「止めろ!」
「「おう!」」

ボールを持って上がってくる天馬を見て、安守が浦野と武雲に天馬を止めるよう指示を出す。二人掛かりで天馬に突っ込んで行く中、天馬は自分なりのやり方で自分のサッカーをしようとしていた。

「(太陽…俺、分かった!太陽があんなにも強いのは自分の思いを貫いているからなんだね。なのに、俺…太陽の事を心配して力が入ってなかった。このままじゃ太陽もサッカーも悲しむよね!)

“そよかぜステップ”!」

安守を抜き去り、必殺技で浦野を交わし、武雲までをも交わしていく。そんな天馬の姿は前半までの彼ではなく、ちゃんとした自分の意志を持った松風天馬の本当の姿。
その姿をDFラインで見ていた悠那は、もう何も心配はいらないと言わんばかりに笑みを浮かべて改めて試合に集中し始めた。

『(太陽を心配するという事は、太陽が弱いと決め付けてしまう。本当に太陽の為と思うのなら、その時は彼に楽しいと思えるような、本気のプレイをする事)』

「(俺も自分のサッカーをやりきるよ!太陽のように!!)」

ふと、その時天馬が真上にある太陽のように輝いて見えた気がした。DFに来た三人の新雲選手を抜く姿はまるで天を駆けるような馬のようで勢いは止まず駆ける足は疾風のごとく。目的を達するまで走る足を止めない、馬なのだ。
見事なドリブル。天馬は一気にドリブルでディフェンスラインを突破したのだ。

「来たか」
「行かせないよ、天馬!!」

ゴールまで残り数メートルの所で太陽が天馬の前へと立ちはだかった。FWからDFまで下がってきたのだ。十分な距離まで来た頃、太陽は思い切り腕を振るい再び背後から藍色の靄を多量に溢れ出させる。やがて具現化されていく靄、再びあの太陽の神がフィールドに降り立った。

「“太陽神アポロ”!!」

天馬の目の前に立ちはだかる眩しい程の太陽の神アポロ。天馬は走るのを止めて改めて太陽と向き直った。

「俺は、太陽を越える為、高く…もっと、高くまで飛ぶんだ!!……俺のサッカーで!!」

『大丈夫…天馬なら、越えられる!!』

「はあああ!!天まで届け!!」

天馬の背後から翼みたいに溢れ出した藍色の靄。いつも通りの天馬の化身の筈なのに、どこか様子が違う。
うおおおお!!という雄叫びの中、天馬の背後で具現化されたその化身が、改めて姿を現した。

「これが!“魔神ペガサスアーク”だ!!」

雄叫びの中から現れたその化身。以前まで赤かった翼はいつの間にか真っ白い純白の翼に変わっており、髪も長々としている。
天馬の太陽を越えたいという気持ちが天馬に更なる力を与えたのか、天馬どころか化身までもが形を変えて進化した。その急成長に、太陽どころか、雷門の選手達もまた驚愕の表情を浮かべる。

『てんま…』

果たして今の言葉はどちらの意味で呟かれたのか分からない。ただ彼女の口から零れたのだ。
自分の目の前で急成長してみせた鏡の片割れ。
それと同時に苦しくなる胸。どうしてこんなにも動悸が早くなっていくのか。しかし、天馬の進化した化身を見て感じたのが、
――愛おしい
という気持ち。自分は、彼の事をこんなにも羨ましいと、愛おしいと感じた事はなかった。苦しくなっていく胸を落ち着かせようと、悠那は必死に胸に手を押し付けた。

「はああ!!」
「天馬…」
「だあああああ!!」

太陽どころか太陽の化身までをも越して、天馬はそのままシュートを放った。進化した天馬の化身のシュートはいかがなものか。だが、それでも怯まず立ち向かっていくのがゴールキーパー。佐田は素早く自分の背後から藍色の靄を噴出させた。

「“鉄壁のギガドーン”!!

“ギガンティックボム”!!」

佐田が化身で対抗とボールを受け止める。だが、必殺シュートでもないそのボールの威力は佐田の必殺技も効かず、佐田の体は弾き飛ばされてしまい、再び新雲は失点してしまった。

ピ―――ッ!!

《決まったああ!!松風のシュートが新雲ゴールに突き刺さったあああ!!!同点!雷門再び同点に追いつきました!!》

電光掲示板に雷門の方へまた一点が追加される。再び同点に追いついた事により観客達も盛り上がる。試合も一時的に止まりだし、悠那も改めて点数を見て我に返った。
今、一瞬だけ思考に過った想い。今はもう動悸は収まっており、あまり苦しくはない。だけど、忘れられる筈もなく、もう一度天馬の方を見てみれば、彼は輝と錦に抱き着かれており倒れている。それを今度は微笑ましく感じてしまい、思わず頬を緩ませた。
少ししたら、錦と輝は退いて天馬を立ち上がらせる。苦笑しながらも二人に立ち上がるのを手伝って貰う天馬。

