《スターティングメンバーが発表となりました!》

集合のホイッスルが鳴り響き、それぞれのポジションへとついて行く。
いよいよ試合が始まるという時に、雷門の目の前には前半から太陽がフィールドに立っており、その左腕の方を見て再び目を見開かせた。

《注目すべきは新雲学園、雨宮太陽!!一年生でありながらなんと、キャプテンマークをつけております!!》

「「「「!」」」」

青のユニフォームに栄える黄緑色のキャプテンマーク。フィールドに立った時には彼が左腕を抑えていたから分からなかったものの、あの佐田という選手や根淵でも、真住でもない。遅れてきた太陽だったのだ。
そして、それがどういう意味を表すのか理解し始める時、ベンチでパソコンと睨めっこしていた春奈が声を上げた。

「ええ!?雨宮君だったの!?世界クラスの実力を持った10年に一人の天才と呼ばれるプレイヤーって…」
「そんなにすごい選手なんだ…」

一年にしながらキャプテンマークを付けていれば、自然とそう考えが出てくる。パソコンで調べなくとも分かり始めていただろう。だが、そこで改めて
思い知らされた雨宮太陽という存在。
天馬は太陽を見るなり、改めてすごい人物なのだと実感した。
その太陽は体を解すと、とある場所を見上げていた。

「医療チームを二組待機させました」

デザートスタジアムの観覧席。
そこには聖帝イシドシュウジが椅子に座っており、その傍らには以前天馬と悠那と顔を合わせたであろう白いスーツの男性。そして、その隣にはその男性によく似た少年が居た。千宮路大悟と、その息子である大和。そして、今イシドに耳打ちしたのは虎丸。
どうやら太陽の為に救護班を呼んだのだろう。彼等の目の前に映るは若干大き目の電子スクリーンに映っている雨宮太陽の姿。

「新雲学園はついに雨宮君を出してきましたか。ここで雷門に勝てば選手の票は全てイシドさんのもの。次も聖帝に決まりです。……負けられませんね」
「……」

千宮路の若干嫌味そうな言葉にイシドではなく、虎丸が反応して千宮路を見た。それでも千宮路は気に使用とせず言葉を続けた。

「イシドさん。貴方を聖帝にしたのはこの私です。私の代わりにサッカーを管理してくれる存在としてね。

……その地位を守って頂かないと困ります」
「分かっています」

イシドは千宮路の言葉にも微動だにせず、そう言葉を言った。
目の前には今にも始まりそうな空気の光景。観客席には月山国光の選手である兵頭、南沢、逸仁。三人は表情を真剣にさせているが、中でも逸仁の方がかなり険しい表情をしていた。

「(あいつと同じ目に合わなきゃ良いんだがな…)」

太陽と同じ病持ちだった裕弥。突然自分の目の前から消えてしまった親友。忘れようにも忘れられないそんな苦い思い出を噛み締めながら笑みを見せる太陽を見た。
関わりはあった。だけど、どうしても太陽という人物は自分の親友によく似ており、裕弥が生き返ったのかと思われた。そう感じてしまったからこそ、逸仁は太陽も裕弥と同じ思いをして同じ運命に遭うのではとおも感じてしまった。
そして、事実を知ってしまったであろう悠那もきっと動揺してしまっているに違いない。

「無理だけはするなよ…」

太陽も悠那も――
観客席に座っている逸仁はそれだけしか言えず、ただ膝の上で造られた拳をひたすら握りしめた。

「悠那―――!!頑張れ――!!」
『!…環、来てくれたんだ…』

ふと、騒がしい歓声の中より響いてきた声に聞き覚えがあり、あたりを見渡してみれば、観客席の方には環がこちらを見て手を振っているのが見えた。そう言えば、今度から応援に来れると言っていた気がする。さっそく来てくれたのか、と嬉しくて小さく微笑む。
今の環の声援で若干気持ちも落ち着いたのか、悠那も軽く手を振って見せて再び前を向いた。

《ホーリーロード準決勝、雷門対新雲学園!》

ピィ―――ッ!!

審判がホイッスルを思い切り吹き、フィールド中に鳴り響く。キックオフされ、動き出す試合。まず雷門ボールから始まり、剣城からボールを貰った倉間がドリブルで上がっていく。
開始早々、いきなり実力があるだろう真住が倉間に向かってくる。実力を聞いていたものの、倉間は挑戦的な表情で挑んだ。

「へっ、抜いてやる!」

抜いてやろうと、倉間がスピードを上げた時だった。

サァァアアアッ!

「な…何だ!?う、うわぁああ!」
「「「「!!」」」」

急に倉間の走っていた地面が横へと流れるように動きだし、身動きが取れぬまにボールを保持したまま流されるまま。ついに倉間はフィールドの外へと出てしまい、試合も始まって早々止まってしまった。

《いきなりフィールドが動き出した!!これがデザートスタジアムの特徴である流砂です!ランダムな砂の動きに選手達は気を付けなければなりません!》

倉間が流された地面は再び元の地面に戻り、何事もなかったかのように動こうとしている試合。つまり、このフィールドはウォーターワールドスタジアムの時みたいにランダムで何かが起こるようになっている仕掛けらしい。水の次には砂に悩まされるなんて思いもしなかった。
しかも流されればフィールドの外に出てしまい、攻め込む事だって困難だ。
この事は新雲は知っていたのか否か、雷門はまたフィールドに悩まされるのだった。

ピ――ッ!

試合開始のホイッスルが再び鳴り、新雲からのスローイン。真住がボールを持ち、そのまま太陽に回した。
ボールを胸で受け止めた太陽。そのまま上がろうとするが、それを神童が阻止しようと彼の目の前に立ち塞がった。

「いくよ、雷門!」
「!」
「太陽!」
「あの神童を…」
『あんな簡単に…』

神童に止める隙を与えず、簡単に抜き去ってしまう太陽。そして一気に雷門陣内へと斬り込んでくる。
だけど、それ以上進ませないと次は天馬が立ち塞がった。

「(すごいよ、太陽…でも、)」

天馬の脳裏にふと浮かんだのは病院で出会って少年達のボールを借りてボールの奪い合いをしていた時の事。あの時は何も知らなかったから思い切りサッカーが出来た。
だけど、今は――…

「天馬、キミとこうやってグラウンドで戦いたかった」

今正に天馬と太陽の攻防戦が始まると思われた。だがしかし、そうはさせまいと天馬と太陽の居る場所がゆっくりと動き始める。どうやら今度は二人の場所が流砂される場所だったらしく、二人はどんどんとフィールドの外に出されそうになっていた。どう抜け出そうか、と天馬が足を動かそうとすれば、太陽が楽しそうに足場を見て呟いた。

「へえ、こんな風に砂が動くのか。僕もさっき、初めて知った」
「え?」

その言葉に思わず天馬が驚きの表情を浮かばせる。どうやら、新雲学園はこのフィールドの事を知らなかったらしい。その事にも驚かれるが、太陽は流されているというのに焦らず逆に楽しそうにしている。
すると、太陽は思い切った行動を取った。

「なら、僕はこうするよ!!」
「! 誰も居ない所にボールを!?」

太陽は味方も敵も居ない誰も居ない場所へと高くパスを上げた。空高く上がったボールを見て、悠那は走り出し、瞬時に跳び上がった。

『やった、取れた…!』
「ユナ!」
「悠那結構やるじゃんっ」

ジャンプ力は信助に負けるかもしれないが、それでもボールは取れた。パスカットが得意な悠那にとって何も問題はないが、ここは流砂がいつ起こってもおかしくないフィールド。きっと天馬達の方の流砂が止まれば、次は着地する所が流砂が起こるかもしれない。
そう考えながら着地した時だった。
ふと、オレンジ色が視界に入った。

「やあ、悠那」
『!太陽…(いつの間に…!)』

不意打ちのように現れた太陽。悠那は若干怯んでしまったが、直ぐにボールを守ろうと自分の足を上手く使う。だけど、太陽もまた奪おうと必死に食らい付いてくる。どちらも一歩も引かず攻防戦を繰り返す中、太陽がフェイントをかけて悠那の足からボールを奪った。

「いただきっ!」
『しまっ…!』

悠那を交わして、太陽は一気に雷門のゴールへとスピードを上げていく。本当に病を持っているのかと疑いたくなる程のテクニックを持っている。悠那は垂れてきた汗を手で拭うと直ぐに雷門の方へと戻っていく。しかし、太陽の走るスピードが速い所為か全く距離が縮まらない。

「(僕だっていつか、太陽の下に出るんだ!!)」

雷門の方へ斬り込んでくる太陽に、今度は狩屋がマークしに行く。だがしかし、太陽の方がテクニックを持っていたのか、狩屋がマークに着く前に太陽は抜き去って行った。

「(誰にも邪魔させやしない!!)」

太陽一人に雷門のDFは翻弄されており、いつの間にか太陽は三国と一対一という形になっていた。
これが10年に一人の人間の力。三国はキーパーの体勢に入る。

「(もってくれ、僕の身体…!ホーリーロードで優勝するその時まで!)

……はあぁぁああ!!!」

走っていた太陽の背後から突如溢れ出す藍色の靄。いきなり飛ばしてきた太陽に思わず怯んでしまう。それ程までこの試合に真剣に挑んでいるのだ。もっと、彼が一之瀬に似てきているのは気のせいなのか。今は自分達が戦っているというのに、脳裏に浮かんだのは10年前のあの世界大会、アメリカ戦。
似ているのだ、太陽と一之瀬は――…

「“太陽神アポロ”!!」

神々しい輝きを放ち、四本の腕を持った太陽の化身。それは名前の通り太陽の神みたく熱く眩しい化身であり、太陽らしい化身だった。
あまりの化身の迫力に、三国もまた怯んでしまう。太陽はそのままボールを蹴りだし、一点を狙おうとする。だが、三国も対応しようと、高く跳び上がり自分の必殺技を繰り出した。

「でぇやあああっ!“フェンス・オブ・ガイア”!!

………うわぁあああ!!!」

必殺技で対抗するものの、太陽の化身シュートはかなりの物だったのか、全く歯が立たず、三国の繰り出した岩山は砕け散り、そのままボールはゴールの中へ。
ホイッスルも鳴り響き、掲示板には新雲学園の方に一点が追加されてしまった。



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