雷門から三点目を奪ったのはまたもや真帆路の必殺シュート。それを止める事が出来なかった天城と三国は悔しさで顔を俯かせる。やっと同点まで行きつけたのにまた幻影学園の点数を追いかけなければならなくなってしまった。

「ダメだド…俺の力じゃ、真帆路に分からせる事が出来ないド…フィフスセクターのサッカーは違ってるって…!」
「哀れだな。現実を受け止められない奴は」
「…っ」
「革命なんて出来ないんだよ。臆病者のお前なんか」

低い声が天城の後ろから聞こえる。それは真帆路本人の声であり、その言葉は今の天城にとってかなりショックを受けるものだった。確かに革命なんて事はスケールがでかいし、最初は抵抗があった。だけど、自分達がやっている事は決して間違っていない。間違っているのはフィフスの方だと。だけど、今の自分では何を言っても彼の心には届かない。今の自分は言葉だけの臆病者。言っているだけではそれと同じだ。
真帆路が去って行く。天城は自分の拳を強く握りしめる。

「俺には…無理だったんだド…っ」

そして、その拳は力を無くしたように緩んでいき、もう拳にはならなかった。
目の前でそんな二人のやり取りを見ていた輝。膝を付いたまま立ち上がろうとしない天城を見て、輝は表情を曇らせた。

「天城先輩…

勝ちましょう!この試合!!」

意を決したかのように声を上げた輝。先輩に対して意見を言うのは輝にとってはこれが初めてだろう。彼が意見するという事はそれだけ心配しててそれだけ気にかけていたという事。輝の言葉に天城の緩んでいた手が再び拳になる。輝は天城の方へ駆け足で近付いて行った。

「僕達のサッカーは革命を起こせるんだって!分かって貰うんです!!」
「影山…」
「…っだから、諦めないで下さい!!」
「!…」

そう、自分達は臆病者だ。だけどそれは一人だったらの話し。自分は一人で戦っている訳じゃない。周りを見ろ。自分の事を心配してくれている仲間がこれだけ居る。自分と一緒に戦ってくれる仲間が居る。フィフスに負けてたまるか、真帆路に負けてたまるか。
輝の言葉に、天城は諦めかけた自分の想いを振り払い、頷いて見せた。
そんな彼等の様子を見ていた天馬と神童、悠那。天馬は悠那と顔を見合わせた後、神童へと振り返った。

「キャプテン!やりましょう!」
『今度こそ大丈夫です!』
「ああっ」

輝達のやり取りを見て、こちらまでやる気になった天馬と悠那。神童はやはりこの二人は似ていると感じながら、頷いて見せた。

…………
………

白熱した試合が続いている雷門中対幻影学園。絶対防御不可能のマボロシショットに加え、化身を所持していたGKで守りを固めた幻影学園は圧倒的に有利。しかし、一点のビハインドを背負いながらも積極果敢なプレーを見せる雷門イレブン。果たして追いつく事が出来るのか。
バンパーを使いながらのパスやドリブルも使いこなせるようになった雷門はここで勢いが付いている。そして、天馬もまた今正に真帆路を抜き去っていった。

「やった!」
「っく…!」
「キャプテン!」

抜かれた事により、若干焦りを見せてきた真帆路。そんな彼を余所に、天馬は少し先に居る神童にパスを出した。パスを受け取った神童はドリブルをしながら、自分の前にちゃんと輝が居る事を確認する。

「影山!!」
「はいっ!」

神童から再びボールを貰う輝。輝の目の前には二人の幻影学園の選手。先程とフリッパーとの距離が遠くなっているが、輝はそこでドリブルを止めた。

「そいつのシュートはフリッパーを突破するぞ!止めろ!」
「「おう!」」

こちらに向かってくる幻影学園のDF陣。だが、輝は焦る事なく、次に自分がやらなければならない事をした。それは、読み込みが早い輝だからこそ出来る事。向かってくる二人のDF陣を気にせず、軽く蹴る。すると、それに反応したフリッパーが現れてボールを弾き飛ばす。箱野は「フリッパーの餌食か」と笑っていたが、それは雷門にとって次のシュートチャンスとなっていた。

「サンキューぜよ影山!」
「何だと!?」

フリッパーが輝の蹴ったボールに反応し、弾き飛ばす。それは幻影学園からしたらシュートミスとなっていただろうが、雷門には雷門なりの考えがあったのだ。フリッパーに弾き飛ばされたボールは別の方に飛んで行ったが、そこにはちゃんと錦が居た。

「行くぜよ!“伝来宝刀”!!」

右足を高く上げれば、錦の周りに赤い紅葉がひらひらと落ちてきて和風さを出す。すると、上げられた右足からオーラが纏ったと思えば、それはその名の通りの刀。それを振りかぶってボールを蹴る。切り裂くように地面の上を滑っていく。伝説の刀のごとき鋭さに、箱野は反応出来なかったのか化身も出せずゴールを許してしまったのだ。

ピ―――ッ!!

