ーH.R終了ー

入学式も時間がズレたが無事に終わり、クラスの皆へ一人だけ自己紹介をして、早くも放課後となった。因みに何故自己紹介を一人でやったかと言うと、他の人は自分が手当てをされている時に終わっていたらしい。
どうやらこのクラスだけ終わるのが遅かったらしく、廊下にはかなりの人達が出ていた。その中に天馬が居るかどうかを確かめたが、クラスにも廊下にもそれっぽい姿が無かった。

『天馬の事だから今頃サッカー部の部室かな…』
「あ、行くの?」

渋々教室に戻って来て、鞄の中に必要な物を入れていれば、環からの声掛け。その言葉にうん、と頷いた。環の姿を見れば、もう既に帰りの準備が終わっていたようで、鞄を下げていた。そういえば、バスケ部は今日体験入部、という名の仮入部があると聞いたな。

『環は体育館だよね』
「っそ、んじゃ私もう行くから、また明日!」
『んー、また明日ー!』

悠那は環の背中を見送り、自分も早くサッカー部の所に行こうと、教室を急いで出て学校を飛び出し、サッカー棟へと走って向かった。

…………
………

『確か、ここだったような…』

自分の目の前に聳え立つサッカー棟。あまりのデカさに当分慣れそうに無いな、なんて思いながら息を呑む。まるでアリの気持ちを理解した悠那だった。
それはそうと、中に入ればやはり中も外見と比べてスゴい広さをしていた。今朝は急いで移動した為、ゆっくり見れなかったが、ここも負けない程の広さ。暫く見て回っている内に悠那は部室の扉まで辿り着けた。無意識にも深呼吸をしてしまう。
そして、いざ入ろうと扉を開けようと手を掛けた。だが、その時扉は悠那が開けるより先に開いた。あ、これ手動じゃなかったと若干恥ずかしながら頭を掻いた。

咳払いをして改めて、とそこへ入ろうとした時、自分の目の前に影が出来た。

「ッケ……ん?…!お前…!!」
『え?』

相手は自分に気付いてなかったらしく、悠那は慌ててその人を避けたのでぶつかる事はなかった。が、相手は自分が避けた時に気付いたらしく、その人は自分を見て酷く目を見開かせた。確かこの人達はグラウンドに居た先輩達とマネージャー達だ。表情からしてこの男の人達は眉間に皺を寄せており、自分を見て更に深く刻んだ。
そして自分とぶつかりそうになった先輩の後ろに居た人が「コイツもじゃね?」と小さく耳打ちをしていた。それに対し、チッと舌打ちをされ挙げ句の果てには「退け」と言われ、強引にも自分の横を通って行ってしまった。

感じ悪っと、眉間に皺を寄せながら自分の横を通って行った先輩達の背中を見た。だが、それと同時に何かあったんだ、と今の雰囲気で分かった。これから自分はその空気に突入していくのか、と悠那は妙な不安と緊張感を持って、中に改めて足を踏み入れようとする。
すると、もう二人がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。その二人もまた、最初顔を俯かせてこちらに気付いていなかったが、自分に気付いた時に先程の先輩達と同じように悠那を見るなり驚いた顔をした。

「…行こう、一乃」
「…ああ」
『あ、あの…』

悠那がワンテンポ遅れて、声を掛けようとするが、二人はもう歩いて行ってしまった。こんな短時間で自分は先輩達に目を付けられるような事をしただろうか?と虚しなく感じながらも、開ききっている扉の中へと入って行った。
中に入れば、手前には天馬の背中らしき物があり、周りにはファーストに居た先輩達。その先輩達もまた自分を見るなり目を見開いてきたので若干泣きたくなった悠那だった。

『天馬、何があったの…?』
「あ、ユナ」
『あれ、葵が居る』

天馬の横には自分のもう一人の幼馴染みである葵。そういえば葵もまたこの学校に入学したんだっけ?と思いながら葵に近付いて行く。それと同時に天馬が自分に気付いたらしく、葵と同じく愛称で呼んできた。再開を喜ぶ前に悠那は天馬に改めて何があったかを聞いた。

天馬が言うには、先程ここを出て行った人達はあの京介との試合でサッカーが怖くなり、部活を辞めたの事。そして、それを必死になって天馬が止めようとしたが、それは逆に先輩達の喧嘩を売るという事になり、キャプテンがそれを何とか止めたの事。
なるほど、先輩達が自分にガンを飛ばしてきたのは自分も天馬と同じように止めに入るんじゃないのか、という事を想像していたのか。

『そっかー…』

と、若干困ったようには言ってみるが、実際の所どうでも良かった。先程睨まれ八つ当たりされたのもあるが、話しによれば成績の為にサッカー部に入っていたなんて全国のサッカー選手達やサッカーが大好きな人達に失礼だ。あ、それから守兄さん達とかにも。
すると、「どうしよう…」と天馬が眉を下げながら言うものだから、悠那は若干今自分の考えた事の前半を後悔した。
だけど、仕方ないのも事実。

『天馬はさー、あの先輩達にサッカーやってほしいんだろうけどさ、あの先輩達がやりたくないって言うんだったら別に良いんじゃないの?』
「え…?」

悠那は手を天馬の上にポスッとチョップし、そう言った。天馬はその意外な言葉を聞いて目を床から悠那に移した。
その目は何故?という顔をしており、悠那はその目とは間逆に何かを訴えかけるような目をしていた。

『私達は、その先輩達にとやかく言える立場じゃないでしょ?』
「ユナ…」

別にさっきの先輩達を庇ってる訳じゃない。でも、だからと言って責めてる訳じゃない。そう言って悠那は天馬の頭から上から下ろした。
天馬にやっていた目を外し、悠那黙って先輩達の居る方でも葵でも、誰も居ない方を見た。
先輩達の方を見たら絶対また睨まれるに違いない。でも、言いたい事を言わせて貰っただけなので後悔は、無い…多分…

静かになったこの部屋。どうも自分には静かになると考え事が多くなるらしい。自分の脳内に浮かんでくるのは今朝の事。あの時、無理矢理にでも京介を止めていれば、良かったのだろうか?寧ろ自分は今何にショックを受けているんだろう。
変わってしまった京介?自分を見る目?サッカーを潰そうとしている彼の姿?
それとも、10年前…どうしても日本に残っていれば良かった?

『(違う、全部だ…勝手に全部の事にショックを受けて、勝手に全部の事を後悔してる…)』

悠那はそう解決したと同時に、下唇を噛みしめた。

…………
………


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