剣城に腕を引かれてついに学校を出てしまった悠那。これは下手したらボイコットというものになってしまうのではと考えてしまうが、正直な所あの部室に居るのも嫌だった。勝手にプレッシャーを感じて、勝手に怖がっていると思うとそれこそ居ずらくなってしまう。
前の自分だったら何を言われようが動じなかっただろう。天馬だってそうだ。間違っているのはフィフスの方。だけど、今は青山や一乃の情報を聞いて動揺を隠しきれていない。不安になる一向で、恨まれているとなると余計、怖くなってしまうのだ。
自分はいつからこんなに周りの目を気にしていたのだろうか。前で歩いている剣城の後ろ姿を見ながら必死に落ちていく歩く速度を上げていく。だが、剣城は悠那より早く歩いていると分かっていたのか、さっきよりも歩く速度を下げていた。
何も言わずとも彼は分かってくれる。それが嬉しくもあり、時に寂しく感じてしまう。学校を出てからというものの、自分達の間には会話がない。
にも関わらず、剣城と悠那は足を進めている。そして、その先には河川敷。
悠那はそこでようやく口を開いた。

『何で、河川敷に…』
「見ろ」
『聞いてんのは私じゃん…』

少しだけ拗ねながら剣城の見ろという所へと目線をやる。因みに河川敷と言っても自分達が居るのは駐車場の近く。目を凝らしながらそちらへと目をやれば、そこにはボールを持ちながら立ちすくんでいる天馬。そして、彼の前にはピンク色の髪で三つ編みツインをした女の人が居た。見た目からして女子高生だろうか、天馬は何やらその人と話しているが、その女子高生は天馬に何か一言言うとどこかへ走り去っていく。
その様子から見て、悠那が思ったのは――…

『告白?』
「……」

首を傾げながらそうボソッと言えば剣城からの冷たい視線。少しシリアスな雰囲気が漂うが、あれは告白という訳でもないだろう。剣城の視線が痛すぎたせいか、苦笑の笑みを浮かべて冗談だよと言った。
すると、あの女子高生が走り去って数分後。河川敷の階段の上に誰かが立っていた。
赤いスーツを着て白髪の髪に青いメッシュ。その姿は悠那や剣城にとっては見覚えがあってお互いに目を合わせる。お互いに表情を曇らせた。
何故なら、あの人物は…

『イシド…シュウジ…』
「何故聖帝が…」

表情は変わらぬまま、イシドシュウジと天馬を見比べる。天馬は最初誰が来たのか分かっていんかったのか、あまり警戒していなかった。だが、直ぐにあの人物が誰なのか、どういう仕事をしているのかを理解し目を見開かせる。
イシドシュウジはただ口角を上げるだけでそのまま天馬へと近づいて行く。今追い込まれている天馬に何か言うのではないのか、と悟った悠那は天馬の方に向かおうとする。だが、それは剣城に手首を掴まれてしまい、行く事が出来なかった。

『京介…』
「様子を見よう」
『…うん、』

不安はあるが、まずは様子を見るしかないだろう。これで自分が出て行っても何も出来る訳がない。悠那は剣城に手首を離して貰った後大人しく剣城の横に戻り天馬達の様子を見やる。
すると、イシドシュウジはいつの間にか天馬の目の前まで降りており、お互いに向き合っている。これからどんな事を言い出すのか。少なくとも朗報ではない事は確かだ。

「活躍しているな、松風天馬君。今日は鏡の片割れである谷宮悠那君は居ないのかな」
「鏡…何故俺に…」
「キミ達は雷門中を変えた。そして、今ホーリーロードを通じて少年サッカー界を変えようとしている」
「変えるなんて…俺はただ、大好きなサッカーを思いっきりやりたかっただけです。そう思ってるのは俺だけじゃなくて、ユナも思っています」

いきなり口を開いたと思えば自分の名前と悠那の名前をすでに知っているイシドシュウジ。さすが聖帝という訳か。一瞬怯みはしたものの天馬は直ぐに何故自分と悠那に会いたがっていたのか聞こうとした。だが、その思考は聖帝に読まれていたらしく淡々と天馬に向けてそう答えていった。
確かに自分達は他の人から見たら、雷門中を変えた少年少女。そして、今度はホーリーロードをも変えようとしている革命の風の元。だが、そんな物は本人達からしたら全くそんな事を気にして今まで試合を臨んできた訳ではない。確かにホーリーロードの試合の時は革命の事もあって大好きなサッカーを取り戻す為にやってきた。
だから自分達はそんな大層な事はしていないのだ。それを他の人達は通り名を付けていき、勝手に危険人物として見る。
それが、いつの間にか自分のプレッシャーへとなっていたんだ。

