次の日。天馬と悠那はいつも通りに登校していた。いつもと違うと言えば、二人の雰囲気だろう。表情もお互いに曇っており、どこか落ち込んでいる。
その原因はきっと、昨日出会ったあの白スーツの男性の所為だろうか。自分達のしている事は正しいと言われたのはその前の日に神童に言われたのにも関わらずこうも直ぐに悩んでしまう。そして信助の事もあり、どこか元気になれなかった。
その時、後ろから葵と水鳥、茜、狩屋が元気のない二人に声をかけた。

「おはよ!」
「おはよ…」
『おはよ、葵』

変わらない挨拶をしてきた葵に対し、二人は元気のない挨拶を返す。それを聞いて葵達もようやく二人の元気がないと分かった。

「二人共、元気がない」
「信助の心配か?」

はいそうです。なんて苦笑しながら水鳥に訴える悠那。いや、実はそれだけじゃない。昨日出会ったあの男性の言葉がどうも気がかりなのだ。いやにサッカーの事を分かっていたし、自分の推測だけでかなり納得する部分があった。あの人は一体何者なのだろうか。そして、その話しを聞いて自分の過去と太陽を思い出していた。太陽は、関係ないのに。
別のところで二人が落ち込んでいれば、ふと、自分達の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「天馬ー!悠那ー!」

その声に、皆して振り返ってみれば、そこにはこちらに駆け寄ってくる信助の姿。表情と声色からして、信助はもう悩んでいない事が分かる。何よりスッキリした表情なのだ。それを見て、自分達の心配はいらなかったと、顔を見合わせるなり、笑い合った。

「元気っ」
「天馬!悠那!授業が終わったら練習付き合ってくれる?」
「もちろんだよ!」
『全然大丈夫っ』
「あれから僕特訓したんだ!結構遅くまで頑張っちゃったよ!」

練習とはきっとゴールキーパーの事だ。あれだけ戸惑っていた彼なのに何でいきなりやる気になったのかは分からないが、断る訳もなく承知した。だがしかし、ここで疑問が生まれた。
確か信助はDF一筋でサッカーしてきた訳であり、特訓もキーパーの特訓のしようがない。何せゴールを守るのがキーパーの仕事。せめてボールを打ってくれる人が居ないと信助だって練習出来る筈がない。

「特訓って、一人で?」
「ううん。天馬達が帰った後で、僕に色々教えてくれた人が居たんだ!ゴールキーパーで、すっごい人だったなあ!」
「ゴールキーパー?」
「誰?」

ゴールキーパーでその人に色々教えて貰った信助。だけど、その人は雷門中に入っても全然問題ない人。ゴールキーパーと言われても、かなりの候補が浮かんでくる。まず円堂はありえない。まず円堂だったら今の信助はもっと興奮している。悠那が密かに唸っていれば、茜が信助に誰が教えてくれたのかを聞いた。だけど、信助は首を傾げて悠那と同じく唸った。

「誰って…誰だったんだろう…」

その言葉を合図に茜以外みんなずっこける。知らない人にキーパーを教えてもらう信助も信助だが、その教えた人も教えた人である。
一体どんな人が特訓に付き合ったのか、有名な人だったらかなり居るし、信助だって分かる筈。
そこで、ピコーンときたのが、10年前に学校を壊した黒歴史を持つ砂木沼治という人物。あの人ならジャパンに選ばれてないし、あまり知らないかもしれない。いや、それならジャパンで選ばれたけど、殆どフィールドに立ってないし、立ったとしてもキーパー以外のポジションで出ていた立向居勇気かもしれない。

『どんな人だった?』
「んー…優しそうな人だったよ!でも、結構熱い気持ちを持ってたかな!あと、円堂監督の事知ってたよ」
「円堂監督を!?」
「うん。かなり尊敬してたよ」
『あー…はいはい』

今の候補者で一番信助の印象で強かったのは後者だ。一応あの人もジャパンに出ていたというのに、信助は知らなかったのだろうか。多分前者でもう決まっていた。前者の方は多分信助は怖そうな人だったというに決まっている。それに、後者のキーパーの人だったらここに春奈と鬼道が居る事で自由に出入りする事は簡単だ。
自分の考える癖はここで役に立つのか、と苦笑しながら頷けば皆からの視線を感じた。

