試合開始の僅かな時間で浜野の足は真帆路のギリギリのプレーで負傷。
急いで浜野の肩を持ち、何とかベンチまで運んできた。浜野は痛そうにも心配かけまいと少し引きつった笑みを浮かべてただ一言謝罪の言葉とお礼の言葉をかけてきた。その言葉を聞いても、何故だか喜べなくて、悠那の目線は引き摺っている足へ。
人が怪我するなんてこんなにも辛いのだ、と。改めて思った。それを今まで自分もしてきたなんて思うとバカらしくて笑えない。

「笑わないストライカーが、感情を見せ始めたか…」
『……』

浜野の足を冷却スプレーで冷やして貰っている中、鬼道はフッと口角を上げるなりそう呟いた。表情をよく伺っている鬼道だからこそ分かる事。確かに違いは対して分からないが、プレーの様子からして彼は今天城の言葉や行動に真帆路は怒りや苦しみを露わにしている。それはもちろん表情ではない。行動でだ。

「もう大丈夫なんですか?」
「ん、へーきへーき。さんきゅマネージャー」
『あ、浜野先輩…』
「悠那、心配かけちゃってごめんよ」

ヘラッと、先程の痛そうな表情をしていない以上もう大丈夫なのだろう。それを見た悠那は少しだけ安堵するも、やはり直ぐに表情を曇らせた。こんなに苦しいとは思っていなかった。自分がこれだけ心配するという事は白恋の試合後の怪我は皆にとってすごい苦しかったのではないのだろうか。
本当に自分もバカな事をしたものだ。神童に怒られて当たり前だった。
そんな事を考えていた時だった。不意に自分の頭に重みが走る。一体何なのだろう、と顔を上げてみればそこには浜野がこちらに手を伸ばしニカッと笑いかけている。

『…先輩』
「ん?」
『痛いですね、心が』

一瞬、その意味が分からなくて浜野はきょとんと首を曲げる。だが、彼女の目線が自分より下に行っているのに気づき、自分も下を見る。彼女の目線は明らかに自分の怪我した方の足に行っている。ああ、そうか。この子は自分の足を心配して言っているのか。と納得出来た浜野はまた笑みを浮かべて悠那の頭をわしわしと撫で始めた。

「俺達の気持ち、少しでも分かった?」
『はい。皆、私が怪我した時こんな気持ちだったんですね…』
「んー、そうかも。って俺もそう思わせてるって事じゃん!」

うわ、恥ずかしい!と浜野は頭を掻いてそう言う。そんな彼を見た悠那は励ます所か励まされてしまい、自分もいつの間にか笑みを浮かべていた。

「っさ、戻ろうやっ」
『はいっ』

まだ浜野の怪我は心配だが、今は目の前の試合に集中しなければならない。
悠那の背中を軽く押すように叩いて二人でフィールドの中に入っていった。

ボールは雷門チームから。ボールを持っているのは天馬。位置に着いた雷門の選手と幻影学園の選手達を見て天馬は何とか雷門にボールが渡る経緯を探す。
そして雷門の中で一番フリーだった神童にボールを渡し、ボールを受け取った神童はそのまま上がっていった。だが、それは小鳩に取られてしまい、早くも幻影学園の攻撃となってしまった。

「真帆路!」

ボールをカットし小鳩はドリブルをせずに雷門の方へ駆け上がっていく真帆路の方へとパスを回した。そのボールは真帆路に渡り、こちらへと上がってくる。

「(お前は強い相手に立ち向かう奴だったド。あの頃のお前はどこへ行ったんだド!)」

小学生の頃、いじめられていた自分を助けてくれた真帆路。その姿は今の天城からしてもかっこよく見えた。だが、そんな彼もフィフスセクターの人間。昔の彼なら嫌な顔をする程なのに、今では異名を付けられる程フィフスに飲み込まれている。
ドリブルで上がってくる真帆路を見て天城は再び彼に挑もうとしていた。だが、そんな真帆路に並んできたのは浜野。先程足を痛めさせられた相手に彼はまた立ち向かっていったのだ。

「通さないっしょ!」

だが、走る速度がさっきまでよりか遅いように見える。それは真帆路も気付いていたのか、そのままスピードを上げてくる。それを見た浜野もスピードを上げようとするが、そこで浜野は忘れかけていた膝の痛みを嫌でも思い出してしまった。

――ズキンッ!

