《壮絶な点の取り合いとなりました!!ホーリーロード準決勝!ここで逢坂監督。FWの雨宮のポジションをトップ下に下げてきました。FWには雛乃に替わった茅原が入ります!雨宮を中盤に下げる事でディフェンスを固める狙いでしょうか?

……得点3対3の同点。残り時間はあと僅か!!》

ベンチの方へ戻ってくる雛乃にコーチである狩部がタオルを差し出して雛乃もまたそれを受け取ると自分の顔に垂れる汗を拭う。そして、逢坂の方を見れば真剣そうな表情をしている。それがどういう意味なのか新雲の選手達はもちろん分かっており、黙ってフィールドに立っている新雲学園の選手のプレイを見守る事にした。

「雨宮太陽を下げてきたか…」
「もしかして…太陽の身体はもう、限界なんじゃ…」
「!」

さすがに後半まで来ると太陽の体力も限界に近付いてきている筈。FWから下がったのだってそうに違いないと天馬は考えたのだろう。神童もまた天馬の言葉に驚くように振り返る。神童も天馬から大凡の話しを聞いて理解しているが故に驚いているのだろう。
ここでまた天馬の集中が切れる事がなければいいのだが。悠那も黙って下がった太陽を見やる。

ピ―――ッ!!

このシーソーゲームを終わらせるのはどちらのチームか。試合は再び再開しだし、新雲からの攻撃となる。新雲の選手がボールを仲間の方へ転がした時、神童が走り出した。

「いくぞ、みんな!」
「「「キャプテン!?」」」
『あれ、キャプテン…どうしたんだろ…』

一人で突っ走って行こうとする神童に天馬や剣城、そして狩屋もまた驚いたような声を上げる。それを合図に悠那も神童の様子に疑問符を浮かべる。勢いよく走り出した神童。ボールを奪いに行こうとしているのは分かるが、どこか神童に焦りが見えるようにも感じた。

「(ボールを奪って一気に決勝点を決める!!)」

スライディングを素早くかまし、ボールを奪ってみせる神童。ボールを奪って見せた神童はそのまま攻め上がっていった。だが、一人で突っ走っていったせいか、神童の周りに雷門の選手は居ない。つまり、パスを出すにはバックパスするしかなくなってしまうのだ。
そして、試合は再開し始めたばかりが故、新雲の選手はあまり上がりきっていない。もちろん、太陽も。
神童は太陽に迫り上がった。

ピクッ…

「うおおおおおおっ!!」
「!うわっ…っ…!!」

不意に、太陽の指がピクッと痙攣したかのように動いた。だが、それは誰も気付く事はなかった。気付けば、太陽の背後から大量の靄が噴出しだし、その勢いでか神童は吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされる最中、神童は何度か地面に叩き付けられるように転がってようやく神童の体は止まった。

「神童!」
「うっ…大丈夫だ」

頭を抑えながら仲間に自分は大丈夫だと告げる神童。一瞬だけ、血の気が引いたが、それでも起き上がってみせた神童に安堵の息を吐く悠那。そして改めて、太陽の方へと目線をやれば、今の靄の噴出で砂埃がかなり舞い上がっている。そんな中太陽の姿だけははっきりしている。ふと、太陽の背後に何かが居るのが確認出来た。
砂埃を纏いながらも、影の形もハッキリと分かる。あれは、太陽の化身である。

「太陽、まだ化身が出せるなんて…」
「松風、よく見ろ」

太陽の体力で言えば、もう出せない筈。前半でかなり化身を出していて後半でも辛そうにも化身を出していたのだ。それなのにまだ太陽は化身を出している。その事に天馬が驚いていれば、不意に剣城が声をかけた。よく見ろとはどういう意味なのか、天馬は砂埃の中をよく目を凝らした。
まず見えたのは小さな光が数個。それはまるで太陽に力を分け与えているように輝いているようにも見える。そして、次に見えたのは光の分だけの人影。
そこで、理解出来た。彼等が太陽に力を送り込んでいるのだ、と。

「俺達の力を太陽に!」
「「太陽に!!」」
「天馬。これが、仲間に化身の力を送り込む化身ドローイングだよ」
「!…化身…ドローイング…」

もう化身を出せない筈の太陽が再びあの太陽の神、アポロをフィールドに君臨させようとしている。それは以前も見たような方法で出現させており、動揺を隠せない。そこまでして太陽は天馬と戦いたかったのだ。
太陽は腕を大きく振るい、まだ靄のままになっている自分の化身の具現化をさせてみせた。

「はあああ!!これが、僕の…いや、僕達の化身だ!!

――“太陽神アポロ”!!」
「「「!!」」」

再び具現化されたアポロ。先程までよりも神々しく見えるのはきっと、太陽に力を与えている新雲の選手達の力があるからだろうか。
一度沈まれたと思われたその太陽は再び仲間の力を借りて再び空まで浮かんで見せたのだ。

「最後の力で化身を…すごい…なんて高さまで飛ぶんだ、太陽は…でも、俺は負けない!

