一点を入れて再び同点へと持ち越した雷門。試合はそこで一時止まり、選手の人達が自分のポジションに付くまでは動かなかった。
ボールは今雷門が居れたから幻影学園からの攻撃。ピーッという審判の笛の音で試合再開。真帆路が銅原に渡しそのまま駆け上がって行く。だが、少し上がってきた所で銅原に向かって行く剣城。マークされまいと、銅原は直ぐに影二へとパスを出した。そこへすかさず青山がボールを奪おうとするが、影二は軽く青山を交わした。

「幻一!」

自分の兄へと向けてパスを繰り出す。そして、彼より先に取ろうと、幻一の一歩前には悠那が居た。
ボールは空中で弧を描きながら落ちようとしている。それを見ながら走り込んでいる悠那。だけど決して自分の前で反応していたフリッパーを忘れている訳ではなかった。

『舐めないでよねっ

…うわっ!』

と、ボールに向けて跳び上がる悠那。だが、それは作動したフリッパーによりなかった事にされる。胸でボールを受け止めたはいいが、背後で浮き出していたフリッパーが作動し始め、悠那の背中から弾き返してきた。
おかげでボールは幻一の方へ行ってしまい、それを狙っていたらしい幻一は背中をフリッパーに打たれた悠那を見るなりフッと小さく笑って見せる。それを見た悠那はフリッパーが下がった瞬間にしまったと気付いた。このままでは信助の方にシュートが行ってしまう。自分が大丈夫と言った先がこれだ。
そんな事を後悔していれば、幻一は既にゴールへ向けてシュートを放っていた。

「きた!

…っふ!」

放たれたシュートはノーマルシュート。それを見た信助は勢いよく
ジャンプして頭を使ってボールを弾き飛ばした。

「やったあ!」
「これはどうだ!」

弾いたボールは当然フィールドの中にあり、札野がそれを拾って直ぐにボールを高く蹴り上げて誰も触れられないよう味方にパス。一見シュートにも見えたが、信助は逆からシュートを打たれると勘付いていた。案の定ボールは銅原の方へ向かっており、銅原もまたボールに向かって走っていた。

「(左か!)」

銅原が飛んできたボールを直ぐにヘディングをゴールに向かって放つ。だが、それもまた反応できた信助は低いながらもヘディングで弾き返した。高く上がったボール。それを影二が見逃す筈もなく直ぐにシュートを打ってくる。影二はちょうどゴールの真ん中らへんを狙ってシュートを放った。つまり、そこには加速帯がある。シュートをカットしようとした霧野だが、使われたのが加速帯だと分かりスピードが上がったボールを見て「しまった!」と声を上げる。
信助があれに反応出来るか分からない。だが、信助は直ぐに立ち上がった。

「決めさせない!でやあっ!!」

信助はいきなり自分のふんぞり返りながらそのボールへと向かっていく。そして、そのシュートを信助は足で弾き飛ばした。もちろん足で弾いたので信助は弾いた瞬間、尻もちをついてしまう。それが開いてにとっては隙にしか見えず、小鳩が弾かれたボールに向かって走り出していた。このままではまた一点を越されてしまう。もうあんまり時間がない。
雷門にヒヤリと冷や汗が垂れた時だった。

「貰ったあ!」
「おっとお!」

そこへ狩屋がボールをカットしだした。間一髪の狩屋のカット。狩屋はそのままボールを自分達より前に居る選手達に向けてボールを蹴り上げた。そして、ちゃんと仲間の方にボールが渡ったのを見て狩屋は信助の方へと目を移した。

「キーパーなんだから手え使ってもいいんだよおっ!」
「ああ、そうか!」
「なっは…」
『しょうがないよ、キーパー経験ないって言ってたしいきなりだったから』

声を上げながら信助にお前はキーパーなんだからと訴える狩屋。その姿がどこか可笑しくてふっと笑っていれば、信助もまたそうだったと言わんばかりに納得していた。そんな彼等のやり取りを苦笑しながら信助に呆れている狩屋を何とかおさめる。大丈夫、彼はこんな悪態をついているが、最近ではこれが狩屋なりの信助に対する大丈夫なのだ。
悠那が少し離れながら狩屋にそう言えば、狩屋は一度こちらを見た後信助を見た。そして、頭を掻いた後に信助に向けて背中を見せると、照れ臭そうに言った。

「…まあ、ナイスセーブだったぜ!」

狩屋からの褒め言葉。それは言われた信助も聞いていた悠那も一瞬呆然とするも、直ぐに嬉しさと喜ばしさが溢れてきて二人して顔を見合わせるなりニッと口角を上げだす。あの狩屋があそこまで素直になったのはこのサッカー部に居る皆が狩屋の中の何かを変える事が出来たからかもしれない。それがまた嬉しくて頬がどんどん緩くなっていくのが分かる。

