ピ―――ッ!

試合再開のホイッスルが鳴る。2-0と早くも点差を付けられてしまった雷門であり、またもや雷門からの攻撃でもある。これ以上点差が開かない為にも新雲学園の鉄壁でもある佐田というキーパーを打ち砕かなければならない。
そして、一番の厄介は雨宮太陽という10年に一人の天才の存在だった。

「うわっ!」

ホイッスルが鳴ると同時に剣城からボールを貰い駆け上がっていく倉間。だが、根淵が流砂を利用してきて倉間からあっさりとボールを奪った。
確か新雲はこのフィールドの事を聞いていない筈。にも関わらずこの流砂を利用したプレイに驚かざるを得ない。すると、根淵は太陽に向けてパスを出した。

「今度こそ抜かせない!絶対、勝たなきゃいけないんだ!!」
「勝つのは僕だ!!」

ボールを貰った太陽が汗を垂らしながら上がってくる。そこへ行かせないと天馬が彼の隣まで駆け寄ってきてお互いに肩をぶつけ合う。

「本当のサッカーを取り戻すんだ!!」
「僕はこの一瞬が全てなんだ!!」

お互いに一歩も引かない攻防戦。天馬が太陽からボールを奪ったものの、太陽にまた奪われてしまう。ボールに足が触れるものの、ボールは二人の間を行ったり来たり。太陽からボールを奪うのもそんなに簡単ではない。

「はあ、はあ、はあ…」
「(何だ、この感じ…あの時と、病院で初めてプレイした時と違う。全然楽しくない…どうして?)」

暑さでか、それとも早くも体力を失ったせいかは分からないが太陽の息は段々と荒くなっているのは分かった。天馬も様子を伺っているのか動きを止めている。だが、その内心今太陽とプレイしているサッカーが楽しくないと疑問ばかりが頭の中で過っていた。

「こんな所で止まる訳にはいかない!」
「!…あっ!」

『天馬…?』

一度天馬から離れるとフェイントをかけて天馬を抜き、雷門陣内へと斬り込んでくる太陽。抜かれた天馬の方を見れば、どこか困ったような表情をした天馬が居た。太陽を止める時もどこか違和感を感じてしまったが、今は自分の出来る事をしなければならない。天馬から視線を外してこちらに向かってくる太陽を止めようと集中した。

《止まらない、止められない!雨宮、雷門ディフェンスを切り裂き進む!!》

霧野を抜き、車田と狩屋を抜いて行く太陽。ついに悠那と一対一になった。
一瞬、太陽の勢いに飲み込まれそうになったが首を左右に振って太陽を止めに入った。

『ここは通さないよ太陽!』
「…っ!!」
『え…』

ふと、悠那の前で止まりだし、何かを耐えるような声を漏らす。やはり辛いのだろうか、と思考が過った時、太陽はパスを出した。体が弱いからと言って、もう彼に対して手は抜かないと決めていた悠那は直ぐにパスされたボールの方へと向かった。
ボールは根淵の方にパスをされたらしく、そのボールを胸で受け止める根淵。そのままシュート体勢に入った。

『させない!!』
「ふん、遅い!はああああっ!」

自分の足に勢いを付けてスライディングをかけて根淵の足下にあるボールを奪おうとするが、それは一歩遅く、シュートを打たれてしまった。
しまったと、地面に手をつきながらボールの先を見れば、信助が止めようとキーパーの体勢へと入っていた。

「化身で止める!――えっ?」

化身で止めようとしていたのか、信助の背後から靄が溢れ出す。だけど、それは何故か具現化される事はなく、そのまま消えてしまう。
練習の時は出せたあの化身が、何故か今になって具現化されなくなってしまったのだ。その事で信助も雷門の皆も疑問を感じた時、ベンチに戻った三国の声が響いた。

「信助!パンチングだ!」
「あっ!…よし!」

化身が出てこない事に焦りを感じ始めた時、三国がまだ防げる方法があると声を上げる。信助も直ぐに反応し、小さな拳を勢いよく前に出し、パンチングで何とかボールを跳ね返す事が出来たものの、そのボールは再び根淵の足元に転がってきた。
根淵は舌打ちをするものの、直ぐにまたシュート体勢に入る。

「なら、こいつだ!

