春奈の治療が何とか終わり、霧野と神童より先に春奈に言われ、保健室を出て自分のクラスを教えて貰い、傷が染みる所に息を吹きかけながら誰も居ない廊下を歩いていた。今はどこのクラスもH.R中なのだろうか、クラスの前を通る度に聞こえる先生と生徒の声。
話しの内容は分からないがきっと今朝の事件の事である事は確か。そしてそれプラス今日の入学式の事だろう。
自分が事件を起こした訳でも無いのに罪悪感があった本当は今頃入学式が始まっていてもおかしくないのに、あの黒の騎士団の所為で遅らされてしまったのだ。他の小学校や中学校や高校は普通に出来たんだろうな、なんて思ってもみたが、ここで愚痴を言っても仕方ないので、考えるのを止める事に。

『1ーD、1ーD…――あ、あった。ここかな』

考えるのを止めた悠那は伏せていた顔を上げて、長い廊下を歩きながら壁から下がる札を次から次へ自分の目指すD組へと目指していた。すると意外にも直ぐ近くに自分は居たのでこれ以上先を行こうとする足を止めた。中から若い女の人の声が聞こえてきた。良かった。自分の担任の先生は女性だ。悠那は前から行くのもアレだったので、後ろのドアに手を掛けて、少し力を加えてスライドさせた。

「ん?おー、谷宮か?」
『あ、ハイ。遅れてすみませんでした』

どうやらこのクラスに居なかったのは自分だけらしい。それもそうか、と一人で納得しながら教室の中へクラスメイトの視線を痛い程浴びながら必死に目でどこが自分の席かを探す。そして、自分の席らしき所を見つけた悠那は椅子に手を掛け、座ろうとした。

「話しは大体音無先生から聞いてる。大変だったな(色々と)」

と、その先生は意味深な事を言い、悠那を哀れんだ目で見てきた。ああ、この人分かってる…と心の中で同人を見つけた気がして、感動しながら席に付いた悠那。座った時に隣に座っていた子に「宜しく!」と無邪気な笑顔を向けられた時は「よ、宜しく!」とどもりながら答えた。

「丁度入学式が始まる所だったんだよ。おーっし、じゃあ皆廊下に並べー」

少しだけ男の口調が混ざった先生のその言葉に、新入生の人達は入学式ヤダなー…と言わんばかりの顔をしながら廊下に渋々並んで行く。今日本当は午前中だけで終わるのだが、先程も言った通り先程の事件の所為で時間はお昼に近い。多分他の学校と比べて遅い入学式となるだろう。
折角席に付いたと思ったら今度は体育館へと向かうときた。悠那ははあ…と溜め息を吐きながら、廊下に出ようと腰を上げた。

廊下に出て並んでいれば、不意に悠那の肩をトントンッとつつかれる。振り向いてみれば、そこには黒い長髪をサラッと垂らしている女の子の微笑む顔が見えた。
はて、どこかで見たような顔だな、なんて思いながらも折角こちらに笑顔を向けてくれているんだ、と自分も笑顔にしながら返した。あ、思い出した。

『今朝の…』
「あ、覚えててくれてた♪」

と、少女は当たり!と言わんばかりに嬉しそうに笑った。確か、この子は天馬と剣城のボールの取り合いの事を説明してくれた子だ。あまりにもサラッとした少女だったので、一瞬だけ忘れかけていまが相手は自分の事を覚えていたらしい。しかも同じクラスときた。

「私、平山環!見たよ、あの試合っ」
『見てたんだ;』
「確か谷宮悠那ちゃんだったよね?もう覚えちゃったよ!」

私、人の事覚えるの苦手だけど、悠那の事は直ぐに覚えちゃったんだ!と、環は胸を張りながら堂々と言った。今の言葉を誇らしげに言っていたが、ぶっちゃけこれをどう反応して良いか分からなかった。そして、テンションの高さがあの時のダルそうに説明をした時とは随分違かったので、苦笑しか出来なかった。

「悠那ってサッカー出来たのね!」
『あー、うん…一応は』
「サッカー部に入るの?」
『うん、ずっと決めてたから』

そう答えれば、「へえ〜変わってるわね」と、予想通りの言葉が返ってきた。別にこんな事を言われるのは今の今までで慣れていたので気にはしなかった。小学二年生までイタリアでサッカーを教えて貰い、日本に戻ってきた時に散々言われてきた。
悠那はそれをまた苦笑しながら「よく言われる」と言い、環と名乗った少女に今度は自分が環はどんな部活に入るかを質問した。

「私?私はバスケ部!こう見えてバスケ得意なのっ」
『そうなんだ〜』

歩きながらの会話だったので、途中先生に注意されてしまった。環と直ぐに仲良くなった悠那はこの入学式が終わったらまた話そうと一人で決めていた。
それは環も一緒だったらしく、「また後で!」と後ろから耳打ちされたので、思い切り首を縦に振った。

友達って良いなあ…

…………
………

ー体育館ー

理事長の話しって長いな、と改めて感じた今日この頃。体育館の中は春にも関わらず少しだけ夏を感じさせる熱さ。周りからは熱〜とか、話し長え〜と小声で愚痴を零す声。そして理事長のダラダラと続く長い話し。
教室でブーブー言っていた人の気持ちが今ではスゴく分かる気がする。と出てきそうな欠伸を我慢していれば、視界がその欠伸の所為で滲んできた。こういう時は何かで気を紛らわすのが一番だ、と悠那は記憶の中を探る。
そういえば、二年生と三年生の人数少なかったなー…

最早考えるのさえ面倒くさくなっていた悠那は眠そうな目をしながら体育館の天井を見上げた。勿論目立たないように首を少しだけ上に上げるだけだけど。

『(暇だなあ…)』

ぶっちゃけ理事長の話しはすっごい真面目な人と先生しか聞いてないと思うんだ。他の人は自分みたいに右から左へと受け流してるに違いない。と、悠那は内心ひねくれた事を考えていた時だった。

「僕ね、こう見えて結構やるんだよね!」
『そーなんだー…』

ん?今誰に返した?
おかしいな、と思ったのも束の間。生徒達の視線はいつの間にかどこかのクラスに向けられていた。悠那も遅れて視線を移すと、そこには青色バンダナを付けた少年が椅子に立っており、何やら真剣そうにしていた。あの声の正体はあの少年だったのか…一人で解決していると、その隣に座っていた少年に目が行った。
髪型の両側にコロネを思い出させりようなものが。茶髪の髪色。

『(天馬だ…)』

違うクラスだったんだ、何かショック…と悠那は一人で溜め息を吐きながら、視線をその二人から天井に戻した。
早く終わらないかな、

…………
………



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