「あなたなんですよね…サッカーをこんなんにしたのは…
何故ですか?サッカーはもっと楽しくやれる筈です!勝敗を管理しなくても、サッカーは…!」
「キミは、心からそう思えるのかな?」
「どうして、そんな事を聞くんですか…?」
「キミはどう思う。フィフスセクターに反旗を翻した学校が廃校になった事を」

自分は…自分達はサッカーを心から楽しいと心から思っている。少なくとも今の管理されたサッカーよりも楽しい筈だ。にも関わらずこの目の前に居る人物は自分にそう聞いてきた。何回聞かれようが何回だってそう答えてみせる自信だってある。
だが、今はどうだろうか。一乃と青山の持ってきた情報に動揺し、挙句の果てに自分勝手に部活をサボってしまった。
だけど、一つだけ言える事がある。それは恐怖という感情と同時にやってきた物。

「許せません」

許せなかった。
言うタイミングも、実行するタイミングも、やる事も。全てが全て許せなかった。自分もまたフィフスの手の上で踊らされていると理解した時も怯えた事が動揺している自分が、情けなくなってしまった。

「そうだな、許せない。だがその事態を招いたのは紛れもなくキミともう一人の鏡だ」
「っ!」
「キミのサッカーへの想いが、サッカーを楽しくやろうとしている少年達から、サッカーを奪っている」
「……っ」

こんなのは屁理屈だ。自分を更に追い込んで動揺させるために、この勢いを無くす為の聖帝の屁理屈。頭では自分達がやっている事は決して間違ってはいないと思い込んでも、体の震えは止まってはくれず、反抗の言葉すら見つからない。
確かに自分達の真似をしようとして反旗を表していた学校もあったかもしれない。だが、それもまたフィフスの作戦であり、雷門は廃校にされるきっかけを作ったという事を表している。
つまり、昨日の敵は今日も敵という法則になってしまうのだ。一度は味方になってくれたにも関わらずまた雷門は敵を作ってしまったのだ。

「そしてキミも気付いた。本当はサッカーは管理されるべきだと」
「……」

そんな事はない。そんな事ない筈だ。そうだろう松風天馬。
出来てしまった心の隙間を、この聖帝イシドシュウジは見破った。そして追い討ちをかけるように自分に暗示してくる。
決してそんな事を思っていない。流されるな。
ボールを持つ手が震え、そのボールも震える。それはまるでそのボールが泣いているように見えてしまい、思わずもらい泣きをしそうになってしまう。
天馬は自分の弱味とイシドシュウジに負けじと顔を俯かせながらも自分の震える声を出した。

「違う…サッカーは――……」

天馬が自分の意見を言い出そうとした時だった。

「きゃぁぁあああッ」

「「っ?」」

女の人の叫び声が土手の上から聞こえてきた。その叫び声に、天馬とイシドシュウジが同時に顔をそちらに向け出した。
そちらの方を見てみれば、そこには女の人が自転車に跨っている男性にバッグを取られそうになっていた。

「ひったくりだ!」

と、状況をいち早く理解した天馬は持っていたボールを放り、急いで取られまいと必死に抵抗している女性の近くへと向かって行った。その放り出されたボール。それをただ黙って見下げるイシドシュウジの表情は一瞬だけ愛しそうに見えた。

「やめろ!離せ!!」
「何だお前!離せ!」

お互いに取られまいと引っ張るのをやめない。すると、お互いに引っ張り過ぎたのか、バッグは天馬の手の中に収まったものの三人同時に倒れ込んでしまう。
その時だった。

「この野郎!!」

ひったくりの男は邪魔が入った事に腹が立ったのか、尻もちをつく天馬に拳を振り上げて襲いかかってきた。反射的にも天馬は座っており身動きが取れなくなっている。このままでは天馬はひったくりと男により殴られてしまうだろう。そうなってしまえば次の試合に出れないかもしれない。見ていた悠那と剣城もまた驚愕の表情を浮かべている。
だが、ふと土手の下からボールの跳ねる音が聞こえた。
そして――…

バシュッ!!

天馬の目の前から男の姿がなくなり、代わりに空の上で輝く太陽の光が目に入った。
跳ねるボール。ふと、視線を土手の下へと向ければ、そこには今まさにこのボールを蹴り込んだであろうイシドシュウジの姿があった。

「そんな…」

『う…そ…』

信じられないと、信じたくないと――…
だけど、自分達が見たあの姿は間違いなく…

サッカー好きの少年少女の誰もが憧れる姿だった――…



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