「やはり、雷門だ。僕が戦いたいのは、この雷門なんだよ…天馬、悠那…」

新雲が失点したとはいえ、太陽は悔しそうにせず、息を切らしながら楽しそうに彼等の喜ぶ姿を見ていた。キャプテンの傍で嬉しそうにしている天馬と、キーパーである信助と喜び合っている悠那。
雷門に臨んでいた事が今、起きている事に太陽も小さく笑みを浮かべた。

「もう一点取りにいくぞ!」
「「「「おう!!」」」」

「……」

新雲学園のベンチでは、相変わらず難しそうな表情をしている逢坂。
その目線には必ず太陽がおり、その太陽は息切れをしている。化身を二回も出したのだ。息も上がっても仕方ないだろうが、少し飛ばし過ぎている気もする。何に焦っているのか、分かっているからこそやはりこの試合に出すべきではなかったのではとも思えた。

「(無茶はするなって…いつも言ってるのに…)」

はあ、と頭を抱えながら溜め息をする逢坂に、コーチである狩部は苦笑した。
この二人は新雲の監督とコーチでありながら選手達に任せている。それは、二人の力を借りずとも選手達だけでやり遂げられるという事の表しだった。
それぞれポジションに戻っていく選手達。試合開始は直ぐだった。

ピ―――ッ!!

《新雲反撃!その中心はやはり、雨宮だ!》

試合再開のホイッスルと共に太陽が駆け上がってくる。
天馬を抜き去り、ディフェンスに来た霧野と狩屋をも抜き去っていく太陽。彼の身体は披露しているというのに、かなりの勢いもあり誰にも止められなかった。
再び、悠那との一対一になろうとした時、不意に太陽が胸元を力強く掴んだ。

「っ!」
『はあっ!』

スライディングでボールを外に出そうとする悠那。少なくともフィールド外に出せば太陽は少しでも休憩は出来る。だがしかし、悠那の足は惜しくも反応した太陽により無効となってしまった。
悠那を飛び越えて、太陽は信助と一対一になる。信助もまたキーパーの構えを取る。

「絶対に止める!」
「“太陽神アポロ”!!」
「うおおおおお!!

“護星神タイタニアス”!!」

「…!!」

再びフィールドに現れる太陽の化身アポロと、信助の守護神タイタニアス。三回目となる太陽の化身発動に、逢坂は冷や汗を垂らした。彼女は釘を打たれていたのだ。聖帝からも、虎丸からも太陽に二回以上化身を出させるなと。それを太陽にも釘を打っていた筈なのに、彼は化身を出した。それだけ、この雷門に勝ちたいと思っているからだろう。
ふと、逢坂の頭に10年前のアメリカ戦が過った。

「(どうして、男の子って…無茶するのかな…)」

10年経った今でも彼等のこういう行為には疑問を感じる。いや、それを言うなら自分もだったが。
逢坂は自分を落ち着かせると、太陽の身体が壊れないよう、祈った。

「“サンシャインフォース”!!」
「“マジン・ザ・ハンド”!!」

炎の塊が信助の方に向かっていく時、信助は円堂と立向居の必殺技を発動した。信助の動き通りに動き、右手をぐっと力強く前に突き出す。勢いよく突き出された手にボールが当たり、やがては勢いをなくしていくボール。
そして、信助の手にいつの間にか元のボールに戻ったボールがあった。
信助はまたもや止めてみせたのだ。

「やったあ!!」

《化身必殺技同士の激突は西園の勝ちだ!!》

止めた事により喜びの声を上げる信助。三国でも止められなかった太陽の化身シュートを止めてみせたのだ。一点差という距離を守ってみせた信助にぐっと拳を作るなりそれを振り上げる。やったね、信助。その事を表せば、信助もまたボールを持った腕を上げた。
ふと、近くで太陽が片膝をついた。

「すごい、すごいよ雷門は……僕が、考えていた以上に…強い…!」
『太陽…この試合、楽しめそう?』
「うん、今すっごく楽しいよ…!」
『それなら良かったっ』

はい、と片膝をついて胸元を掴みながら息をする太陽に向けて手の平を差し出せば、どういう意味なのか分かった太陽は快く掴んでくれた。そこでぐっと太陽の手を引っ張れば、太陽も立ち上がる。汗を沢山かいて苦しそうにしているというのに、表情は清々しい程の笑みを浮かべている。

「ありがとう、悠那」
『お礼は試合の後でいいよ。お互い、この試合楽しもうね』
「うんっ」

試合の後、一体どちらが勝っているのかはまだ分からないが、それでも太陽と悠那はこの試合を楽しむ事を心掛けた。二人して頷き合った後、悠那は直ぐに信助の方を向き直り、試合に集中する。それを見て安心したように太陽もまた悠那の前に入り込み、ボールを取らせまいとする。自分より低い位置にある悠那の顔を見るなり口角を上げてみせれば、悠那もまた口角を上げた。
だがしかし、先程の苦しそうな太陽を見て快く思っていない人物が一人居た。

「…太陽、」

太陽の表情はやっぱり楽しそうにしているが、先程の苦しそうな所を見ると、やはり病気というのは本当だったらしい。
天馬は表情を曇らせたまま、動き出そうとしている試合に専念した。

「はああ!」

バシッ!!

