「よし、次は俺だ」

信助の思いに便乗したのは雷門の助っ人に来た逸仁。月山国光のFWである逸仁の必殺シュート。
逸仁はボールを受け取ると、直ぐにシュート体勢へと入った。

「“アトミックストーン”!」

逸仁の必殺技を見るのは、これが初めてであり、それを今放たれてしまう。
ボールの周りに小石やら岩やらが集まっていき、やがてボールは岩となっていき、それを逸仁が思い切り蹴る。重く、そして勢いよくゴールへ向かっていく。

「集中だ!」
「うおおおおっ!!」

先程よりも信助の背中から溢れた靄の量が多くなった。だがしかし、化身は現れもせず、信助の体は再びゴールの中へ。必殺技になってから一度も止められていない信助。やる気はあるみたいだが、それだけでは彼等のシュートは止められない。
ベンチの方で見ていた葵達マネージャーはボロボロになっていく信助の姿を見て段々表情を曇らせていく。

「信助…」
「ボロボロ…」
「もうこのくらいにしといてやれよ」

水鳥が若干苛立ったようにそう訴える。だがしかし、近くに居た部員達も兵頭も神童達もそんな言葉が聞こえていないくらいに、信助を見ていた。もし、ここで止めてしまったらきっと信助の為にならない。それに、止めようと言って信助は絶対に続けてくれと言ってくる筈だ。
信助はまだまだと言うように立ち上がり、ボールを次に蹴る剣城の方へ転がせると、剣城はそのボールを足で踏みつけると、自分の必殺技を打とうとした。

「剣城」

ふと、名前を呼ばれてそちらを見れば兵頭と目が合う。すると、彼は何も言わずただ頷いてみせるだけ。それがどういう意味なのか、直ぐに理解した剣城は目を見開かせるものの、直ぐに自分も頷いてみせた。横に居た逸仁もまた、フッと笑みを浮かべて剣城に顎でクイッとやり、行ってこいと合図をした。
剣城は、再びシュートを打つ体勢を取った。

「(今度は剣城か…“デスソード”か、それとも“デスドロップ”…?剣城の必殺シュート…止められるかな…)」
「いくぞ!でぃやあああっ!

“剣聖ランスロット”!!」
「え!?」
「化身…!」

剣城が取った行動は、自分の必殺技を打つ事ではなく、自分の化身を繰り出す事。その事に誰もが驚くばかりで近場に居た天馬達も怯んでいた。

「無茶よ!必殺シュートだってまだ止められないのに!」

葵もベンチでそう叫ぶ。普通のシュートでやっと止められた信助。必殺シュートはまだ誰のも止められていない。それなのにいきなり化身シュートときた。これはまだ早すぎるのでは?と、不安になりながらも剣城を見る。
だが、それと同時に彼はもしかして…という思考が過った。剣城は今までに悠那、天馬の中に居た化身を呼び覚ませた事がある。低い確率で彼は二人の中の化身を呼び覚ませたのだ。

『京介…』

大丈夫だよね…悠那はランスロットに圧倒されながらも自分の手をぎゅっと握りしめた。
一方、目の前で化身を出された事により信助は戸惑いを隠せずに居た。今まで後ろで剣城の化身を見て、彼のシュートを見てきた。それが、今では自分の目の前でランスロットがこちらを向いている。化身のシュートを直接食らった事はないが、どれだけ強いか分かっている。
だからこそ、怖くて仕方がない。剣城の化身はこんなにもデカくて、強いのかと感じ取ってしまっった。

「(無理だ…僕には止められないよお…)」
「集中だよ信助!止める事に集中するんだ!」
『そうだよ信助!集中だよ!』
「集中…?――あ、」

一歩ずつ後ずさっていく信助。それがキーパーにとってどういう意味をするのか。天馬と悠那は必死に信助に止める事に集中するという事を訴えた。
そこで、信助は昨夜の事を思い出した。見ず知らずの自分に必死に練習に付き合ってくれた、あの一人の男性の言葉を。

――確かにキミには、ゴールキーパーの素質があるよ!