錦の伝来宝刀が決まり、雷門は再び同点へと持ち直した。

「どうじゃ!やったぜよ!」
「錦先輩、あんなすごいシュートが打てるんだ!」
『さすが錦先輩…!』

これでお互いあと一点でどちらかの勝ちが決まる。それを理解すると、幻影学園の表情は始まった頃より焦っているようにも見える。あの監督である宝水院でさえも焦りの表情を見せているのだ。フィールドの攻略だって、今では雷門の方が押しているように見える。幻影学園の余裕が失われた瞬間だった。

「同点だと!?何をやってるんだアイツ等は!!」

「(よし、このチームの勢いならいける。試すチャンスなら今だ!)…監督!」
「…西園、キーパーに入れ」
「…えっ!僕ですか!?」

試合の具合と、タイミングをずっと見計らっていた三国は意を決したかのように鬼道へと声を上げた。それをまた鬼道も考えていたのか、三国の方を見るなりうんと頷いて見せる。だが、春奈達は何故三国が鬼道を呼んだのかは分かっていない。だからこそ信助がキーパーに入る理由もまた分かっていなかった。

「信助を?」
『何で?』
「……あ、」

鬼道の指示の声はフィールドの方にも聞こえていたらしく、天馬と悠那は疑問符を浮かばせる。だが、神童だけは唯一三国と鬼道の判断を理解した。
木戸川戦の時、一度三国の代わりにゴールを信助が守った時があった。三国は自分達が卒業した後、キーパーを誰にするか悩んでいた。そして、その候補に選ばれたのが自慢の脚力を持つ信助。確かに身長はこの雷門の中では一番小さい。だけど、サッカーを好きな気持ちは天馬や悠那に負けない程ある。そんな彼なら、このキーパーを絶対に守ってくれるだろう。

「いきなり実践か…」

練習もしないでいきなりの実践。確かにぶっつけ本番とも言うが、三国も革命をやる事になってきた頃から積極的になってきた。そしてそれを許可した鬼道もまた円堂の影響を受けていたのか知らないが、思い切った事をしたものだ。

「信助!お前なら出来る!」
「信助!三国先輩が出来るって言ってくれたんだ!自信持って!」
『大丈夫!信助なら止められる!』

そんな根拠はどこで出るかは分からない。ベンチの方で皆に驚愕の表情をされながら見られている信助。呆然としながら鬼道の交代の指示の言葉と三国の言葉を頭の中でリピートされていく。
三国や天馬や悠那にそう応援され、信助は少し考えた後うんと頷き、もう一つのキーパー用のユニフォームへ急いで着替えてフィールドに立った。
フィールドプレーヤーとしてのユニフォームを着ていた信助のキーパー姿。三国のキーパーのユニフォームより黒が主のユニフォーム。ユニフォームにも、彼がゴール前に居る事にも違和感を覚える。ゴールもどこか広さを感じてしまうが、信助も緊張顔だが任された仕事を成し遂げようとしている。

「キーパーは集中力だ!頑張れ!」
「うん、」
「監督も思い切った事をするよなあ」
「……」

二度キーパーの役割をした事がある天馬の意見。彼だからこそ言える意見だが、それは誰にでも言える言葉だろう。信助もその事を改めて言われ、うんと頷く。思い切った事を指示した鬼道に狩屋もまた言葉を零さずにはいられずそう口に出す。それはまるで信助で大丈夫なのか、ぶっつけ本番で大丈夫なのかという意味もあるように聞こえてしまい、信助は自身を無くしたかのように顔を俯かせてしまう。

『大丈夫だよ、信助!』
「お前の瞬発力ならどんなボールにも反応出来るド!」
「それと、ボールの跳ね返りをしっかり見ていけよっ」
「はい!」

ふと、悠那の言葉。顔を上げて見ればそこにはニッと笑みを浮かばせる悠那。彼女の口癖である大丈夫という言葉。いつも彼女の大丈夫は失礼だけどあてにならないし不安になるばかりだけど、今回は何故か大丈夫なように思えた。それが例え彼女の隣に居た霧野や天城の影響だとしても、この大丈夫は本当に大丈夫なんだ。少しでもそう思えた。

「アイツ、キーパーの経験はない筈だぞ?」
「どういうつもりだ」

こちらの様子に驚いていたのは雷門もそうだが、幻影学園の選手達もまたそうだった。自分達の雷門情報には確かにあの西園信助という人物はキーパーではないDF選手だ。幻一も影二も真帆路も驚愕のあまり口を開けたままだった。

「この交代、大胆過ぎませんか?」
「これはこの試合に必ず勝つ為、そして未来へ繋げる為の交代だ」
「未来へ…?」
「俺達のサッカーは必ず続いて行く。それを皆に伝える為なんだ」

鬼道は監督として、一人のサッカー好きとして鬼道はこの試合に、信助に賭けを挑んだのだった。

…………
………



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