「っ!!」

自分もスピードを上げようと足に力を入れたのがいけなかったのか、右足が悲鳴を上げた。痛みを感じた浜野は走るのを止めてその場に膝を付く。やはり膝の痛みは残っていたらしく、その場から動こうとしない。

「浜野先輩!」

天馬が声をかけても返事がない。それ程足を痛めたのだろう。だが、それを待ってくれる真帆路でもなく、彼は試合を止めずにこちらに向かってくる。すると、真帆路は自分の左手を大きく振りかざし、背後から藍色の靄を出現させた。
そう、それは…

「“幻影のダラマンガラス”!!」

化身。
黒い羽マントに目深く防止を被った女性化身。不意に聞こえたあの化身から聞こえた女性の声は怪しく背筋をも凍らせる程不気味だった。
真帆路が化身を出現させた事に早く動いたのは錦。シュートを打たせまいと、彼の前に立った。

「やらせんぜよ!“戦国武神ムサシ”!!」

化身対決に持ち込む気なのだろう。だが、錦の化身はシュート専門の化身。ブロックする為の技はなく突っ込んで行く。
その時、真帆路の足元に何やら魔法陣みたいな模様が現れそこの空間だけが暗くなっていく。ダラマンガラスの羽が飛び散り、持っていた杖を思い切り振りかざし、そこから人魂のような物を錦に向かって放った。

「“ダンシングゴースト”!!」

どうやら真帆路の化身はドリブル専門の化身らしい。その人魂達は錦の化身を消し去ってしまい、真帆路はそのまま上がってくる。

「俺が止めるド!!」
「臆病者が出しゃばるな!雷門の反逆を終わらせてやる。それが幻影学園の使命なんだ」
「本気でそう思ってるド!!“ビバ!万里の長城”!!」

真帆路から放たれた化身シュート。
それを天城はフィールドに拳を打ち付けて長城を再び現した。マボロシショットじゃないのならこのボールはこの長城にぶつかる。だが、やはり化身シュートの威力は強く、天城が現した長城は粉々になってしまった。

「“ハンターズネット”!!」

対抗して、狩屋もまた自分の必殺技で止めようとする。だが、狩屋の必殺技も威力を殺すだけで止める事は敵わなかった。そして、ボールはそのままゴールの方へ。

「任せろ!でえやあっ!!
“フェンス・オブ・ガイア”!!」

威力の弱まった化身シュートなら三国も止められる筈。必殺技を繰り出した三国、岩の壁は案の定化身シュートを弾き返して見せた。
弾かれたボールは悠那の方へと落ちてきて悠那は浜野の怪我の事もある為、頭を使いボールを外へと出した。

「助かったぜ皆!ナイスディフェンスだ!」
「三国こそ!よく止めたド!」

「いつまでそれが続くかな」
「本気、なんだド?」
「言った筈だ。雷門の反逆を終わらせると」

天城と真帆路のやり取り。悠那はその二人の様子を横目に見た後、直ぐに浜野の元へと近寄って行った。
浜野はやはりあの場所から動かず、自分の膝を抑えている。悠那の行動を見て、天馬と神童もまた浜野へと近寄ってきた。

「浜野先輩!」
『大丈夫ですか…?』
「っ、ちゅーかさ、膝に力が入んなくて…」

弱々しく笑いながら自分の膝の事を言う。どうやらアイシングが必要らしい。浜野の様子を見た神童は浜野から視線を外してベンチでこちらを見ているであろう鬼道に移した。鬼道もまた神童と同じ事を考えていたのか、お互いに目が合うなり頷き合った。

「青山、準備は出来てるな」
「!は、はいっ」
「よし、いけっ」
「はいっ」

初めて鬼道の口から青山の出場許可が出た。ベンチには車田が居る。にも関わらず自分の名前が出され出場する事になった。呆然とするも、立ち上がる青山に一乃は彼の両肩に両手を置いた。

「やったな青山!初出場だぞ!」
「ああ!一軍のホーリーロードの試合だ!」
「頑張れ、命一杯プレーしてこいよ」
「ああっ」

一軍はあの事件以来青山と一乃しか居ない。去年も、神童達は一軍から離れてしまい一乃と青山はホーリーロードの試合を見てるだけ。そんな自分達が人数が足りないとは言えベンチに居る事すら本来なら喜ぶべきだ。だが、青山はこうしてちゃんと試合に出れるようになった。
一乃も自分の事のように青山の初出場を喜んだ。

「(僕、バンパーのタイムラグを見破る自信あるんだけど…)!」

自分で言うのもあれだが、自分なら雷門の流れを変えられるかもしれないのだ。そんな事を考えながらフィールドから鬼道にこの事を言おうと振り向けば、声をかける前に一乃や速水、青山がこちらを見ており、鬼道もまたこちらを見ていた。どうやら、鬼道も自分と同じ事を考えていたらしい。

「影山」
「はいっ」
「お前のキック力で流れを引き寄せろ」
「はいっ!」

…………
………



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