「…もっと集中だ!」

目を閉じて、キーパーの構えを取り直す信助。キーパーは怯んではいけない。後ろに下がってはいけない。仲間を裏切るような行為をしてはいけない。
さっきよりももっと集中するんだ。
剣城が左腕を思い切り振るい、宙に浮いたボールを蹴り出した。

「“ロストエンジェル”!!」

一直線に信助の守るゴールへと向かっていくボール。
迫ってくる必殺シュート、それはここに居る皆の思いが詰まったボールでもある。

「(止めてみせる!)

うおおおおおおおおっ!!!」

信助の叫び声と共に、背後から溢れ出す靄。それはものすごい風を吹かせて、天馬達の髪を激しく揺らす。爆発的なその風に思わず後ずさってしまったが、直ぐ傍に居た天馬にしがみ付いて目の前で起こっている出来事を見守った。
そして、気付いた時には風も止んでおり、ゴール前に居た信助はボールの上に手を置きながら座り込んでいる。呆然としながら、自分の今した事を理解し始めていた。

「化身が…出た…」
「すごいよ信助!」
『化身出せるようになったよ信助!!』

雷門の皆が興奮気味に信助に近寄って行って、信助にすごいと言っていく。
その雷門の皆の後ろ姿を、兵頭と南沢と逸仁は微笑ましそうに見ていた。助っ人として現れた訳だが、ここまで急成長していく信助や雷門に驚かされるばかりだった。

「あやつに化身を出す力があったとは」
「特訓、思った以上の収穫だったな」
「雷門の成長ぶりにはかなり驚かされるけどな」
「――ああ」

フッと笑ってみせれば、南沢もまたフッと笑って見せる。前までは喧嘩ばかりで仲間からも嫌われていた逸仁は、いつのまにかちゃんとした月山国光のメンバーとして、仲間としてここに居る。
そんな中、彼等に三国が近付いた。

「ありがとう、南沢」
「南沢あ!!」
「!?うわっ!!」

「おうおう、モテモテじゃねえか南沢」
「見てねえで助けろよ!!」
「それが人に頼む時の態度か?ん?」
「てめえ、後で覚えてろ」

三国が改めてお礼を言えば、南沢もまた体ごと三国に向き直り、笑みを浮かべる。すると、突然南沢に泣きながら飛び付いてきた車田と天城。あまりの唐突さと自分より重い人物達に抱き着かれた事により体勢を崩して倒れ込んでしまった。
それは彼等なりの感謝の気持ちを伝えている。逸仁と言い合いながら車田と天城にやめろと言っている南沢に苦笑しながら、三国は視線をゴールの方へと向ける。
そこには浜野に頭を撫でられて嬉しそうにしている信助の姿があった。

「よーっし!僕、キーパーとして雷門のゴールを守る!」
「信助…!」
「うん!」

――ありがとうございました!

…………
………

『やっぱり勇気兄さんだったんだね』
「あ、悠那ちゃん。久し振り、大きくなったね」
『まあね〜』

旧部室の方へ向かって行けば、そこには立向居が板にサッカー部と書かれた物を手で触っていた。その傍には春奈と鬼道も居る。こうして見ると本当に昔に戻った感覚がある。
とりあえず、えっへんと腰に手を当てそう言えば、立向居はふふっと笑って見せて悠那の頭を撫でる。相変わらず大きな手であり、若干円堂に似ている手。だけど、撫でるのはやはり立向居の方が上手い。

『信助がさ、すっごい人だったって褒めてたよ。優しそうだけど、結構熱い気持ちを持っていたって。守兄さんの事を知ってるって聞いてピンときたよ』
「よ、よくそれだけの情報で俺だって分かったね…」
『消去法でいったら辿り着いた』
「消去法だったんだ…」

