『「「おはようございます!」」』
「早いなお前達」
『「「はいっ」」』

信助と途中で合流した葵とで、学校まで一緒に来た天馬達。そのまま部室に向かって挨拶をすれば、中にはもう殆どの先輩達は来ていた。まだ部活は始まらないだろうが、天馬達よりも先に来ていた先輩達もまた早く来ている時点で、やる気が芽生えたのだろう。

ウィーンッ

元気よく先輩達に返事をしていれば、ふと天馬達の後ろにあった扉が開きだす。ここには先輩達はもう集まっているので鬼道と春奈が入ってきたのだろう、と直ぐに挨拶をしようと四人して振り返った。だが、振り返ってみれば、そこには想像していた人物とはまた違い、四人して目を見開かせるも嬉しそうに笑みを浮かべた。
そんな四人の様子に気付いた先輩達も思わずそちらを見てみれば、彼等もまた目を見開かせる。

『守…兄さん…』
「円堂監督!」

オレンジのバンダナをして、去った時と同じ格好で笑みを浮かべている円堂守。その傍には鬼道が小さく微笑んで一緒に居る。突然の再会に、声を上げれば円堂はそれを受け止めるかのようにニカッと歯を見せながら笑って見せた。

『ま…ううん、円堂監督』
「!」
「え、ユナ…」

笑って見せる円堂に、悠那がふと名前を呼んだ。だがそれはいつもみたいに名前や“兄さん”と呼ばないでちゃんと皆みたいに名字と監督を繋げていたのだ。そんな悠那に天馬達は目を見開かせて、驚きながらも円堂もまた小さく微笑み返した。
何故なら、今自分の目の前に居る彼女は、いつもみたいな笑みではなく、真剣な表情でこちらを見上げているから。
円堂の知らない所で、成長した彼女に、円堂は悠那の頭を撫でようと手を伸ばそうとしたが、それを止めてもう一度微笑んで見せた。

『おかえり、円堂監督』
「ああ、ただいま。悠那」

そこで、悠那は円堂に負けずの笑みを浮かばせた。

…………
………

一度、自分の周りに部員達を集めて、一人ひとりの顔を見た後、円堂は自分が今までしてきた事を順に話していった。

「皆も知っているだろうが、俺は今までフィフスセクターのシード養成施設の調査に行っていた。集めた情報はレジスタンス本部に報告してきた。
いずれ、フィフスセクターのやってきた事も明らかになるだろう」

そこで一息つくと、再び笑みを浮かばせて見せた。

「これからは、皆と一緒に勝利へ向かって戦ていく!」
「じゃあ、またサッカー教えて貰えるんですね!」
「そうだ。今日から円堂が雷門の監督だ」
「え?」
「そして、俺はまたコーチとしてお前達を支える。それが雷門としても、最高のフォーメーションだからな」

再び戻ってきた雷門のフォーメーション。円堂が皆を勝利に導く監督となり、鬼道は皆を支えるコーチ。天馬と悠那は顔を見合わせると、嬉しそうに笑みを浮かべると、改めて監督として戻ってきた円堂と向き合った。

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

これからまた始まる円堂との試合に向けての特訓。皆で声を合わせて改めてお願いしますと、言った。ここに、神童が居ればどれほど心強かっただろうか。そんな事内心考えながらも、仕方ないと諦めるように悠那は思っていた。
すると、今考えている事を円堂が見破ったかのように再び口を開いてきた。

「さっそくだが、皆に提案がある」
「提案?」
「神童の事は聞いた。残念だ。だが、俺達はここで立ち止まっている訳にはいかない」
「はい」
「そこで、決勝に出られない神童の代わりに、新しいキャプテンを任命したいと思う」
「新しいキャプテン…?」

今の雷門に必要なのは、もちろん監督やコーチでもあるが、この二人は直接フィールドに立つ訳ではない。司令塔でもある、キャプテンという人物が必要だった。いくら監督達が出られないとはいえ、ベンチの方で指示を出す訳にはいかない。
雷門に今必要なのは、皆をフィールドで引っ張って指示を出すキャプテンが必要だった。

「そうだ、新しいキャプテンは…

――松風天馬。お前がキャプテンだ」
「………え?え?

…ええ―――っ!?」

どうも彼の反応はどこかでデジャヴを感じる。徐々に理解しだした天馬はついに声を上げて驚きの声を上げた。もちろん、天馬以外にも驚いている部員達は居るが、彼程ではないだろう。
驚く彼に、円堂は笑みを浮かべてそうだ、と言わんばかりに目で訴えている。それは更に天馬を驚愕させる事であり、天馬は更に焦りを見せた。

「お、俺が、キャプテン…?」
「実はここへ来る前、神童に会ってきた」
「神童に?」
「ああ、天馬をキャプテンにするのは神童と話し合って決めた事なんだ。
天馬、神童もぜひお前にやってもらいたいと言ってる」
「キャプテンが?」