うりゃあああ!!“海帝ネプチューン”!!」

根淵の背後から突如溢れ出す靄。靄の中から鋭そうな目が光ると、靄を切り裂くように手に持っていた物を振るう。
姿を現したのは、まるで七つの海を統べる大帝の化身、ネプチューン。髪は美しきエメラルドの海の如く。手には大きな三叉槍を持っていた。どうやら化身使いは太陽だけではなかったらしい。再び信助の前に現れた化身に、信助もまた対抗しようともう一度気合いを入れた。

「今度こそ!――…あ、どうして…?」

化身には化身と、気合いを入れるもやはり靄は少量だけ出るだけで直ぐに消えてしまう。それがどういう意味なのか信助には分かってはいないが、三国には分かっていた。三国はベンチから立ちあがり、再び信助に声をかけた。

「あの特訓を思い出せ!」
「…!」

ふと、信助の脳裏に流れたのはキーパーとしての特訓の時、天馬と悠那の言う集中しろという言葉。練習の時だって、集中したおかげで、剣城の必殺化身シュートを止める事が出来たのだ。少しだけ、信助は焦っていたのかもしれない。信助は二人の言葉を思い出し、集中し始めた。

「ぬぅううう!!“ヘヴィアクアランス”!!」
「(雷門のゴールを守るのは…)

僕だあああああああっ!!」

根淵から放たれた化身の必殺シュート。だが、完全に信助は集中をしている。三国の代わりにゴールを守るのは自分しか居ない。そう信助が思った時、信助の背後から先程の靄の量より溢れ出してきてついには化身が靄の中で目を光らせていた。

「“護星神タイタニアス”!!」

集中して、化身も具現化されていく。信助の“絶対に守る”という強い想いが具現化した、超巨大な腕を持つ化身。根淵の必殺シュートを、その大きな両手で勢いよく挟み込む。気付けば信助の両手の中にもボールがキャッチされており、雷門のゴールを守ったのだった。

《止めたああああ!雷門ゴールキーパー西園!なんと、化身を出して、ゴールを守った!!頼もしい新守護神の誕生だ!!》

信助が化身を出した事に助っ人へと来てくれた兵頭と南沢は観客席でよくやったと、嬉しそうに頷いてみせる。傍に居た逸仁もまた、苦笑しながらも信助の初めてのキーパーとしての様子を見て、よく止めてみせたと、褒めた。

「止めた…僕、止めたんだ!やったあ!!」
「信助!」
『信助!輝いてたよ!』
「うん!…三国先輩!」

初めて試合で止められた事に、信助がボールを持ちながら喜ぶ。集中する事を忘れなければ、雷門の新しい守護神はもう大丈夫だ。後ろは任せられる。信助が、三国の方を向けば、三国もまた力強く頷いてみせた。
三国のおかげでこのゴールを守れた。だが、もう次からは信助も自分で止める事が出来るだろう。
自信に満ち溢れた信助を見た神童も、笑みを浮かべて次に皆へと声をかけた。

「よし!反撃だ!!」
「「「「おう!!」」」」

信助一人の活躍により、雷門に勢いがつき、雷門の反撃が始まった。
キャッチしてみせた信助から神童へとボールが渡り、神童は一気に駆け上がる。すると、神童は砂の動きを見切ったのか、自分の足元で流れだそうとする砂が来る前に錦にパスを回した。

「(砂の動きは把握した。少しでも崩れ始めたら、それが砂の流れ出す合図だ)

“神のタクト”!!」

錦にパスをする神童。ボールを受け取った錦の所にも流砂が来たのか、直ぐに錦もまたパスを出す。
そして、神童もまた指に光りを集めて、思い切り揮う。神のタクトが発動され、神童の光の道標に雷門の選手達は光の通りに動いていき、パスやドリブルが成功していく。浜野から剣城へ、剣城から再び神童へ。
神童はゴール前まで上がっていった。

「(革命を成功させる!)」

DF二人を抜き去り、神童は再びゴールキーパーとの一対一となる。十分な距離まで上がっていった神童はその場で止まり、神童もまた集中し始める。

「はああああ!“奏者マエストロ”!!

“ハーモニクス”!!」

「“鉄壁のギガドーン”!!

“ギガンティックボム”!!」

二人して化身を繰り出し、お互いに必殺技をぶつけ合う。ギガドーンが神童の必殺化身シュートを両方の拳で叩きつけたが、神童達についた勢いはそれだけでは抑えきれなかった。

「本当のサッカーを取り戻すんだ!!」
「うっ……うわああああっ!!」

ピ―――ッ!!

神童の熱い想いの方が佐田の化身より圧倒したのか、佐田の化身技を打ち破り、シュートを決めて見せた。
ここで、雷門の方に一点が追加され、新雲と一点差となった。



prevnext


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -