いよいよタイムアップが迫ってきている。そんな中、試合は始まり幻影学園からの攻撃。
銅原がボールを持っており、それを追う青山。だが、銅原は取られまいと直ぐ近くに居た真帆路にボールを渡した。
ボールを膝で受け止めてドリブルをしていく真帆路。だが、そんな彼の前から天馬が行かせまいと向かって行く。

「行かせるか!」
「邪魔をするな!」

天馬より真帆路の方が気迫があったのか、天馬は彼を止める事が出来ず真帆路を通してしまった。

「お前達の革命など、ぶっ潰す!!」
「真帆路!!
フィフスのサッカーは間違ってるんだド!!」

再び真帆路の前に立ち塞がる天城。どちらも譲らない気持ちで目の前に立つ人物に向かって走りだす。
ボールを間に、お互いに強い蹴りを入れる。二人の蹴りがあまりにも強かったのか、ボールは今にも潰れそうになっている。だけど、真帆路と天城の視線はボールではなくお互いの目を見て真正面からぶつかっていっている。

「あの時のお前なら分かる筈だド!!」
「何い!?」
「お前は俺を守ってくれたド!それで自分がいじめられる事になってもだド!!」
「! 聞いたのか…!」

幸恵から後半戦が始まる前の休憩の時に自分に言ってきた本当の事。ようやく真帆路が何故自分から離れたのかを理解した瞬間だった。だからこそ、天城は真帆路に伝えたかった。昔の真帆路なら今頃自分達の仲間だった筈。だが、気付けば真帆路はあの時の勇敢な真帆路ではなく臆病になっていたのだ。自分も少しまであの時みたいに臆病になっていた。だけど、自分は変わる事が出来た。それは仲間に迷惑をかけながらだったかもしれないけど、こうして真帆路に説教まで出来るようになっているのだ。

「俺は、あの時の真帆路に戻ってほしいんだド!!」
「っく!」

少しだけ緩んだ真帆路の力を見て天城がすかさず自分の足に力を入れる。すると、力負けした真帆路はボールと共に吹っ飛んで行った。だが、直ぐに体勢を整わせて直ぐにこちらに飛んできたボールを自分に寄せる。天城自身もまたあまりの勢いに吹き飛ばされそうになったが何とか体勢を保つ。吹き飛ばされても尚、お互いに相手の目を見ていた。

「俺だって頑張ったさ!!
いじめになんか屈しないって!けど、強い奴が開いてじゃどうにもならないって、思い知らされたんだ!!」
「! でも、それは違うド!!」
「現実を受け止められない奴に、何が出来る!!

うあぁぁああ!!“マボロシショット”!!」

もう彼は自分の感情だけでこのシュートを打ち始めた。気迫の籠ったシュートは今までのよりかは多少荒っぽい。だけど消えたり現れたりは健全でそのまま天城の方へと向かって行く。
だが、そこで天城は怯む事なく真帆路の方をずっと見ていた。
そして―――…

「現実を受け止めたから出来てるんだド!!うぉぉぉおおおおっっっ!!!

“アトランティスウォール”!!!」

天城の気持ちが雄叫びとなり、それに答えようと言わんばかりに天城の足元から大量の水が溢れてくる。すると、天城の背後からやたらと巨大な城壁。まるで深海に眠ると伝えられる超古代文明。
アトランティスウォール。天城の新しい必殺技だった。

「あれは!?」
「新しい必殺技だ!」
『すっごい…』

「だド!!」

天城が新しい必殺技を出した事に驚いている味方を余所に自分の両腕を折り曲げ手を拳にした後、思い切りその拳をそのボール目がけて突き出した。天城の目の前に水色の半透明な六角形のシールドが現れる。その中には何やら文字が書いてあったが、古代の文字であろうその文字は自分達には読めない。一見薄そうに見えるそのシールドだが……

バンッバンッバンッ

消えて現れて。それを繰り返すボール。だが、それは天城の出したシールドを抜け出せないのか、何度もそのシールドに当たっている。今までの必殺技じゃ全く通用しなかったマボロシショットが、今ここで初めて通用する必殺技が真帆路の目の前で現れた。それは誰でもない自分の目を覚ませようとする友の気持ちから出来た必殺技にだ。
ボールは何度か当たると威力を失っていき、やがてはただの普通のボールへと戻った。大人しく天城の方へ転がるボール。さっきまで天城の雄叫びが響き騒がしく感じたが、いつの間にかフィールド中は静まり返っていた。
あんなに止めるのに苦戦していた天城が、真帆路の必殺技を止めたのだ。天城が、真帆路にもう無理しなくていいという終止符を打ったのだ。