……俺達のサッカーは絶対に負けられないんだ!!」

それでも怯まず天馬は笑みを浮かべる。だがしかし、武者震いする太陽に対し天馬もまた自分達は負けられないんだと、訴えた。天馬は神童へと振り返り、再び訴えかけた。

「俺達も力を合わせましょう!化身の力を!!
俺達の力が一つになれば誰よりも高く飛べる筈です!!」
「あっちが電池の並列繋ぎだとすればこっちは直列に繋いでパワーを上げる。そういう事か、天馬」
「フンッ…やるか」

ぶっつけ本番で自分達は出来るのか、それは天馬達も分からなければ誰にも分からない事。だがしかし、やってみなければ太陽に太刀打ち出来ない。
三人は力強く頷くと、太陽の化身アポロを見上げた。

「いくぞ!“奏者マエストロ”!!」
「“剣聖ランスロット”!!」
「“魔神ペガサスアーク”!!」
「「「はああああっ!!」」」

一気にフィールドに三体の化身が現れてその中心となる三人からはものすごい気迫を感じる。間近のように感じられる彼等の気迫と覚悟。眩しい光の中で天馬達は必死に集中しだす。
あまりの気迫と風圧に後ろに下がりそうになり眩い光にも目が眩みそうになるが、それでも踏ん張り、しかと彼等の勇姿を自分の目で見ていた。以前にも感じられた彼等のこの姿。悠那は密かに唾を飲み込んだ。

「これで決める…

“サンシャインフォース”!!」
「「「いっけえええ!!!」」」

完璧に三人の姿が光の中に包まれた瞬間、解き放たれていく太陽の化身必殺シュート。炎の塊がその光の塊に向かっていき、新雲の選手達もまた声を上げる。これが新雲の最後の攻撃となるもの。決まれと皆の思いが一つになっていたシュートだった。
だが、それだけでは天馬達三人の勢いは止められない。光の中心で炎の塊となったボールを三人がかりでしっかりと抑え込んでいたのだ。

「「「うおおおおお!!!

――“魔帝グリフォン”!!」」」

今まで三人の化身を包んでいた光の塊が、弾け跳び一つの大きな靄の塊がそこにあった。それはマエストロでもランスロットでも、はたまたペガサスアークでもない。三体の化身が三人の気持ちが一つになった時、溶け合うかのように合体しだした一つの化身。
金色の巨大な羽を持ち、甲冑と優美さを兼ね備えたグリフォンは大きな腕を前に押し出し、天馬達同様あの炎の塊となったボールを抑え込んでいた。
雷門の選手の目の前で化身が合体し、尚且つシュートを止めようとしている。誰もが、グリフォンに魅せられていた。

『グリフォン…』

新たな化身として生まれ変わった魔帝グリフォンが再びフィールドに現れた瞬間だった。

「「「貫け!太陽!!」」」
「ああ!!

うおおおおおおおっ!!!」

仲間の声と共に自分の放った炎の塊にぶつかっていく。グリフォンとアポロはその炎の塊を押し合う。だが、新雲の選手達の気持ちがアポロに力を与えているのか、アポロの押す力も強くなっていく。押され始めていく天馬達。だが、雷門だって一人ひとりが戦っている訳じゃない。天馬達の後ろにはいつだって仲間が居るのだ。

「神童!負けたらいかんぜよ!!」
「!」
「踏ん張れ!剣城君!!」
「っ!」
『天馬!!』
「!ユナ…!」

神童に錦が声をかけ、剣城には輝が。そして、天馬にはずっと彼の事を心配していた悠那が声をかけた。名前を呼ばれてハッとする。状況が状況なだけに振り向く事はないが、確かに彼女の言葉を聞こうと、止める事に集中しながらも耳を傾けた。

『大丈夫、頑張れ天馬!!』
「ユナ…ああ!!」

ふと、笑みが零れる。新雲だけじゃない、雷門だってドローイングではないけど、ちゃんと仲間の力や気持ちを感じ合っている。そして、その気持ちに応えようと天馬達もまた自分の足に力を入れる。
しっかりと悠那達の言葉を聞いた三人は頷いてみせ、一気に自分の足に力を入れた。

「「「うおおおおおおっ!!」」」

次の瞬間、アポロの造りだした炎の塊は消え、アポロもまた弾き飛ばされてしまう。グリフォンの手には光の塊と変わったボールと、天馬達の足元にはボール。
そしてその体勢のまま天馬達は新雲のゴール目掛けてシュートを蹴り返してみせた。
一直線に伸びて行くシュートはアポロの横を通り過ぎて一気にゴールへと向かった。


「止める!!“ギガンティック……ぐわぁあああ!!」

佐田は瞬時に鉄壁のギガドーンを出現させて必殺技でそのシュートを受け止めようと拳で挟み込もうとする。だが、佐田の必殺技は発動する事なく、吹き飛ばされてしまい、天馬達のシュートはゴールの中へと入っていった。

ピ―――ッ!!

《ゴ、ゴール!!復活した雨宮の化身シュート!合体した神童、剣城、松風の化身シュートで打ち返してゴール!!逆転!雷門!!逆転だあ!!》

シュートを打つ時は傲慢そうな表情をしていたが、今では勇猛そうにただ真っ直ぐにゴールを見ている。勇ましいその姿はシュートが決まると、形を無くし三人の元へと戻っていく。その靄が戻っていくのを見ていれば、息を上がらせながらも嬉しそうにしている天馬達の姿があった。

「やった…」
「ああ!」
「やったあああ!!」

一発勝負で、太陽のシュートを防ぐどころかシュートまで決まった事により、大はしゃぎな天馬。そんな天馬は嬉しさでか剣城に飛びつく。そんな天馬を神童は苦笑しながらも嬉しそうにしている。

「化身の合体か……やっぱり、アイツらは」
「すごい!すごいよ!!」
「まっこと、どえらい奴らぜよ!!」

ピッピッピ―――ッ!!

気付けば、試合は終わっており試合終了のホイッスルが鳴り響く。ここまでのシーソーゲームは雷門が勝ち越しとなった。
そして、雷門はここで決勝進出となったのだ。



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