鬼道の判断により、審判も交代を認め交代する選手達の背番号を表す。
青山はMFの浜野と代わり、輝は倉間と代わる。浜野は倉間と水鳥に支えて貰いながら二人が居る所へと足を引き摺ってきた。

「大丈夫か?浜野…」
「へーきへーき、ちょっと走れないだけだから」

と、苦笑気味の表情で青山にそう言う浜野。表情こそ軽そうに見えるが走れない程痛みが増していると分かる。そんな事を平然と言う浜野に支えていた水鳥はイラッときたのか、彼が自分の肩に腕を回している事を良い事に彼の手首を力強く握った。それはもう握ったという易しいものではなく、本当にその手首を握りつぶしてしまうぐらいに力強い。浜野もさすがに足の痛みを忘れてそちらの痛みを真っ先に顔を歪めた。

「それって平気じゃねえだろ!?」
「痛い痛いっ!!ギブッ!ギブッ!」

水鳥の鋭く痛いツッコミに浜野は今度こそ苦笑すら出来ずに痛みにもがく。水鳥の様子に三人は呆然とするしかない。痛みにもがく自分の友人を情けなく思いながら倉間は浜野から視線を外し、青山と輝に移した。交代というのは正直な所悔しいが、それ以上に彼等に期待しているのだ。

「頼んだぜ。青山、影山っ」
「ああ」
「はいっ!」

こう思えたのもきっと天馬や悠那、そして円堂監督のおかげかもしれないな、なんて思えてきた倉間。だけど、自分はお礼も言わないし口に出したくない。それは照れ臭さからきたもの。自分は天邪鬼な性格だから不器用で分かりにくいが、ちゃんと心の中では天馬達に感謝していた。
そこで青山が浜野の居たMFに入り、輝もまた剣城の隣に並んだ。

「バンパーポールとの距離を意識して、ボールの跳ね返りに対応出来るようにな」
「そして、裏のスペースに注意だな」
「ああ。サイドは任せたぞ」
「おお!」

MFに入る前、神童に改めてバンパーの説明を受けておさらいする。一通り自分がやらなければならない事を聞いた青山は直ぐに浜野のポジションへと移った。
メンバーチェンジをした所で直ぐに試合開始。幻影学園からの攻撃で早速真帆路が攻め込んできた。

「…!」

真帆路の目の前にふと現れた神童。それを見た真帆路はボールを取られまいと、近くにあるバンパーに向けて蹴り上げた。フィールドの中にあったバンパーが現れ、真帆路の蹴ったボールを跳ね返す。ボールの方向は真帆路ではなく、小鳩がおりそのままいけばあのボールは間違いなく小鳩に渡るだろう。だが、させまいと彼の背後から走ってきた人物がそのボールを小鳩よりも先に受け止めた。

《おっと!これは青山がボールの跳ね返りを読んでいたあ!!》

先程負傷した浜野の代わりに入った青山。ボールの飛んでくる方を予想していたのか、正確にボールを受け止めて幻影学園の流れを止めた。
だがしかし、まだ安堵は出来ない。ボールをカットした青山の目の前に奪い返そうと上がってきた小津野。

「行かすかよ!」
「“プレストターン”!」

ボールを奪いに来た小津野。だが、そんな彼を青山は必殺技で抜いてみせた。その必殺技は誰もが見覚えがあり、完成度も高い。神童の必殺技だった。

「やったあ!」
「あれはキャプテンの必殺技だ!」
「(あいつ、しっかりやってたんだな)」

ベンチでは青山の必殺技の成功に喜ぶ一乃。どうやら青山は皆に追いつけるよう努力して、神童の必殺技を完成させたのだろう。

「(やったぞ、一乃!)」

部活が終わった後、皆が帰って自分達二人はまだユニフォームを着てただひたすら広くなったグラウンドで汗水を垂らしながらボールを追いかけていた。それは皆に必死に付いて行こうと努力していた二人の姿。皆の知らない所で二人は人一倍と努力していたのだ。

「…神童!」

自分の努力は無駄じゃなかった事を改めて感じた青山。少しドリブルをした後、青山は少し先に居るしんどうへとパスを出した。青山からのパスを膝で受け止めた神童はボールを奪いに来た銅原を簡単に抜き去った。

「(青山、このパスは必ず決めるぞ)――影山!」
「はい!」

一人ではない。皆がこのボールで決めるんだ。神童はフリーな輝に向けてボールを渡す。ボールを受け取った輝は既にゴールに近く、彼の足元には黄色い模様があるフリッパーが控えている。今彼が下手に動けばこのフリッパーは動き出しボールどころか輝も跳ねられてしまうだろう。
だが、雷門はそんな彼に可能性を賭けたのだ。次の点数を決めるチャンスに。

「バァーカ、そこからじゃフリッパーを突っ切るスピードは出ない」
「うぅっっぎぃぃいい!!
“エクステンドゾーン”!!」

幻影学園のキーパーである虚木が耳をほじりながらそう余裕そうな声を上げる。だが、輝はそんなのが聞こえないくらいに自分なりの雄叫びを上げた。
叫べば紫色の渦がボールを中心に勢いよく現れる。それは輝をも包んでいき、まるでブラックホールみたいに吸い込んだ。紫色の渦から放たれた超次元シュート。それはそのシュートに反応したフリッパーより早くゴールに向かっていき、跳ね返される事もなく構えていなかった虚木は驚愕の表情を浮かべた。

「何!?…“かげつかみ”!」

急いで自分の必殺技で止めようとしたが、不意打ちの出来事と構えていなかったせいで完璧な力でそのシュートを止める事が出来なかった。

「やった!」
「いいド!影山!」

輝の必殺シュートで後半に入ってから雷門が同点に追いついた。これはまだまだチャンスはある。勝てるチャンスを交代した青山と輝がくれたのだ。

「二度もゴールを許すとはな…いけ箱野」
「はい」

これで試合は最初の時と同じようになった。これでどちらかが決めれば勝敗も決まるだろう。だが、ここで宝水院は自分の隣に座っていた箱野に目をやり、審判に選手交代するよう言った。ポジションはキーパーなのだろう。虚木は交代の表示が出た瞬間、表情を曇らせ渋々そいつと入れ替わる。

「キーパーを変えてきましたよ!?」
「後から出てくる方がすごいなんて事は…」
「……」

表情も体格も虚木よりもこちらにプレッシャーを与えてくるような人物。そいつを後から入れてくるという事はそれだけあの人物に期待しているのか。何であろうと、先程の事物よりゴールが割れなくなってしまった確率が大きくなったかもしれない。
得点は2-2の同点。幻影学園からのボールで試合開始のホイッスルが鳴った。銅原から貰ったボールをまた彼に戻し、お互いに上がっていく真帆路。
ボールを持っている銅原に天馬が並んだ。

「!」

銅原に目をやりながら周りを見る天馬。理由はバンパーがどこにあるのか把握する為だ。案の定、自分達の近くにバンパーの模様がある。それを見た天馬は最初はあるな程度でしか見れなかったが、彼は自分の頭の中に過った考えを閃いた。

「(そうだ!)」

バンパーが自分達に反応しだし、動き始める。上がってきたバンパーを見て天馬は銅原ではなくそのバンパーに向かってスピードを上げだした。十分にスピードが上がった瞬間、天馬はバンパーに向かって背中から体当たりを仕掛けた。

「うりゃあ!」
「何!?」
「やった!」

相手がボールをぶつける前に天馬は先に自分からぶつかっていき銅原からボールを奪取した。あまりの行動に銅原も反応出来なかったらしく、ボールを奪われてしまう。バンパーにぶつかった時は正直痛いが、何よりボールを奪えた。天馬は少しドリブルしてから神童にボールを渡した。

「キャプテン!」

神童が居る所はほぼ幻影学園のゴール前。そこで神童は走るのをやめた。

「チャンスだ」

バンパーもフリッパーも反応しない真ん中のルート。反応があるとすれば、黄色い三角系が三つ並んだこの加速帯だけ。これで雷門が決まれば勝負も付く筈。そ神童が考えた時だった。
目の前に居る箱野が禍々しい藍色の靄を背後から流出しだした。

「こい!“勝負士ダイスマン”!!」

藍色の靄から顔を出した箱野の化身。これで何故宝水院が交代させてきたのか理解出来た。箱野なら化身でどんなシュートでも止めてみせると思っていたのだろう。ダイスマンは両手にサイコロを三つずつ持っており、あの化身もまたカジノで遊ばれるルーレットを思い出させる。

「化身か!?」
「はぁぁあああ!!“奏者マエストロ”!!」

神童も負けじと自分の化身を発動。そして、そのままシュート体勢を取った。

「“ハーモニクス”!!」
「“ラッキーダイス”!!」

水に跳ねるような音を出し、勢いよくゴールに向かっていく神童の化身シュート。それを止めるべく、箱野は化身と同じ素振りをして見せた。腕を顔の前でクロスさせた後、思い切りそれを振った。すると、化身の指から放たれたサイコロが飛び散り、フィールドに転がる。すると、そのサイコロは全て6の目を出した。
それが、この化身の必殺技。
全部が揃った瞬間、そのサイコロは光を帯びだし気付けば箱野の手元には神童がシュートした筈のボールがあった。

「この俺がゴールを守るんだ。もう一点も入れさせないぜ」
「っ…」

一か八かのキーパー技に随分と余裕そうな表情で言って見せる箱野。神童は息切れをしながら悔しそうに表情を曇らせた。箱野はフッと笑って見せると、ボールを高く蹴り上げる。結構高く跳ぶボールを見た天馬は取れると思い、そのままボールの落ちていく方をひたすら走っていく。

バンパーを通り越したボール。だが、天馬もバンパーを避けてそのボールを取りに行こうとする。
だが、ボールはどうした事か、前に進まず後ろへと戻って行く。天馬もそれはさすがに思ってもみなかったのか、ボールが自分の後ろに行った時に気付いた。

「バッグスピンか…!」

天馬が慌てて振り返るも、ボールはバンパーに当たっており、その弾き返された先には真帆路が居て、彼はその跳ね返されたボールを胸で受け止めた。

「…よし」

幻影学園が再びボールを持ち始め、真帆路は雷門のゴールの方を見やる。再び天城と目が合う。すると、真帆路は天城に向かって行った。天城を狙っているのか、天城は情けなくも口を開けてしまっている。

「あのシュート…何とかするド…!」
「まだ分からないのかっ、不可能という事が!
“マボロシショット”!」

再び消えたり現れたりするマボロシショットが繰り出される。
あれを止められた者は今までの中で誰も居ない。居ないからこそ止めたい。居ないからこそ友達である自分が止めたい。そんな事を思いながら天城は再び“ビバ!万里の長城”を繰り出した。だが、やはりそれはぶつからず長城をすり抜けてしまい、ボールはそのまま三国の方へ。

「今度こそ!“フェンス・オブ・ガイア”!!」

三国もまた三度目のリベンジ。フィールドを叩き付けて岩山の壁を出現させるが、ボールは天城と同じようにぶつかるのではなくすり抜けてしまった。気付けばボールは三国よりも後ろにあり、再びゴールネットを揺らした。

ピ―――ッ!!

幻影学園はここへきて勝ち越し点を入れてきた。真帆路のハットトリックが決まった。



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