試合は信助のセンタリングから再開しだし、錦が飛んできたボールを持つ。しばらくドリブルした後、錦は神童へとパスを回す。
ここで再び神童にボールが回り、神童は再び背後から靄を噴出しだした。

「はああああ!!」
「今度は止める!」
「……ッフ」
「何!?」

靄を出したと思えば、神童は少量の靄を出しただけであり、直ぐに靄を抑えれば神童は少しだけ屈む。すると、行き場を失ったボールは神童の上を通り越し、剣城の方に回った。
ボールを受け取ると、今度は剣城が背後から靄を噴出しだした。

「はあああっ!!“剣聖ランスロット”!!

“ロストエンジェル”!!」
「“ギガンティックボム”!!

ぐぅわあああああああ!!」

フェイントだからとはいえ、油断はしなかった佐田。化身を出現させて必殺技で対抗しようとするものの、剣城の化身シュートを止める事が出来なかった佐田は再びゴールを許してしまった。

ピ―――ッ!!

《ゴール!雷門追いついた!!新雲の得点全てがキャプテンの雨宮であるなら、雷門はキャプテン神童が得点全てに絡む活躍!!》

これで雷門も新雲学園も2-2の同点。試合も最初に戻り、雷門にもようやく勢いがついた。神童と剣城の連携プレイであり、二人は顔を見合わせると小さく頷き合っていた。

「勝つぞ!!」

勢いがついた雷門。同点になった事により試合は最初と比べて更に激しさを増した。雷門も新雲もお互いに引きを取らない。ボールを奪われては奪い返し、ボールを繋いでいった。
お互いの攻防戦が続く中、浜野がボールを持ち込んでいた。それを止めようと太陽もまた守備に回ってくる。それを見て、天馬は不安そうになりながらも新雲の方へ上がっていく。

「太陽…」
「……」
「あっ!」

と、ここで浜野が太陽にボールを奪われてしまい、再び太陽の独壇場となろうとしている。既にあまり体力が無さそうにも関わらずドリブルで雷門の方へ上がってくる太陽。だが、それは病気が許さなかったのか、急に太陽に苦しさを与えてきた。
その所為で思わず転びそうになってしまう。その一瞬の隙に、ボールを奪いに来た神童が太陽からボールを奪ってみせた。
ボールを奪われた所為で上がる必要のなくなった太陽はついに両膝と両手をついてしまい、息を整えようとする。

「……っ」
「天馬!」

それを今度はしっかりと見てしまった天馬は心配そうに太陽を見やる。苦しそうにしている太陽に駆け寄りたいが、天馬の事を呼ぶ神童の声により天馬は再び新雲の方へ上がって行く。
上がっていけば、天馬に回る神童からのパス。
これは新雲にとっても雷門にとっても決定的なラストパス。今、天馬はいつでもシュートを決められる位置に居た。
だが、そこで動けないだろうと思われた太陽が天馬の元まで上がってきていた。

「(打たせる、もんか!)」
「!」

後ろから太陽が来ている事が天馬にも分かっていたのか、動揺してしまう天馬。だが、決めなければという焦りが徐々に天馬の中で募っていき、天馬はシュートを決めようと、ボールに足を叩き付けた。

ガンッ!!

だが、天馬が蹴ったボールは何故かゴールの中ではなく、ゴールポストに当たってしまいボールもまたフィールドの外へと出てしまう。
天馬はここで初めて雷門の絶好のチャンスを逃してしまったのだった。

ピッピ―――ッ!!

ホイッスルがニ回鳴る。それは前半の試合が終了したという合図である。結局同点に追い込むのが精一杯で一点差も付ける事が出来なかった雷門。
ハーフタイム、という事で悠那が信助と共にベンチに戻って行く。もう既にフィールドの前線に居た選手達は戻っており、悠那と信助は葵からドリンクとタオルを受け取った。

「ユナ、はいっアイシング」
『え、何で…?』
「何でって…こぶはいいの?」
『……あ、すっかり忘れてた』
「おいおい…」

呆れられながらも葵から渡されたアイシングを自分のおでこに持って行き、冷やそうとする。だが、これがかなり沁みるのか少し当てただけで痛みが走る。まあ痛くても当ててなさいと言われるだろうと、渋々おでこに当てる悠那。ベンチでの空気は次の戦略を立てている鬼道や春奈が話していたり、浜野達もまたどうあのフィールドで走るかと話し合っていた。
そんな時、剣城がベンチで座り込む天馬に近寄っていった。

「松風。何故手を抜いた」
「え?」

その剣城の一言で、この場の空気が変わった。悠那も思わずアイシングをおでこから外してそちらを見てみれば、剣城が真剣な表情で天馬を見下げていた。天馬訳が分からないと疑問符を上げているが、剣城はそれだけで見逃す筈がなかった。

「今、雷門で本気を出していないのはお前だけだ」
「そんな…」

剣城の確信ついた言葉に、天馬もまた驚いたような顔をしながら剣城を見上げる。普通の人から見たら最後のシュートは選手のミスだと思われるが、剣城達からしたらどこか手を抜いたような感じにも見える。
だが、天馬が何故手を抜いたのか知っていた悠那は視線を下げてしまい、手元にあるアイシングをぎゅっと握った。

「やる気がないなら、フィールドから出ろ!」
「――っ!」

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