『――…あ』

ふと、目が合ってしまった。改めて自分がじっと天馬を見ていた事を思い出し、羞恥心が芽生えてきて、視線を若干ずらしてしまった。頬を指で掻く中、もう一度天馬の方を見やれば、彼はこちらに向かって手を振っていた。

「ユナー!!俺やったよ!!」
『て、天馬…』

大きく手を振ってきて、悠那もさすがに照れ臭かったのか、慌てる素振りを見せる。そして、不意に思い出された先程までの感情。それが一気に恥ずかしくなってきて、徐々に紅潮していく悠那の顔。天馬はまだこちらに向かって手を振っている。子供っぽいのに、どこかその姿がかっこよく見えてしまい、悠那はうっと声を漏らすと顔を俯かせながらも片手を小さく挙げて左右に振ると、直ぐに天馬に背中を向けた。

「?ユナ、どうしたんだろ…」
「さあ、どうしたんでしょうね…」
「気付いてないかもしれんきに」
「そっかあ…」

手を暫く振っていた天馬だが、いきなり悠那が背中を向けてきた事に首を傾げる。その二人の様子を見ていた輝と錦もまた天馬と共に疑問符を浮かべていた。

「いーの?天馬君こっち見てるけど」
『あ、あああ私熱中症かなあ!?あ、熱いねこのフィールド!』
「…(明らかに動揺してんなこれ…)」

狩屋もまた様子を見ていたようで、ニヤニヤしながら悠那に言うも、彼女は前髪を揃えた後、ぶんぶんと片手を顔に向けて扇いでみせる。その様子からして動揺しているのを見破った狩屋。この時の悠那は中々面白い物だが、時と場合による。つまり、今はそんなに面白くない物である。
狩屋は、ニヤニヤとするのを止めてつまんなそうに悠那を横目で見ると、ふいっと視線を外した。

「(…つまんね、)」

狩屋は、まだ顔を赤くしながら何かに悶えている悠那をしばらく見た後、直ぐに彼女の若干赤くなっている頬を掴み、伸ばしたり押したりし始めた。

『いはいよ、みゃさき』
「変な顔ー」
『なんはと!?』

うわあ!!離せ!!と暴れる悠那にお構いなしに狩屋は引っ張るのを止めずに、自分の気が晴れるまでそれを繰り返していた。

「…それでこそ、天馬だよ」

化身を出したというのにそれを活かせず、再び同点に戻されてしまったにも関わらず太陽はまたもや楽しそうに笑って見せる。その息切れは一体どちらの意味での息切れなのか、仲間すらも分からなくなってしまいそうだ。そんな彼に根淵が声をかけた。

「大丈夫か?太陽」
「うん。…“魔神ペガサスアーク”か…僕の“太陽神アポロ”とどちらが強いか、勝負だっ」
「だが、太陽…これ以上化身を出せばお前は…「化身を出さなければ勝てる相手じゃないよ」…っあ」

純粋にこの試合を楽しんでいる太陽に、無理するなと言わんばかりに佐田が声をかける。だが、それは太陽の真剣な言葉により遮られてしまった。監督に太陽に無理させるなと言われていた佐田。だが、太陽の真剣な言葉に思わず口を紡いでしまう。
ふと、太陽から視線を外してベンチの方を向いて見れば、困ったように笑ってみせる逢坂が見えた。あの表情は仕方ないと、どこか呆れたような表情。決してこの試合を諦めた訳ではない。だけど、あの表情は…
すると、太陽もその監督を見ていたのか、フッと笑みを浮かべて勢いよく振り返った。

「だから、皆の力を貸してほしい!」
「「「「!!」」」」
「まさか、“あれ”をやろうというのか?」
「うん」

太陽の言う力を貸してほしいという意味を理解していた新雲だからこそ目を見開かずにはいられない。そして、誰もが抵抗のあったメンバーの知る“あれ”。だが、どのメンバーもはい、そうですかと簡単に納得出来る訳もなく、誰も頷く事はなかった。

「だが、“あれ”はお前の身体に更なる負担を――」
「やろう皆」
「佐田…」
「俺達は雨宮太陽を中心としたチームだ。太陽が居たからここまで来る事が出来た。

…だから、今度は俺達が太陽を支える!」

根淵の訴えも、佐田の言葉に遮られてしまう。そして、彼から出てきた言葉は根淵みたいに反対の言葉ではない。肯定の言葉に、太陽もまた目を見開いた。監督からも止められていて、佐田も監督との約束は守る筈。にも関わらず彼は太陽に賛成した。
ここまで来れたのは、太陽の活躍があってからこそ。佐田はこの試合で太陽への今までのお礼をすると言わんばかりに言った。
その言葉に、太陽は笑みを浮かべた。

「みんな…」
「まあ、その通りだな。
よし!俺達の力を太陽に注ぎ込むんだ!勝利の為に!!」
「「「「おう!!」」」」



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