どうやら円堂は既に神童と会ってきたらしく、今のキャプテンの事も話し合ってきたとの事。だが、まさかそのキャプテンが自分になるとは思っていなかった天馬。本来なら、キャプテンなら神童の前にやっていた三国か神童の親友である霧野がなると思われたが、一年生で先輩達よりもサッカーが上手くない天馬が選ばれたのだ。
一気に不安そうな表情をする天馬に、三国が声をかけた。

「いいんじゃないか?俺達が本当のサッカーを見失わずに済んだのはお前のおかげだ」

雷門に入学してサッカー部に入部し、初めての試合。天馬と悠那の本当のサッカーがやりたいという気持ちを神童にぶつけて、神童もまた一瞬だけ、自分の心に素直になってゴールを決めた。
天河原との試合、三国がボールを見逃そうとした時、不意に天馬達の必死な姿を見て、自分の小さい頃を思い出して止めた事。
万能坂で、チームが一つになったきっかけをくれたのは間違いなく天馬達のおかげだった

「お前が皆の心に革命という風を吹かせてくれた。お前なら必ず出来る。
な?皆!」

三国が、皆に向けてそう聞けば、どんどん頷いていくメンバー達。一部、こちらを見ず頷きもしなかった倉間が居たが、傍に居た浜野が彼の表情を覗き見た。そして、面白そうに倉間に向けて指を差しながら次に、ニヒッと笑みを浮かばせて指差していた手をピースにした。つまり、倉間の表情は分からないものの、倉間もまた否定しないと受け取ったのだ。
それを見て、天馬は視線をずらして、傍に居た輝、狩屋、青山の方を向く。
狩屋もまた頷きはしなかったものの、彼が照れ臭そうにしているのは十分に分かっている。輝も青山も笑みを浮かばせている。
その傍に居た剣城に目線をやれば、剣城は腕を組みながら静かに笑みを浮かばせていた。

「反対する奴は居ないみたいだな」
「でも俺、キャプテンなんて――」

ドンッ

まだ納得のいかない天馬。不安そうな表情は晴れず、三国に自分には無理だと訴えようとするも、天馬の背後でドンッと鈍い音が響いた。思わず肩を揺らして、そちらを見てみればそこには音を出したであろう水鳥が天馬を睨み付けていた。

「この後に及んで、何ごちゃごちゃ言ってんだ?さっさと腹を決めろ!」
「でも…」
『天馬』
「ユナ…」

水鳥に言われても表情が晴れない天馬を見て、悠那は優しく彼の名前を呼んだ。悠那に振り返れば、彼女はいつもと変わらない笑みを浮かばせて自分を見据えている。その目線が、天馬にとっては
期待されているようにしか見えずに、思わず視線を逸らしてしまう。だが、悠那はそれでもいいと言わんばかりに、口を開いた。

『私ね、イタリアから日本に戻ってきた時、すっごく不安だったよ』
「え?」
『日本語が上手く話せない頃、友達出来るかな、上手く喋れるかな。また、一人になっちゃうのかなって』

案の定、私は一人になってしまった。ああ、また一人だ。孤独になってしまう。寂しい。
そんな想いがあった時、天馬だけは私にジェスチャーを入れながら話しかけてくれたよね。

『私がよく分からないって首振っても、天馬は諦めずに話しかけてくれたよね』
「うん、だって…仲良くなりたかったし…」
『すっごく嬉しかった。今こうして日本語が上手く話せるのも天馬のおかげ。そして、今こうして私がサッカーをやれるのも天馬のおかげ』
「え…」
『天馬聞いたよね、“悠那の好きな事って何?”って』

その時、サッカーって言ったら引かれるかなって思ったけど、天馬に隠したくなくって正直にサッカーって答えたんだよね。そしたら天馬は「俺もだよ!じゃあ一緒にサッカークラブのテスト受けようよ!」って言ってたよね。
結果的には二人して落ちちゃったけど、それでも私にとってはあの時がサッカーをやるスタート時点だった。まるで、天馬に背中を押されているみたいで、嬉しかった。

『天馬、私にサッカーの楽しさを教えてくれてありがとう。私も、天馬にキャプテンになってほしい』
「え、そ、そんな…俺は…」

自分の行動で、気付けば周りにはこんなにも沢山の仲間が増えていた。それは三国だけじゃない、自分の幼馴染みでもある悠那にとってもそうであり、いつの間にか彼女達の心を救っていたのだ。
実感が沸かない。それ以前に、天馬自身当たり前の行動をした訳であり、それだけでキャプテンになる理由が分からない。悠那の目を見た後、天馬がまた視線を落とせば、今度は違う声が天馬を呼んだ。

「天馬。何とかなる、でしょ?」
「何とかなる、だよね?」
『大丈夫、何とかなるっ』
「信助、葵、ユナ…」

信助と葵、悠那がいつも天馬の口癖として出てくるセリフを言ってみせる。
そこでようやく、天馬に決心がついたのか、真剣な表情に戻し改めて円堂の目を見返した。

「分かりました。俺、キャプテンやります!」
「よし、その意気だ。

それじゃあ、全員グラウンドに集合だ!」
「「「「はい!」」」」



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