どうせなら一発で当てて欲しかったな、なんて苦笑する立向居に悠那も吊られて苦笑の笑みを浮かべる。

『信助にさ、勇気兄さんがイナズマジャパンのメンバーだったって教えたら「サイン貰えば良かった!」って言ってたよ』
「あ、あはは…でも、あの信助君のおかげで、忘れていた気持ちを思い出す事が出来たよ」
『?何思い出したの?』
「あの頃の熱い気持ち…かな」
『ふーん…』

ん?熱い気持ち?一度は納得して見せたが後から何を言っているのか分からなかったのか悠那は首を傾げてみせる。うーんと唸っている彼女はきっと自問自答を繰り返しているであろう。そんな悠那の頭をもう一度撫でてみせれば嬉しそうにしてた。

「――ユナー!帰ろー!」
『あ、天馬が呼んでる。じゃあ、勇気兄さん、春奈ティーチャー、鬼道監督。さよーなら!』
「気を付けて帰るのよー!」

ふと、天馬が自分を呼ぶ声が聞こえてきて立向居の撫でる手も止まる。そこで悠那は立向居から離れて改めて三人の大人の名前を呼んで軽く手を振ってみせた。それを見て立向居も手を振り、春奈も忠告して彼女の背中を見送った。

「…なんか、懐かしいけど、ちょっと寂しいな」
「立向居にはかなり懐いてたからな」
「今一番彼女が懐いてるのは誰なんだろう」
「少し前までは誰かと離れるのが嫌だった彼女が、いつの間にか私達の傍を離れようとしている」

そして、少し前の自分達みたいに素敵な仲間と出会い、少しずつ彼女も成長していく。
春奈の言葉に、立向居はうんと頷いた。
彼女が変われたのはあの天馬君という男の子とその周りに居る仲間達のおかげなのだ。それを嬉しく思うも、やはりどこか寂しさを覚えた。

…………
………

場所は病院へと変わり、天馬と悠那はとある病室の前に立っていた。
コンコンコン、と天馬がその病室の扉をノックしてゆっくりとスライドさせれば、中にはナースである冬花がベッドを整えていた。

「こんにちはーっ」
『こんにちはっ…てあれ、』
「あ、天馬君に悠那ちゃん」
「冬花さん、太陽は?」

彼女が今整えているのはこの前まで太陽が使っていたベッド。だが、そこを見ても太陽は起きてもいなければ眠ってもいない。それどころか、彼の姿が見えない。徐々に不安になってきた天馬は冬花に彼はどこに行ったのかと尋ねた。

「太陽君なら退院したわ」
「そっかあ、誰も居ないからビックリしました」
「お見舞いに来てくれたの?」
『うん。でも退院なら仕方ないよね』
「残念がるわねえ、二人に会いたがってたから」

その様子が目に浮かびそうで悠那は思わず苦笑する。だがしかし、会いたかったのはこちらも同じではある。別に退院してほしくないという訳ではなかったが、もう少し彼と話してみたかった。

「退院したって事は、そんなに重い病気じゃなかったって事ですよね?」
「――!」
「今頃、どっかでサッカーやってるかな?」
『やってるんじゃない?結構サッカーやりたそうにしてたしっ』
「――無理だと思うわ」
『「え…?」』

これも目に浮かぶような光景。太陽が嬉しそうにサッカーをやっている姿が思い浮かぶ。その事で二人して想像していれば、冬花の否定の言葉が入った。
思わず、会話を止めてしまい、冬花の方を向く。冬花はどこか困ったような、寂しそうな表情をしており、まだ何も言われていないのに心臓が早くなるのを感じ取れた。
ああ、この感覚まただ。また嫌な予感がしてならない。お願いだから違うと言って。太陽はサッカーをやっていると、言って。
悠那のそんな思いも虚しく、冬花は二人に太陽の事実を言い放った。

「太陽君、小さい頃から病気で…本当は、激しい運動を禁じられているの。だからサッカーは…」
「そんな…」
『太陽が、サッカー出来ないなんて…』

現実は、なんて残酷なんだ…


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