場所は変わり、ユニフォームに着替えた天馬達はグラウンドに集まっていた。円堂も監督に復帰し、また練習を見て貰えるし、何より今日をもって新しいキャプテンが生まれた。
今日は一体どんな練習メニューになるのか、悠那は内心楽しみにしていた。

「いいか皆。決勝戦の相手、聖堂山中の監督は、あのイシドシュウジだ。聖堂山イレブンは、完璧と言っていいほどのチーム。ハッキリ言って、弱点は全くない」
「弱点がない?」
「ああ。その上、選手達は全員がエースストライカーだと言ってもいいほど得点力を持っている」
「どこからでも得点が奪えるって事かあ…」
「確かにすごいチームでしたもんね。準決勝なんて圧勝でしたし…」

円堂の大体の説明で、狩屋が呟くように言う。輝もまたテレビで中継されていた聖堂山中の試合を見ていたらしく、いかに聖堂山がすごいチームなのか実感していた。新雲学園だけでも、あれだけ苦戦したというのに、どこからでも得点を奪えるとなると守備が大変だろう。早くも、一年生に不安の表情が現れてしまい、先輩達もどうすればいいのかとざわつき始める。
そんな不安の色を出した彼等を見渡した円堂はふっと笑みを浮かばせた。

「だが、全員の力でぶつかれば必ず勝てる。

…ん?お、来たな」

ふと、このグラウンドにある階段の方から何人かの足音が聞こえてきて、円堂もまた待っていたと言わんばかりにそちらの方を見たげた。誰が来たのだろうか、と視線を追っていけば、そこには今自分達が着ている物とは別の色をしたユニフォームを着ている少年達が集ってきていた。
彼等に見覚えがあった天馬と悠那が、あ、と声を漏らす前に、近くに居た一乃と青山が声を上げた。

「お前ら…!」
「知ってる人ですか?」

輝が不思議そうな表情をしながら、一乃と青山に尋ねる。思えば、彼等を知らないのは輝と狩屋だけだろう。自分達が今着ているのはファーストのユニフォーム。だけど彼等が着ているのはセカンドのユニフォーム。

「元、サッカー部員だ…」

そう、セカンドである一乃と青山の元チームメイト達だったのだ。だが、彼等はあの入学式の日、辞めていった筈。そんな彼等がもう着る事のなかったあのセカンドのユニフォームを身に纏って雷門イレブンの前に立っているのだ。
二人して驚いていれば、セカンドの中で一番背が高いと思われる石狩が口を開いた。

「三国さん。先輩達の活躍はずっと見てました」
「俺達にも手伝わせて下さい。力になりたいんです」
「石狩、星野…皆…」

彼等もまた、一乃や青山と同じく天馬達のサッカーを見て部員として戻ってきた。自分達は戦う事が出来なくても、雷門の勝利の為にと、こうして再び選手として来てくれたのだ。セカンドのキャプテンをしていた一乃は、その石狩達の真剣そうな目を見て、何とも言えない感情が溢れだしてきた。
そんな一乃の肩を傍に居た車田が自分の手を乗せて、笑みを浮かばせた。

「一乃、こいつら良いとこあるじゃないか」
「…はいっ」

車田に仲間を褒められた事により、一乃は何故だか誇らしく思え頬を緩めながらも胸を張り返事をした。

…………
………

改めて練習が始まり、その内容は天馬のキャプテンとしての役割を任せたので早くも慣れて貰おうと実戦式となった。ファースト対セカンド。一乃と青山は元セカンドなので、せっかくだからとセカンドの方に戻って、ファーストと勝負する事に。悠那、信助、輝はベンチからのスタート。
一乃の左腕にあるのは緑色のキャプテンマーク。フィールドに立った瞬間、一乃はセカンドのキャプテンとして振る舞っていた。
天馬もまた、神童が今まで付けていたその赤いキャプテンマークを腕に通すと、真剣そうな表情をしていた。

ピ―――ッ!!

試合開始のホイッスルが鳴り、セカンドからのボール。吉良が石狩にボールを渡し、動き出した。

「上がれ!石狩!」

一乃の声が響いてくる。改めて一乃は石狩達のキャプテンだったんだと、思わされたが、こちらも負けては居られない。ボールを持って積極的に上がってくる石狩を見て、倉間がフッと口角を上げた。

「いきなり突っ込んできたか!」

バシッ

「な!」
「へっ」

突っ込んできた石狩に、まず勝負をかけたのは倉間。石狩からボールを奪ってみせた倉間はどうだと言わんばかりの表情をしながら、そのままセカンドの方へ突っ込んで行こうとする。だが、それでも一乃は焦らず次の指示を出した。

