再び太陽にゴールを決められてしまい、雷門は早くも二点差をつけられてしまった。
三国の方を見れば、もう普通のボールに戻ったそれを持ち上げるなり、肩を落としている。その背中が小さく見えてしまい、見ていられない。いくら化身の必殺シュートだからとはいえ、ゴールを守るのが三国のキーパーとしての使命。しかも一回目は必殺シュートではない、化身そのものの力を借りてシュートしたものだ。
悠那は視線を逸らしてしまい、自分のプレイを見返した。自分はシュートを弱めるどころか威力を上げてしまったように思える。これは自分の責任でもある。ふと、悠那の後ろで荒く息をしている人物が居る事に気付いた。

『太陽…』

化身を出す時はかなり体力を消耗する。それは天馬達に限らずにシードの人達もそうだった。だからこそ、今の太陽だってその筈。そして、彼は病を持っていて体の負担がかなりかかる筈。それでも二回も化身を出してきて、苦しくても雷門と真剣に勝負しようとしている。
そんな彼を少しでも心配した、自分はバカなのかもしれない。
彼の心配をするという事はつまり彼の行動をなかった事にしてしまおうとしているのと同じ。似てたのだ、自分の足が例え失っても構わないと試合を続行していた自分に。
悠那は、深く深呼吸をすると、自分のポジションに戻っていく剣城の所まで駆け寄った。

『京介』
「何だ」
『私を殴って』
「は…?」

いよいよ暑さにやられたのか、剣城の悠那に思わず目をやる。真剣そうな顔をして何を言い出すかと思えば、いきなり自分を殴れと今サッカーの試合にも戦略にも関係ない事を言ってきた。剣城があまりの事で呆然としているものの、彼女の目は真っ直ぐこちらを向いている。近くに居た倉間もまた呆気らかんとしている。

「お前…熱中症にでもなったのか…?」
『し、失礼な!ただ私は本気で殴って欲しいんです!』
「さすがの俺も引くぞ悠那…お前、日頃殴られ過ぎてとうとうMに目覚めたのかよ…」
『ち、ちーがーいーまーすーっ!!』

倉間もいきなりこんな事を言ってきた悠那を憐れむような表情で言ってきた。確かに日頃殴られるのが日常茶飯事であり、皆もまあ手加減してるだろうが、さすがにここまで来ると罪悪感さえも芽生えてくる。剣城も顔を青くしながら、同情するような顔で彼女を見ている。
このままでいくと皆に誤解されかねないので、悠那は必死に弁解しだした。

『私…試合だってのに、あまり集中出来てないし…それどころか太陽の心配までして…サッカーと向き合えてないっていうか…こう頭では分かってるんだけど、何ていうか…その…
だからね、喝を入れて貰おうか…とか、思ってたり…』

ほら、京介お返しとして!と、悠那は両腕を後ろに回して目を思い切り瞑ってみせる。彼女なりの殴られる体勢なのだろう。殴る殴られる云々の前に、彼女にもこの試合で集中をかき乱されてしまっているのは知っている。だが、それは皆に頼らず自分で解決しようとしているだろうと、推測していた。自己解決出来なかったその時は剣城自身が何とかしようと考えていたが、まさか自分からこうして頼み込んでくるとは思わなかった。
悠那は頼ってきたのだ、自分を。頼られ方が殴りつけるという残念な結果だが。

「じゃあ、大人しくしてろよ」
『う、うん…!』

体を強張らせながら剣城からの喝を受け止めようとする悠那。そんな彼女の両肩を掴みぐっと、自分の方に引き寄せる。一気に剣城との距離が縮まりだし、思わず悠那は目を開いてしまい、剣城を見上げる。すると、剣城の顔が近付いてきているのが見えて、悠那の顔もまた一気に赤くなっていく。
周りもそんな二人の様子に気付いたのか、ざわめきだしている。皆の注目を浴びていると分かった悠那の頭はどんどん働かなくなっていく。

『ちょ…京介…な、何を…』
「大人しくしてろ」
『は、はい…っ』

だが、止まらない剣城の近付いてくる顔。さすがにここまで至近距離の剣城は見た事もない。ただでさえ顔が整っている彼をずっと見ていられる筈もなく、ついにぎゅっと目を瞑った。
喝を貰いに来ただけだというのに、こんな顔を近くする喝なんて聞いた事もない。とんだ罰ゲームだ。悠那の頭は妙な緊張で働かなくなったものの、次に予想出てきた事が自分にとってかなり恥ずかしい物であり、それをやられるんだと理解すると悠那の心拍は早くなっていく。
剣城顔が息のかかる程近くなった時、

――ゴツンッ!!

