ハーフタイムという事で、新雲学園の選手達は自分達の更衣室に戻ってドリンクを飲んだり試合中流れた汗をタオルで拭いたりしていた。今までになかった相手に、苦戦していたのか新雲の更衣室はどこか張りつめていた。

「さすがに強いな、雷門は…」
「俺の“鉄壁のギガドーン”が、二度も破られるなんて…」

最初はこちらの勢いだったのに、あの西園信助というキーパーに変わって化身を出してから雷門の勢いになってきていた。今になっては同点。後半で点差を付けないと苦しいだろう。最小失点の肩書きを持つ佐田もさすがに悔しいのか、拳を作っている。
新雲の選手達もそんな二人の様子を見るなり、自分達のプレイを見返す。再び重い空気が淀む中、ただ一人だけ、雷門と同点を楽しんでいる選手が居た。

「雷門は、二点差で逃げ切る程甘くはないって事だよ。ね、監督」
「そうね、雷門は試合中に選手達の誰もが成長していく」

それは今も昔も変わらない雷門の伝統と言うべきか。苦笑して見せれば太陽はスッと立ち上がり、更衣室にあったホワイトボードの前へと立った。そこには皆がこの試合に向けての気合いなどが書かれている。新雲のシンボルマークを中心に周りに書かれた皆のコメント。その中には太陽は書いていないものの、気持ちは皆と同じである。

「チームのムードはとてもいい。このまま後半も攻めよう!僕達のサッカーを貫けば、必ず雷門に勝てる!」
「「「「おう!」」」」

一年生ながらもキャプテンとして皆をまとめあげた太陽。彼の活き込みはホワイトボードに書かなくても皆は分かっている。だからこそ彼等はそんな太陽に付いて行くのだった。
そんな姿を見た新雲の監督とコーチは顔を見合わせると小さく頷いてみせた。

「いけそうですかね」
「大丈夫ですよ」

狩部がそう聞けば、逢坂もまた大丈夫だと言う。この試合の結末は分からないが、雷門も新雲も手を抜く訳にはいかない。見てるだけだが、彼等を支える事は出来る。太陽の容体も逢坂はもう、しつこく言うつもりはない。
彼等の全力の力を、この試合で見守ってあげるのが監督である自分の役割なのだ、と。

「っさ、皆。体をしっかりと休ませて後半に備えるのよ」
「「「「はいっ!」」」」

新雲がいつもの様子に戻った頃、雷門の方でも全員更衣室の方に集まっており、鬼道を中心に後半に向けての話しを聞いていた。

「みんな、前半よく前半の内に追いついた。試合の流れを作る為にも、後半一気に攻め上がるんだ」
「「「「はいっ!」」」」

前半の最初は相手のペースとスタジアムの仕掛けである流砂のせいで勢いがなかった雷門だったが、上手くペースを取り戻しえて、何とか同点までに追いついてみせた。流砂にも慣れて、後半の試合も上手く攻め込めるだろう。ふと、鬼道の視線がドリンクを飲む倉間の方へと移った。

「倉間、影山と交代だ」
「え?」
「デザートスタジアムの流砂は、想像以上に体力を消耗する。だがそれは新雲学園も同じだ。後半、温存してきた影山を投入し、一気にディフェンスラインを切り崩す」

FWはDFと違い、よく動いている。その中で倉間はかなり動いたりしているので、彼の体力はかなり消耗してきているだろう。そこで鬼道もベンチで温存していた輝と交代させようと考えていたのだろう。倉間も理由を理解したのか、うんと頷いてみせた。

「分かりました、監督」
「先輩…」
「大事な試合だ。後半は頼んだぞ。お前のスピードで奴等をかく乱してやれ」
「…任せて下さい!」

倉間から改めて交代を承知された輝は、先輩に託された所為か嬉しそうに頷いてみせた。本当は倉間も後半出たかったのだろうが、雷門に勝算があるのなら交代だってしてみせるのだろう。そんな倉間と輝の様子を見て悠那が小さく笑ってみせれば、どんどん雷門の雰囲気はやる気になっていた。

「よし、後半も気合い入れていくぞ!」
「「「「おう!」」」」

皆がこうして活き込む中、天馬は一人皆の輪から外れ先程剣城から言われた事を気にしていた。今はまだ悩む時間はあるが、後半もこの調子じゃ試合どころじゃないだろう。悠那は神童の掛け声に合わせた後、直ぐに天馬の方を振り向く。
いつもなら皆と活き込む筈の天馬が今では全くの無反応。さすがに心配になってきた悠那は、彼に向けて手を伸ばすが、それは剣城により阻止された。

『京介…』
「一人で考えさせてやれ」
『……』

さっきまで壁に寄りかかっていた剣城だが、やはり天馬の事は一人で考えさせる方が良いと感じたのだろう。剣城に止められた悠那は伸ばした手を渋々降ろし、もう一度天馬の方を見る。やはり表情は晴れずどんどんと曇っていく。
自分が今天馬に声をかけても余計に彼を混乱させるだけだろう。悠那は天馬から目を背けて気合いを入れる皆の方を見た。

…………
………

フィールドに戻ってくれば湧き上がる歓声。太陽も相変わらず燦々と照っている。
準決勝はいよいよ後半戦へと持ち込んだ。
体力の消耗が激しいデザートスタジアムで雷門は倉間に代えて輝を投入。だが、新雲学園の方はメンバーチェンジなしで後半に挑んでくる様子。

ピ―――ッ!!

後半は新雲学園からのキックオフでスタート。太陽が根淵にボールを渡し、こちらへと上がってくる根淵。だが、剣城が直ぐに阻止しようと上がっていった。勢いよく根淵に向かっていった剣城は直ぐにボールを奪っていき、そのまま上がって行く。
剣城の目の前から太陽が上がってくる。それを見て剣城は交代したばかりの輝にパスを出した。

「影山!!」
「いっくぞー!!」

輝にボールが渡り、そのまま斬り込んでいく。輝を止めようと、樹田と真住が上がってくる。真住が輝に向けてスライディング、樹田もまた輝に突っ込んでいくが、持ち前の運動神経で交わしていく。
交代したばかりでありながら見事なドリブルで一気に二人を越したのだった。

「剣城君!!」

上がっていく輝の目の前に、再び新雲学園の選手が立ち塞がる。だがしかし、輝は今度交わす事なく、直ぐに剣城とアイコンタクトを交わすと彼にパスを回した。
だがしかし、そのボールは剣城に渡る前にギラギラと輝く太陽と被ってボールを受け止めた人物がいた。

《なんと、ここまで戻った雨宮太陽!!ボールを見事にインターセプト!!》

「太陽…」

先程まで離れていた場所に居た太陽だったが、いつの間にか輝のパスをカットしてみせた太陽。天才もここまで来るとかなり手強い。やはりハーフタイムを入れた所為か、彼の表情はスッキリとしている。
そんな太陽を見た天馬の内心は焦っていくばかりだった。
パスカットをしてみせた太陽は、直ぐに方向転換し、雷門の方へ攻め上がってくる。

「よし!いくぞ古戸!」

太陽がボールを奪い一気に新雲学園の選手達が上がってくる。指示を出して上がってきた古戸にパスをし、古戸もまた雛乃にパス。そして、また太陽にボールが戻ってきた頃には、もう殆ど太陽が上がってきていた頃だった。
再びボールを持った太陽に錦が止めに入る。

「いかせんぜよ!!」

太陽のマークにつき、彼からボールを奪おうと左右二人して止めようと、抜けようと激しく動く。だが、太陽は錦の僅かの隙を狙って錦の足の間から錦の後ろに居た根淵にパスを出した。
そのパスは上手く繋がり、錦もまた彼のパスに驚愕の表情。
ボールを貰った根淵は直ぐに上がっていき、太陽、真住もまた並んで上がってきた。
これでは誰がシュートを打ってくるのか分からない。

「止めるぞ、天馬!」
「は……はい!」

雷門の方へ徐々に攻め込んでくる新雲。神童の指示にワンテンポ遅れながら彼等を止めに入った天馬。ボールを持っている根淵のマークについたのは神童。いかせないと、彼の前へ立ち塞がった神童だったが、マークのついていない選手はもう二人居る。その内の一人である人物に根淵は苦し紛れにパスを出した。

「……太陽!!」

彼が一気に駆け上がれば、また信助と一対一。これ以上信助を頼ってばかりではダメだ。ふと、太陽がこれから上がろうと足を急かした時、彼の目の前に再び天馬が立ち塞がった。

「太陽」
「天馬」

二人で見合っている中、先に動いたのは天馬だった。だが、太陽も反応が遅れる事なく簡単に交わしていく。

「攻め方が甘いよ、天馬」
「何!」

太陽の挑発に乗ってしまったのか、天馬はこけそうになった体を整えて再びボールを奪おうと突っかかっていく。だがしかし、再び交わして笑みを見せる太陽はやはり余裕なのだろう。その姿は天馬とのサッカーを楽しもうとしているようにも見える。

「キミの実力はそんなものじゃない筈だ」

負けじとボールを必死に奪いにいく天馬。だが、太陽の交わし方が上手い所為か天馬はボールに触れるどころか掠る事も出来ていない。改めて実感する太陽の実力。

「…キミが本気を出しても出さなくても、僕は全力で挑み…そして、勝つよ」
「…キミは、自分の身体がどうなってもいいの…?」

太陽は天馬が自分の身体を気遣って本気のプレイが出来ない事を分かっていた。天馬もまた、自分の本気じゃない事に薄々気づいており、今それを太陽に改めて聞いた。その質問は試合が始まる前、悠那が聞いた事と同じようなもの。
太陽は目の前の天馬を見た後、自分の視界の奥に居るだろう悠那の姿を見た。彼女の表情は遠すぎてあまり分からないが、きっと天馬の事を心配している。前半の時だって途中から天馬を心配したような表情で見ていた。だからきっと――…
視線を天馬に戻して、言葉を続けた。

「次の試合も、またプレイ出来るかも分からない。だから一試合一試合を大切に本気で戦う!」

バシイッ!!

「それが、雨宮太陽のサッカーなんだ!!」
「全力で挑む本気のサッカー…

――…それは俺達、雷門のサッカーだ!!」

太陽と天馬の足に挟まれたボールが歪む。元の形に戻ろうと反発するも、それは二人のどちらかが押し勝たないと意味がない。だが、今雷門の魂を思い出した天馬にとってはもう、手加減というものはなかった。

「そうだよ、天馬!!」

ふと、視線が悠那の方に行った時、彼女の表情は分からなかったが、確かに口角を上げていた。
ああ、これでやっと二人と本気でプレイ出来る。
ボールがこれ以上へこめないと同時に、二人の足が離れ、ボールが跳ね上がり、再び太陽の元へと転がってきた。



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