「利巣野!茂日!」

二人の名前を呼び、攻め込んできた倉間の目の前に二人が立ち塞がり、倉間の進行を止めた。どうすればいいのか、と倉間がボールの上に足を乗せていれば、それを見ていた天馬が声を上げた。

「倉間先輩!…えっと、パス?誰に…?」

声を上げたはいいが、今思えば天馬はボールを持っている人しか見ていなかった。誰にパスを出させたらまた攻め込めるようになるのかと、天馬が一度倉間から目線を外して周りを見渡す。倉間がパスを出しやすくって、誰にもマークに入られていない選手はどこだ、と天馬が忙しなく見渡している間、倉間は二人からの攻撃で苦戦している。ボールを保持しようと足掻いてみるものの、茂日に取られてしまい、再びセカンドが攻め込んできた。

「倉間先輩!…っ、」
「天馬!指示が遅いぞ!」
「はい!」

指示を出すのが遅くなってしまった事によりボールはセカンドへ。その事で天馬がしまったと目を強く瞑れば、車田からの指摘。天馬は今度こそ遅れないよう気を付けて、守りに入った。

「石狩!」
「渡すか!」

茂日が石狩へとパスをしようとボールを蹴れば、それに反応した狩屋がさせまいと上がってきた。ギリギリの所で狩屋がそのボールをカットしてみせた。ナイスとベンチに居た信助が言うが、まだ勝負はこれから。一乃は素早く指示を出してきた。

「利巣野!」
「狩屋!錦先輩にパスだ!」

一乃の指示に天馬も負けてはいられないと言わんばかりに自分も狩屋に指示を出した。ボールを保持した狩屋はボールを奪いにきた利巣野を軽く交わしてみせると、天馬の指示通り錦へとボールを上げる。
錦ならマークも付いていない。今度こそ大丈夫だと天馬は思っていたが、ボールを受け取ろうとしていた錦の前に桃山が現れてそのボールを頭でキャッチしてみせた。見事にパスカットされた事に、天馬はまた項垂れた。

「天馬、今のは左だ。浜野ががら空きだったぞ。もっと周りをよく見るんだ」

霧野からの声を聞いて、左を見てみれば浜野がこちらに向けて手を振っている。霧野も困ったようにするも、なるべく天馬にアドバイスを送る。霧野もまた、神童と並ぶくらい支持力がある。ディフェンスの要でもある霧野のアドバイスは心強いが、先程よりも指示をするのが困難になってきているのは気のせいじゃないだろう。
注意力が足りなかった事に、天馬は顔を伏せて自分を責めるも、直ぐに顔を上げた。

「……はい!」

改めてキャプテンの大変さを学んだ天馬。今ので全ての事を知った訳ではないが、自分がしなくてはいけない事は分かった。返事をしてみせた天馬は直ぐにこの試合に目を向けた。

だが、分かってきたとはいえ今日初めてキャプテンという物をやった天馬。そうそう上手くいく筈もなく、ボールを奪う事が出来てもパスが上手く繋がらなくセカンドとファーストの間を行ったり来たり。
狩屋に再び、錦へとパスをするよう天馬が指示を出すが、動きを読んでいたかのように、青山がカットして見せた。

「(ダメだ…俺の所為で、チームの連携がおかしくなってる…)」
『天馬…』

自分の思い描いていたキャプテンの役割がこんなにも苦労するものだったとは。いや、苦労する事だなんて今までの神童を見てきて分かっていた筈だが、こんなにも大変だったとは思ってもみなかった。
神童がキャプテンで、指示するのも神童で、自分達を引っ張ってくれるのが、当たり前だと思っていた自分が、とても恥ずかしくって悔しい。
フィールドの上で、立ち尽くす天馬の背中を見ていた悠那。今にも天馬がキャプテンを辞めようとしているようにしか見えなくてこちらも、表情を曇らせた。
その時、

「松風!!」
「っ!」

剣城の天馬を呼ぶ声が上がった。何故自分が呼ばれたのか、それを理解する時にはもう自分の横を一乃が通り過ぎた頃だった。

「石狩!」
「ディフェンス!!」

天馬を抜いた一乃はそのまま石狩にパスを出し、石狩もまたシュートを打ち込む。天馬はハッとしたように声を上げて指示を出すも、ボールは天城と速水の間を通り越し、三国の方へ。
バシッという音と共に三国の腕の中には石狩が放ったボール。三国はシュートを防いで見せた。
それを見て、天馬は安堵の息を吐くも、やはり自分のキャプテンの資格なさに落ち込んだ。
セカンドの人達は石狩に惜しかったと声をかけていく。肩を落とす天馬を、剣城もまた、じっと見ていた。



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