サイクロンスタジアム。
そこはファンという巨大扇風機を使い竜巻を起こし選手達のプレーを乱すスタジアム。そして、そのスタジアムに立っているのは雷門でもなければ月山国光でもない。
青の中に黄色のラインが入ったユニフォームを着る選手達。

「これが準決勝の相手」

新雲学園。
それがその選手達の通っているであろう学校名。プレーを見る限り彼等は自分のプレーに余裕をもっている。それが証拠に新雲の対戦相手は決められたゴールに顔を歪めている。
それだけの実力なのだろう。
今、雷門は神童を中心に次の準決勝の相手がどんな所なのかを見ていた。準決勝なだけあり、残されているチームはどこも強者ぞろいだった。

「情報によれば、全てを兼ね揃えたパーフェクトプレーヤー。戦術、個人技、共に優れたチームと評価されている」
「ちゅーか結局ここも、フィフスセクターに支配されてる訳だよねえ?」
「残念ながらそうだ」

その評価とやらもフィフス内での評価だろう。もちろん、フィフスだけではないだろう。何はともあれ、雷門とこれから戦うチームは徐々に優勝をさせまいと集められたものと同じ。
浜野の言葉に神童は一度頷いて見せそう告げた。

「んな事分かりきってる事だろ。行く道は行くしかねえっての…

…な、何だよ」

当たり前と言わんばかりに告げる倉間。ふと、視線を他にやればベンチの方で天馬、輝、信助、悠那が目を輝かせながら倉間を見ていた。流石の倉間も大量の冷や汗をかいて引いている。何せ倉間自身あんなに輝かした目で見られた経験がない。

「倉間先輩の言う通りです!行く道は行くしかないんですよね!」
「そういうのすごくかっこいいと思います!」
『惚れ直しましたよ先輩!!』

と、ここでドカッと悠那の顔面に何やら物が飛んできた。ふがっという女の子らしくない声を上げながら自分の方に飛んできた物をよくよくと見る。すると、そこには倉間と書かれた筆箱だった。どうやら自分の顔面に飛んできたのは倉間の筆箱らしく、恐る恐る倉間の方を見ればこちらに背を向けている倉間の後ろ姿。
だが、耳だけは隠せなかったらしく少しだけ赤らんでいた。

『(なるほど、照れ隠しですか)』

可愛い所もあるじゃないですか倉間先輩。因みに先程の台詞は尊敬の意味で言っただけである。そんな事を思いながら倉間から投げられた筆箱を手に持っていれば、浜野が倉間の顔をそっと覗き込んでこちらへと再び振り返ってニヤニヤしながら倉間の方を指差していた。
それに気付いた倉間は浜野に向けてひたすら睨みつけていた。

そんなやり取りが当たり前になってきたこの雷門サッカー部。その時だけこの場の空気が軽くなっていった。

「それじゃあ、今日から練習メニューを対新雲学園に絞って――…」

その時だけは――…

ウィンッ

「大変です!フィフスセクターが!!」

神童がこれから議題に入ろうとしたと同時に開いた部室の扉。いつもより忙しなく聞こえたのは扉から入ってきた一乃と青山の様子が慌てたからだろう。今の自分達の表情と比べ二人の表情はどこか深刻そうにしている。皆の視線を集めた二人は息を整えるのすら忘れて自分達が今伝えなきゃいけない事を話した。

「どうした?何かあったのか?」
「フィフスセクターが、実力行使に出たんです」
「…実力行使?」
『……』

一乃と青山から告げられたフィフスの情報は、合わせ鏡に影響を施すもので――…

「雷門のサッカーに刺激されてフィフスセクターに反旗を翻した学校は聞いてると思うけど」
「天河原中とか、万能坂中とかですよね?」
「ああ、他にも全国でそういう動きになってきているんだ」
「へえ!全国的とはすごいね」

二人は一旦高ぶった感情を抑えて話しの序盤を話し始める。皆の知っているような事をまず話し始めてそこに付け加えるように話していく。
それを聞いたマネージャー達は嬉しそうに微笑んでいたが、二人は表情を変えない。話したかった事はそれだけじゃない。むしろ、その話の後に話す事が二人の表情を曇らせていた。

「でも、フィフスセクターはそういう学校を潰し始めたんだよ」
「潰しただあ!?」
「正確には、廃校にしたんです」

『「――っ!」』

天河原もかと、三国が興奮気味に二人に尋ねるが、どうやら天河原は大丈夫らしい。だが、他の地域の学校で三つやられたらしい。地区予選で負けた学校など、今こうしている間にも廃校になりかけている所もあるだろう。
これはつまり、

