天馬はドアを軽くノックをした。
中からどうぞという声が聞こえ、天馬は失礼しますと言い扉に手を伸ばし開けた。

「天馬か、練習は終わったのか?」
「はい…」
「どうした?そんなとこ突っ立ってないでこっちへ来たらどうだ?」
「はい、」

中に居た神童は、ベッドの上で眠りもしないで静かに本を読んでいた。入ってきたのが天馬だと分かると、直ぐに本を置き病室に招き入れる。笑みを浮かべる神童とは違い、天馬の方はやはり曇りの表情を浮かべている。中に入ろうとする天馬だが、視界に入った神童の痛々しく包帯を巻かれた足を見てしまい、怯んでしまったが、直ぐに神童の方へと歩み寄った。

「お前が悠那と一緒じゃないって珍しいな」
「…いつも一緒って訳じゃありませんから、」
「っふ、それもそうだな」

天馬にとっては何となく言ったフレーズだが、神童はこの似たようなセリフを悠那から聞いたのを覚えている。そして、天馬の様子からしてこれはかなり悩んでいるようにも見える。神童は小さく笑みを浮かばせながら次の話題に移った。

「いよいよ決勝戦だな。準備は進んでいるか?」
「はい…」
「すまないな、こんな事になってしまって。出来れば、最後まで一緒に戦いたかったけど、ちょっとそれは無理そうだ。悠那にも、あんな事を言っておきながら、合わす顔もない」

困ったように笑って見せる神童。怪我をしたのは神童の無謀な行動であり、悠那の事もそうだった。何故怪我した事を早く言わなかったのかと、もう少しでサッカーが出来なくなってたかもしれないという事を。
革命を一緒に頑張ろうと…
神童のその様に、天馬もまた困ったようにするも、再び神童に振り返った。
そして、

「すいません!俺、やっぱりキャプテンなんて出来ません!俺なんかがキャプテンやってたら、チームが無茶苦茶になって、俺には…キャプテンの代わりなんて無理なんです!」
「……」

神童が、今の天馬の言葉を聞いて、思い出すのは今までの天馬の行動。風という名の革命を起こし始めた天馬の行動。悠那も天馬と一緒に革命を起こしていたが、それでも天馬にキャプテンになってもらった。
それは何故か、彼女もまた天馬に救われていたからだ。天馬に、誰もが救われていたのだ。だからこそ、神童と円堂は天馬を選んだのだ。

「天馬」
「……」
「お前なら出来る。俺には分かる」
「!………キャプテンっ、」

もう何人にもその言葉を聞いたつもりだったのに、神童から言われた瞬間、天馬の中で何故かどんどんと自信がついてくるのが分かった。神童の真っ直ぐとした目に、天馬は自信を貰ったのだ。
そして、嬉しそうに神童へと改めて頭を下げた。頼み込む為のものじゃない、感謝の意味を込めたお辞儀で、天馬は神童の病室を後にした。

…………
………

「“お前なら出来る”か…
(俺、やってみます。皆をまとめて、絶対勝って、サッカーを必ず取り戻して見せます!)

…ん?あれ?」

病院からの帰り、天馬はひたすら神童の期待の言葉を頭の中でリピートしていた。元々キャプテンだった神童のその言葉はやはり天馬にとって何となく自信がつくようだった。もうあの曇った表情はない。
改めて気合いを入れた天馬。だが、考え過ぎてしまったのか、天馬の帰る木枯らし荘は少しだけ過ぎていた。

「行きすぎちゃったっ」
「松風」
「!」

改めて木枯らし荘の方へ戻ろうと駆け足をしようとすれば、後ろから剣城の声が。天馬がその声に転げそうになるが、顔を声の聞こえた方へ向けた。だが、そこには私服でもなければ制服でもない剣城のボロボロの姿が目に映った。今日、部活に来ていないというのに、彼の着ているユニフォームはかなり泥が付いている。その姿に、天馬は目を見開かせた。

「剣城!?どうしたのその格好?」
「松風、お前にはある技を特訓してもらう」
「ある技?」
「“ファイアートルネードDD”。ファイアートルネードを元に、より威力を高めた合体技だ」
「“ファイアートルネード”!?それって、豪炎寺さんの必殺技…!」

『天馬…遅いな…』


next→



prevnext


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -