「いくよー!」
「こい!」

学校の授業も終わり、早くも放課後になった。一番にユニフォームに着替えて外のグラウンドの方へ出るなり、天馬と悠那はさっそく信助のキーパーの練習相手として付き合った。
今までなら肩を並べて相手からボールを奪っていた信助の姿が今では目の前のゴールの前に立っている。違和感だけど、どこか頼もしい彼の姿に思わず頬も緩みだす。まずは天馬からシュートする事になり、天馬はボールを打とうと距離を取る。

バシュッ

天馬の蹴ったボールは高い所でゴールに向かっていく。だがしかし、信助も身長で届かなくともジャンプ力で天馬の蹴ったボールを受け止めた。
ちゃんとキャッチして地面に着地した彼に、よく吹き飛ばされなかったなと目を見開かせた。幻影戦の時はキャッチではなく跳ね返していたからキャッチすると吹き飛ばされるのではと思っていたが、彼の言う誰かがかなり信助にキーパーとして鍛えたのだろう。

「昨日の特訓で何か掴んだみたいだね!」
『うんうん、前より頼もしく見えたよっ』
「そうかな?」
「そこに立つと信助が大きく見える!」
「よーっし!今度は悠那!頼むよ!」
『任せて!』

DFとしてではなくキーパーとして熱が上がっていく信助。天馬のシュートを止めたボールを今度は悠那に向けて転がしてそのボールを足で止めると、ボールから若干離れる。

『いくよー!――…』

バシュッ!!

『「え?」』
「?」

ふと、天馬と悠那の間を鋭い風が通り過ぎていき、目の前にいた信助の手にはサッカーボール。だけど悠那の足元を見てみてもまだ蹴られていないボールが転がっているだけ。
天馬と悠那はお互いに顔を見合わせると、直ぐに後ろを振り返った。
そして、そこに居たのは雷門のユニフォームとは違うユニフォームを着た人物が二人居た。

『「「南沢先輩!逸仁さん!?」」』

後ろを振り向いて見れば、そこには月山国光のユニフォームを着た南沢と逸仁の姿があった。あまりの人物の登場に三人して声を上げて驚く。南沢と逸仁は柔らかい笑みを見せると、こちらに歩み寄ってきた。

「やるようになったな、西園」
「っよ、合わせ鏡のお二人さん」
「――だが、これからの試合。このままでは通用しない」
「あ、あなたは…」
「どうして…」

別の場所から聞えてきた声。声が聞こえてきた方を向いてみれば、そこには随分と見覚えのあるユニフォームを着た人物がもう一人。その人物の登場にも驚愕の表情を隠せない三人。
何故この人達がここに居るのだろうか、そう疑問が過った瞬間、もう一人の月山国光の人物の後ろから更に誰かが歩み寄ってきた。

「驚いたか?」
『「「三国先輩!」」』

何故ここに月山国光のメンバーが居るのか、それは数分前の事になる。
天馬達三人がグラウンドで信助のキーパーの練習に付き合っている中、部室には南沢が来ていたのだ。

「久しぶりだな、三国」
「南沢じゃないか!どうした?雷門に戻る気になったならいつでも歓迎するぞ!」
「ッフ、その内、気が回ったらな。今日は、お前達の力になりたくてな。
これからどんどん強敵とあたる。三国、キーパーのお前も、もっと強くなくちゃいけない」
「南沢…!」
「その為に、この二人に来て貰った」

南沢の言葉の一言一言に雷門は喜びを表情に表す。すると、南沢が先程入ってきた入口が再び開き、そこから二人の人物が入ってきた。

「兵頭司と壱片逸仁だ」
「ども」
「俺達も助太刀させてもらう」
「兵頭、壱片、南沢…ありがとう」

助太刀として現れた二人に三国は嬉しそうに笑みを浮かばせて、三人にお礼を言った。革命を起こそうとしていた雷門を嫌い出て行った南沢が、今では仲間を連れてそれを助けてくれている。あの逸仁も、前まではチームメイトに敵視されていたにも関わらず今ではこうして仲間として上手くいっているみたいだった。

「じゃあ三国、今から特訓だ」
「待ってくれ。鍛えてほしい奴が別に居る」

こうして、先程の光景へと戻る。
意味を理解した天馬達は納得すると、それぞれシュートを打った事のあるメンバーをゴール前へと並べられた。
天馬、悠那、輝、倉間、神童、南沢、錦、逸仁、剣城という順番に並べられた選手達。兵頭はキーパーと選手達の間に入り、今からする事の説明を始めた。

「西園であったな?雷門のゴールを守る覚悟、見せてみよ!」
「はい!」
「特訓はPK戦の形式で行う。雷門が誇るストライカー達の渾身のシュートを、精神全霊で止めてみせよ!」
「はい!」

兵頭の言葉の一つ一つに気を引き締めて自分の目の前に居るストライカー達を見る。信助の真剣な顔を見て、蹴る側である天馬や悠那も真剣な表情へとなっていく。
先に蹴るのは天馬。信助は自分の拳を自分の手の平に叩き付けた後、両手を広げた。

「来い!天馬!」
「うん!」

置かれたボールに向かって蹴り出す天馬。天馬の蹴ったボールはゴールへと向かったが、信助はそれを見事止めに入った。キャッチした信助にナイスと心の中で言えば、ふと兵頭が天馬に何やら声をかけていた。

「手加減無用!」
「はい!」
「よし!次!」
『いくよ信助!』

信助からボールを受け取り、ボールを元の位置に置く。少し離れてから思い切りボールを蹴ってみせる。信助の身長より上にいったボール。それを信助は持前のジャンプ力で取ってみせた。
たった一日キーパーの練習したというのに、ここまでキャッチ出来るようになっているとは思わなかった。

「次!」
「いくよ〜!うっぎぃい〜!!」

輝のシュートも、

「よし!」
「これはどうだ!」

倉間のシュートも、

「やるじゃないか」
「はい!」
「いくぞ!」
「はい!」

神童のシュートも止めてみせた信助。FWの輝と倉間と、キャプテンである神童のシュートも止めてみせた信助はやはり練習の甲斐があってか、かなり止めていた。瞬発力といい反射神経といい、DFで鍛えられたものがキーパーとしても役に立っていた。
そして、次シュートを打つのは助っ人にきてくれた南沢だった。
ボールを地面に置き、今打とうとしている彼に、兵頭が声をかける。

「南沢。必殺シュートでいけ」
「!」

神童までは普通のシュートでいったが、ここで必殺シュートときた。キーパー素人相手にはまず普通のシュートが良いが、今はそんな事は言ってられない。雷門も一秒でも早く強くならなければならない。南沢は目を見開かせた後、直ぐに立ち上がって必殺技の体勢に入った。

「“ソニックショット”!」

音速で早くなっていく南沢の必殺シュート。それは今まで遠回りにゴールへと向かっていたボールとは違い、真正面に向かって行く。キーパーになって信助は一度も必殺技を受けた事がない。勢いよく向かってくるシュートに、信助は止めに入れず直ぐに吹き飛ばされてしまった。

「もっと集中しろ!さもないと、お前の体格ではボールに押し込まれるだけだぞ!」
「はい…!」

よろよろと起き上がる信助。速くも息切れしてしまっている。今すぐに信助に駆け寄って大丈夫かと、声をかけたい。だけど、隣に居る天馬も同じ気持ちの筈。
信助の為だと、自分に言い聞かせて黙って彼が再びキーパーとして立ち上がるのを見た。
次にシュートを打つのは錦。彼もまた、必殺技を繰り出した。

「信助、ここがおまんの正念場ぜよ!

“伝来宝刀”!」
「集中だああ!!」

赤い紅葉が舞う中、信助に鋭いシュートが向かっていく。
信助もそのシュートを止める音に集中し始めたのか、彼の背後から藍色の靄が少量だけだが、噴出したのが分かった。
それは、土手の上に居た鬼道や信助のキーパーの練習に付き合った立向居にも見えていた。

「信助!」
「今のは…」

靄が出ていたとはいえ、錦のシュートは止める事が出来ずにゴールの中にボールごと入ってしまう信助。倒れ込む信助の背後を見てみるが、そこにはもうあの重々しい色をした靄は全くない。
兵頭が目を見開くも、直ぐに逸仁の方を見てみれば、逸仁は信助の方を見るなり何やら考え込むようにしている。兵頭の視線を感じ取った逸仁は直ぐに信助から目を離し、兵頭に頷いてみせた。

――化身だ

そう確信持った表情をしており、逸仁の耳に付いているピアスがキラリと光った。

「…思い切り打って下さい!」

再び起き上がった信助が、今度は自分から思い切り打ってくれと頼みこんだ。
必殺技を受けたら信助の体だって持たない筈。それでも信助は自分からキーパーの特訓をやりたいと言ってきたのだ。
信助がキーパーの道を選ぶ瞬間だった。



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