『な、何…』
「もしかして悠那分かったんじゃ…」
『あー…いや、でも多分だからね。それにキーパーやってる人なんてたくさん居るから――…』
「まあ推測でもいいから言ってみろや」

ふと、水鳥に肩を組まれて若干脅されている後輩みたいになっていた。
思わず体を強張らせて天馬達を見てみれば、天馬と信助は目を輝かせながらこちらを見ていた。これは助けてもらえそうにない。大体、自分の推測で名前を出して二人共知らなーいって言ってきたら後者のキーパーの人が居ないけど虚しい気分にさせるし、何より悠那もその言葉を聞いたら若干ショックを受ける。
仕方ない、狩屋に助けを求めようとそちらを向いた。

『何も喋ってないマサキ君助けて』
「…もっとやっちゃって下さい瀬戸先輩」
「よっしゃ」
『人選ミス!!』

若干首が締まった気がして顔が青くなっていくのが自分でも分かる。こ、これは教えた方がいいのだろうか…いや、別に隠してる訳じゃないが、もし皆に教えても誰だよその人って、立向居さんには悪いけどなってしまうだろう。しかも茜や水鳥は完璧に知らない。
悠那は上手く水鳥の腕から逃れると、皆から離れる。

『っさ、さあ皆さん!急がないと遅刻しますよ!ははっ、さようなら!』
「あ、逃げた」
「ま、待ってよユナー!」

これぞ言い逃げ。皆に有無を言わせずに一人だけ早く校門を潜っていく。そして運が良いのか茜と水鳥は学年が違うし、天馬達とはクラスも違う。つまり、教室の中に居ればとりあえず回避が出来る。
その代わり放課後が怖いけど。

…………
………

「おはよーなんか朝から疲れてる顔してるね悠那」
『あ、おはよ環ー…』

教室に着いて教室のドアを勢いよく閉めた後、自分の席に座るなり思い切り溜め息を吐く。すると、自分の席に環が近寄ってきて苦笑しながら話しかけてきた。そんな環に悠那は疲れた顔をしながら彼女に返した。

「聞いてよ悠那ー…バスケの試合負けちゃったー」
『ええ!そうなの…?』
「うん…良い所まで行ったんだけどさ…相手のスリーポイントが入っちゃってまさかの一点差で。は〜…三年生には申し訳ない事しちゃったよ…世の中最後まで気が引けないってこの事だよねえ…油断してたわ…」
『そっか…』

悠那の前の席に座るなり、彼女の口から語られるバスケ部の事情。実はバスケの試合もサッカーと同じ頃にやっており、環もバスケに集中していた。だけど、今回の結果はあまりよくなさそうで、項垂れている。因みに悠那の前の席は違う人の席だが、男子なので問題ないと環は躊躇なく座った。

「あ、でも次から悠那のサッカーの試合見に行けるから!負けないでよね、雷門イレブン!」
『もちろんだよ!次の試合も――』

――はははっ、そんなに俺と話したかった?
――俺は話したかったよ?天馬とも悠那とも
――ん?声が聞きたかったからっ

『――!!』

何で、また太陽の事思い出してんだ私…
また頭の中に太陽の声が過った。それは幻影学園との試合が終わった頃の会話。今思えばかなり自分は彼にからかわれていた気がする。でも、今何でその時の会話が思い出されたのか分からない。
どうして、こんなにも焦っているのかも分からない。

「悠那?どうしたの、具合悪い?」
『あ、いや!別に大丈夫だよ!次の試合も必ず勝つから!』
「そう?っま無理してまた倒れないでよね。この前の試合は溺れたっていうし」

最近のサッカーってよく分からないわよね、と環が呆れながら試合の時に使うフィールドの事を言う。そんな環の言葉に悠那はあはは、と乾いた笑いをあげながら必死に今浮かんできた太陽の事を忘れようとしていた。



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