「信助!その調子だ!頑張れ!」
「うん!」
『ね?大丈夫だったでしょ?』
「うん、そうだねっ」

ちょっと無い胸を張ってみたり。そしたら信助は苦笑するかなと思ってチラっと信助の方を見てみれば、彼は苦笑ではなく本当に嬉しそうにこちらを見るなり頷いてくれた。それを見た瞬間、悠那は不意打ちを食らったかのように呆然とする。だが、直ぐにいつもの調子を戻して若干顔を赤くしながら照れ隠しするみたいに彼にニッと笑いかけた。
そしたら、信助は直ぐに立ち上がってキーパーの構えをとった。

「僕が雷門のゴールを守るんだ!」

いつもより信助が大きく見えるのは気のせいではない筈―――…

一方、フィールドの方では狩屋からボールを貰った神童がドリブルで駆け上がっていた。傍には真帆路が居るが神童はあまり気にせず神のタクトを使った。

「青山!」

まずパスを繋げて貰うのは青山。相手にボールを奪われずにボールを受け取った青山。それを見た神童は次の指示を出す為に腕を大きく振るった。

「天馬!」
「はいっ!」

光の筋が青山から天馬の方へと伸びていくのが見える。それを見た青山は直ぐに光の筋の通りに天馬へとパスを出した。少し高いそのパスを天馬は胸で受け止める。だが、天馬の方へ向かってくる幻影学園の選手。それを見た神童は直ぐに光の筋を天馬に誘導させた。

「こっちだ!」
「はい!」

再び自分にパスが戻ってきた神童はそのまま相手陣地へと攻め込んでいく。少しドリブルすると神童の前には小津野が向かってきている。だがそこでも神童は慌てず冷静に次の指示を出した。

「剣城!」
「っ!」

今度は剣城。そこは殆どシュートチャンスであり、剣城もボールが奪われる前にボールを受け取り、腕を大きく振るった。

「はぁぁあああ!!“剣聖ランスロット”!!」
「いでよ…“勝負士ダイスマン”!!」

藍色の靄の中から具現化した剣城の化身。すると、箱野もまた化身で対抗しようと背中から藍色の靄を放出しだす。いくらサイコロが全部揃ったら必ず止まるとはいえ、結局は運とこちらの強さ次第ではその化身の必殺技も通用しない。
剣城はもう一度大きく腕を振るい、黄色と黒のオーラを纏ったボールを思い切り蹴り込んだ。

「“ロストエンジェル”!!」
「“ラッキーダイス”!!」

再びダイスマンの持っていたサイコロが振るわれ、フィールドに落ちて行く。五個のさいころが6を出す中、一つのサイコロだけは赤い点を出した。つまり1。サイコロは全て揃わなく、ランスロットはダイスマンを真っ二つに斬るかのように剣を突き出した。
ゴールネットへ突き刺されたように入ったボール。ダイスマンの必殺技はランスロットには通用しなかった。

「何!?」

ピ―――ッ!!!

剣城が決めた得点により、雷門はやっと幻影学園を越したのだった。剣城はゆっくりと化身の靄を消していき一息つく。
ふと、自分の体が誰かによって動かなくなった。

「やったな剣城!逆転だ!」
『さっすが京介!』

自分の身動きが取れなくなった訳が分かった。それは嬉しさで自分に飛びついてきた松風天馬と幼馴染みである谷宮悠那のせいだと。だけど不思議と不愉快だとか不快だとかは思えず離してくれるまで自分は待った。待ったせいか天馬は離れてくれたが、悠那はどうしても離してくれない。それに対しては剣城は何故じか急に照れ臭くなり、少しだけ間を置く。
ふと、振り返ってみれば自分の後ろには神童達がこちらを見て嬉しそうに微笑んでいるではないか。
そして、ゴール前では信助が嬉しそうに跳ねている。

「やった!やった!すごいよ剣城!!」
「…新米キーパーが頑張ってるんだ。これくらいしないとな」

信助の喜ぶ姿を見て、剣城はフッと笑みを浮かべてそう言った。そう告げた彼の口調や姿を見た神童は自分もまたフッと笑って見せた。彼もまた雷門の一員。自分達を嘲笑っていたような剣城はもう居ない。
いつまでも引っ付いている自分の幼馴染みを鬱陶しそうにしながら彼女を見る剣城の表情は本当に優しそうにしているのだ。

「いい加減離せ」
『もうちょっと…』
「ユナ戻ろっか!」
『はい天馬さん』

頬を少しだけ染めながら言う剣城はやはり彼女の愛の表現には慣れていないのかどこか初々しい。だが、そんな彼等の間柄に嫉妬していた天馬は笑みを浮かべていてもやはり気に食わなさそうにしており、その表情のまま悠那の肩を掴んでいた。痛そうにしていない所を見ると普通に掴んでいるのだろうが、天馬のどこかに怯えたのか悠那は直ぐに剣城から離れて一人でDFの方へ戻っていき狩屋と霧野と信助とで話し始めた。

試合ではタイムアップが近付いてきている。
雷門は改めて気合いを入れ直した。

…………
………



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