一気に現実に戻された。

『い………

ったああああああああ!!!!』

不意に自分のおでこに来たどうしようもない衝撃。鈍い音が頭の中で響けば、解放された肩と後ろに回してた腕を戻し痛みを主張するおでこを抑え、直ぐに地面へと崩れ落ちていく悠那。ついには痛みのせいか目には涙が滲みだし、完全にフィールドへ蹲り女子にも関わらず「ぐぅおおお……」という呻き声を上げる。
想像していたのと全く違う感触に、思わず目の前に居るであろう剣城の方を見上げてみれば、彼は悠那に背中を向けていた。

『きょ、京介…』
「…次は集中しろよ」
『あ、う、うん…って、これだけ…?』
「何だ、想像通りの物をやって欲しいのか?」
『べ、別にキ、キキキ、キスを想像してた訳じゃ…!!』
「ほお…」
『…バカ!京介のアホ!変態!アンポンタン!!』
「んだよアンポンタンって…」

うわあああ!!と剣城から一気に離れて自分のポジションの方へ戻っていく悠那。それを横目で見送れば、不意に近くから妙な視線を感じて視線をそちらにやってみれば、そこには倉間がニヤニヤしながら剣城を見上げていた。

「何ですか…」
「いや、剣城は結構大胆だったんだなと思って」
「さっきのはあいつに喝を入れる為にやっただけで、深い意味はありませんよ」
「とか言って結構ノリ気だったんじゃねえの?」
「…もうボール渡しませんよ」
「それは困るな。っていうかお前おでこ大丈夫なのかよ。あいつめっちゃ痛そうにしてたぞ」
「まあ…強めにしましたし…」

という会話が二人にされている中、一人ポジションに勢いよく戻ってきた悠那は信助と霧野におでこの具合を見て貰っていた。

「うわ…痛そう…」
「腫れてるな…」
『目立つ…?』
「かなり…いや、でも前髪で隠れるから大丈夫かな…」
「うわあ…こぶ出来てる。でけえ…」
『ちょ、触んないでよマサキ!い!!痛い!!マサキこのやろ覚えてろ!!って、痛い!!』
「あははっ結構熱持ってるね」
『信助まで…!!』

かなり強めに頭突きされたのか、腫れてきている悠那のおでこ。熱も持ってきたのか、信助とマサキが触ろうと手を突き出せば、若干触れられてしまう。軽く触れられただけでかなり痛みを感じるようになってしまった悠那のおでこなので、前半が終わったらアイシングで冷やしてやろうとベンチでその様子を見守っていたマネージャー達は思った。

一方、キーパーである三国もまた苦笑しながらも直ぐに鬼道の方に振り向き、頷いてみせた。鬼道もまた三国の方を見ており、頷き返し審判の方へと視線をやった。

「キーパー三国に変わって――…西園」
「え!?」
『って、信助…?』

気付けば鬼道の視線がこちらのDF陣の方に来ている。信助は悠那のおでこを触ろうとしていたが、今の言葉で我に返ったのか、目を見開いていた。因みにこの交代はあの幻影学園以来である。信助の方を見てみれば、驚いていたものの直ぐに覚悟をしたように、はい!と返事をした。

…………
………

《なんと、雷門は西園をキーパーにしました。三国が負傷した訳でもないこの交代。果たして、鬼道監督の意図は!?そして、西園が居たポジションには車田が入ります!》

数分後、着替えてきた信助がキーパー姿でゴールの前へと立った。小さいながらもやはりどこかキーパーにあっている信助の姿を見て、小さく笑みを浮かべる。そして、さっきまで信助が居た所には気合いを入れた車田が入った。

「ディフェンスは任せろ!信助は俺達がカバーする!」
「頼んだぞ、車田!」

交代として、ハイタッチを交わす三国と車田。三国のキーパーを信助がやるという事となると、彼は必ずプレッシャーを感じてしまうだろう。DFである車田達がカバーをしなくてはならない。
DFの方に来た車田と目が合うなり、力強く頷き合った。

「三国先輩でさえ、守れなかったのに…僕に出来るのかな…?」
『信助。信助なら大丈夫!三国先輩から認めて貰ったキーパーなんだから、自信持たないと!』
「悠那…」
『信助、まだ不安?』
「うん、ちょっとだけ…でも、キーパーの誇りを持って戦ってきた三国先輩。その三国先輩が僕に任せてくれたんだ」
『うん』
「やるんだ…やらなきゃならないんだ!!」

パシッと自分の両頬を手の平で叩き、気合いを入れる信助。その表情は三国やいつぞやの円堂を見ているみたいな、キーパーの顔をしている。すっかり不安も消えた信助の表情を見て、悠那も安心出来たのか、力強く頷いてみせて自分のポジションへと戻った。
これで、自分の後ろは任せられる。自分の気持ちも、落ち着いてきた。

『(本気で、太陽とぶつかってやる…!)』

悠那は小さく息を吸うと、数秒止めて見せる。
そして、息を吐くと同時に太陽を見て、小さく闘志を燃やした。



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