「止めた…!」
『天城先輩が…!』

しっかりと真帆路の背後で見ていた。しっかりと天城の背後で見ていた。絶対防御不可能の必殺技を天城の新しい必殺技で。真帆路もまた止められた事がなかった為、驚きの表情を隠せないでいた。

「止めた…」

そこで一気に会場の歓声が上がった。止める事が出来なかった必殺技を見事防いだ天城への拍手と歓声。これらは全て天城へと向けられている。天城もようやくそこで自分が止めたお自覚したのか、徐々に頬を緩ませていった。

「や…った…!やったああ!!やったやったド!!
見たド真帆路!?俺止めたド!!」
「…!」

無邪気に止めた事に対して飛び跳ねながら喜ぶ天城。清々しいくらいに喜ぶ彼にもはや怒りすら覚えず、まだ真帆路は呆然と喜んでいる天城を見やる。
ふと、真帆路は自分の記憶の中で随分と懐かしいものが流れ込んできた。

それはまだ天城と真帆路が仲が良かった頃の事。幸恵と混ざってサッカーで遊んでいた。
真帆路が攻め込んで幸恵が行かせないとDFに入る。だが、サッカーをやっているからと言って幸恵よりうまかった真帆路は直ぐに幸恵を抜き。天城の方へと向かって行く。

小さい頃はそれだけで嬉しくて直ぐに笑っていた。そんな真帆路がループシュートをしようとボールを高く蹴り上げた。そのボールは高く上がり、天城の頭上を超えようとしている。だが、天城だってサッカーのルールを忘れていた訳じゃない。ボールを見逃さなかった天城は思い切りジャンプをし、お腹でループされたボールを受け止めた。
そして、今自分が何故それを思い出したのか。それは――…

「やった!やったド!やったド!
見たド真帆路?俺止めたド!」

昔とまんまの台詞を自分に指を差しながら言っていたのだ。そして、その後に彼は必ずがっははははと大口を開けて笑うのだ。
ほら、

「がっはははははは!!」

昔と変わらない奴じゃないか。
変わったのか変わっていないのか分からない天城を見て、真帆路は暫く唖然としていたが、ここで初めて心からの笑みを浮かべた。それはちょっと疲れたような吹っ切れたような感じだが、それでも真帆路はどこかやっと解放されたような表情を浮かべたのだ。

「…“マボロシショット”を止めやがった」
「! 分かって、くれたド…?」

ピ、ピ、ピ―――ッ!!

真帆路の笑みや台詞を聞いて思わず天城も呆然。そして、そう尋ねようとすれば審判が試合終了のホイッスルを吹いた。
雷門はここで、勝利を獲得したのだ。

「やったあ!勝ったあ!!」

天馬が右手を拳にして高く挙げた。それを見て思わず自分の右手の方を見れば自分の手は拳になっていない。だが、左手の方が拳になっており、肘がピクッと動いた。それを見て自分の腕ながらも無意識に挙げようとしていたのが分かる。
やはりあの不知火兄弟や逸仁のように自分達はどこか似ているのだろう。改めて実感した悠那は急に変な羞恥心に駆られてしまい顔に熱が集中する。そして、そっと自分の左手を右手で抑え込みそっと天城の方へと駆け寄った。

『やりましたね!天城先輩!』
「信じてました、必ず防いでくれるって」
「“アトランティスウォール”すごいです!」
「ああ、やったド!」

DF陣は敢えてこの試合の時、遠慮していた。それは天城の為であり、天城の親友の為でもある。それは余程の信頼がないとここまで我慢は出来なかっただろう。そして天城もまた信じられていたからこそここまで頑張れたのだ。
その後、車田もベンチから来て天城を小突く。そんな二人の様子を笑って見ていれば不意に目線がゴールの方へと行った。

「そういえば、悠那ちゃん顔赤くない?」
「っお、本当だ。何だ風邪か?」
『ちょっ、二人共黙ってくれませんか』

せっかく熱が下がり始めようとした時に輝と霧野がそう横から口を出すものだからまた顔の熱が上がり始めた悠那だった。
一方、ゴール前では呆然としていた信助に三国がやったなと信助を褒めていた。それを聞いて信助は嬉しそうにはいと力強く頷いた。



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