「見せしめって事ぜよ」
「ひでー事するじゃねえかっ」

拳を自分の手の平にぶつけて必死に苛立ちを抑える水鳥。さっきまでの温厚な空気ががらりと変わり始めていた。
だが、一乃達の話しはこれだけでは終わらなかった。

「ただ、廃校にされた生徒達の中には雷門を逆恨みしてる奴も居るって…」
「俺達に賛同した結果、学校がなくなるんじゃ恨みたくもなるだろうな」
「そんな…っ」
「やりかねないな、フィフスセクターなら」
『…う、そ』

冷静な霧野や剣城の台詞に動揺を隠せない天馬と悠那。フィフスセクターだけを敵に回そうと、革命を起こそうとした結果が他の学校を廃校にする挙句、雷門に向けて逆恨みをさせている。
これもフィフスの策略か。これで今まで雷門を放って置いてきた理由が分かった気がした。だからこそ、天馬と悠那は今までの余裕が一気に失せていく。

「あんまりですよ!そんなの許せません!!」
「ああ!冗談じゃないド!」
「この調子じゃ、俺達の風に乗ってくれた月山国光や白恋だって危ないぞ!」
「廃校とか潰すとか、そうなると今まで感じていた追い風が逆風になるかも…」
「逆風か…」

ズサズサと何か重荷のような物が天馬と悠那の上に降り注いでくる。それはきっと、プレッシャーという物と責任感という物。皆の許さないという言葉さえも、自分達に降り注いでくるのだ。別に皆の台詞が自分達に向かっているという訳ではない。二人が勝手にプレッシャーと責任感を感じているだけなのだ。

「いや、他校を廃校に追い込むくらいフィフスセクターは焦っていると考えられるぞ」
「フィフスは、革命という現実を感じ始めているんだド!だから廃校なんて手使って、結局は自分達の首絞めてるんだド!!」
「よく言ったぜ天城!こいつはもう、サッカー部だけの問題じゃねえ!全国の中学サッカーの自由を賭けた戦いなんだ!!」
「おおう!戦じゃ戦じゃあ!!やったるぜよ!!」
「っへ、すげえ事になってきたじゃねえか」

物の考えを改めるという事はこの事を言うのか、霧野を始め天城や車田までもが雷門の余裕を自分達に言い聞かせる。それを聞いた錦やら倉間もまた怒りを自身に変えて再びこの空気を変えようとしている。
すると、天馬の隣に座っていた信助も自分に熱が入ったのか、ベンチから立ち上がった。

「先輩達の言う通りだよ!やろうよ天馬に悠那!フィフスセクターは僕達が怖いんだ!そんだけ僕達強くなってきたって事だよね!」
「ちゅーか、二人が吹かせた風だもんな。やめる訳ないっちゅーの」
「でも、俺…」
『……っ、』
「…?」

信助が自分達の目の前に立ち、そう天馬と悠那に問いかける。改めてこう問われる事は無かった為、彼にとって珍しい事だろう。だが、それはもっと違う所で問いかけてほしかった。そして、そんな二人に追い討ちをかけるように浜野がこちらを見ながら当たり前だおると言わんばかりに同意を求めてきた。
それを聞いて改めて自分達はこんな単純で無責任な事を言ってきたんだと不覚にも考えてしまった。それは気付けて良かったのか、気付かない方が良かったのか。ただ自分達は今、とんでもない選択に立たされているのは間違いないだろう。
答えにくそうに浜野と信助から視線を逸らす天馬に声すら出なくなってしまった悠那もまた下唇を噛んで視線を自分の膝の上に移す。

「どうしたの?二人の風がとうとうフィフスセクターを動かしたって事でしょ?これってすごい事じゃない!」
「うん、でも…」
「皆、新雲学園に勝って決勝に進もう。
天馬に悠那。他の学校の皆だって俺達のようにサッカーをやりたがっている筈だ。その思いをもっと大きくフィフスセクターにぶつけていこう。

もっと強い風を起こすんだ」

ああ、もう聞きたくない。
まず思った事がそれだった。聞きたくないし、何も考えたくない。自分達に置かれた状況が、自分を追い込んで行く。もう何が正しくって何が正しくないのか、それすらも考えたくない。どうしてこんなに苦しいのか、どうしてこんなに辛いのか。
どうして、皆は自分達を期待するように見ているんだ。
まだこう感じるのが自分以外でもう一人居てくれて良かった。そしたら今頃自分はよく分からないプレッシャーに押しつぶされて嘔吐していた所だ。
…気持ち悪い、

そう、思考が過った時、自分の横に居た天馬がスッと立ち上がった。



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