「バンパーやポールが反応するまでは一瞬だが、タイムラグがある」
「タイムラグ?」
「ああ…」
センサーがボールや選手を捕らえてから、実際に作動するまでの僅かな時間。それが鬼道の言うタイムラグだろう。
「それを利用する」
「どういう事です…?」
「ッフ」
意味が分からないと言わんばかりの神童の問いに、鬼道はフッと意味深な笑みを浮かべて静かに自分達に説明を下した。
それはあまりにも突飛過ぎていて――…
天城の心はその時にはもう揺れており、幻影学園のベンチに座っている真帆路もまた自分に暗示かけるまでになっている。
そして、そのまま試合開始の時間が近付いていた。
「お前達!いいな。いつでも出られるよう、しっかり準備をしておけ」
「「「「はいっ!」」」」
もしかしたら怪我人が出てしまうかもしれないのだ。鬼道は先程の説明の時に言っておいたが、もう一度彼等にそう言って彼等もまた返事を返した。
ピ―――ッ!!
試合開始のホイッスル。
倉間は神童にボールを渡し、駆け上がっていた天馬に直ぐにボールを渡した。始まって早々雷門の反撃。ふと、視線を前にやれば天馬の目の前にはボールを奪いに来た真帆路が居た。
「行かせないっ」
「剣城!」
だが、天馬は交わす事をしなく、そのまま剣城にパスを繋いだ。ボールを貰った剣城の目の前には青白く光りを帯びる円。それは剣城の目の前で彼を止めようと、バンパーは今よりももっと淡く光だし、今にも飛び出しそうになる。
「ふんっ、バンパーの前じゃ直ぐには攻撃出来ない」
いや、だからこそだった。
「今だ!」
「いくぜ!“デスドロップ”!!」
その場からのシュート。藍色と赤のオーラを纏ったボールは勢いよく剣城から放たれていき、バンパーにも引っかかる事なくそのシュートは幻影学園のゴールの方へと向かっていった。
「何だと!?」
ピ―――ッ!!
《ゴォ―――ルッ!剣城が決めたあ!!雷門一点を返したあ!!》
「やったぞ剣城!」
『まずは一点だ!!』
ゴールして、バンパーも下がって行く。幻影学園が驚愕の表情を浮かべながらゴールの中に転がるボールを見た後、剣城の方を向いた。バンパーのその先に彼は居る。下がって行くバンパーの先に居る彼は、どうだと言わんばかりに口角を上げており、更に目を見開く。奴は偶然ゴールさせたのではない。計算してあのゴールに入れたのだ、と。
「至近距離から超高速シュートを打てば、バンパーが反応する前にボールが通貨する。
相手DFは、バンパーがある為に油断して隙が出来た」
「っく、失点するとは…」
ふと視線をベンチへと移せば、無言でこちらを見ている宝水院。あれはもう失敗はするなという意味が込められている。つまり、自分達にはもう失点する事は許されないのだ。
それはもちろん真帆路自体分かっていた事。もう失点しないと強く思い、自分のポジションへと戻って行く。
ピィ―――ッ!!
試合再開。幻影学園からのボールから始まり、真帆路は銅原にオールを渡して駆け上がって行く。銅原がボールを持ちドリブルをしていれば、目の前からボールを奪いにきた神童。
突然過ぎた神童の登場に、銅原は交わす事が出来ずにボールを神童に渡してしまった。
幻一や真帆路も上がったばかりだが直ぐに走るのを止めて神童からボールを奪おうと自分達の方に戻っていく。
「浜野!」
「おう!」
神童は十分に相手を抜いた後、上がっていた浜野へとパスを送る。そこへ走る速度を上げた真帆路が迫ってきてスライディングをされる。あまりに勢いのあるスライディングに、浜野は止まる事も出来ずそのまま思い切りワンバウンドをしながら転んでしまった。
「っうぅ…」
「「「「!?」」」」
これは所謂、ラフプレーという言った所か。クールを装っていた真帆路が感情を露わにし、浜野へと危ないスライディングをかました。今までの彼のプレーとは違うプレーに天城も雷門の選手達もそして観客席で試合を見ていた幸恵もまた驚愕の表情をしていた。
ボールもまた、真帆路のスライディングでフィールドの外へと出てしまい、試合は早くも止まってしまった。
《真帆路クリアァ!しかしこれはギリギリの危険なプレーだあ!》
『先輩…!』
中々立ち上がらない浜野を見て、もしやと思い近寄って行けば浜野は痛そうに顔を歪めながら自分の右膝を抑え込んでいる。どうやら今ので足を負傷してしまったらしく、浜野もまた痛みのせいで上手く喋れそうにない。彼の膝を触りたいが、それは余計に痛くさせてしまうからどうにも出来ない。
まさか、あの真帆路がここまで大胆なプレーで来るとは思ってもみなかった。
ふと、視線を浜野から真帆路にやれば、彼は天城と向き合っていた。
「俺達は絶対に勝たなくちゃならないんだ。
フィフスセクターのサッカーを続ける為に…!」
「真帆路…本当にそれがお前のサッカーなのか…?」
一歩も引けない、彼等の問題。
これは、革命の為の戦いでもあるが、雷門のサッカーを信じる天城とフィフスのサッカーを続けたい真帆路の二人の戦いでもあった。そして、それは余程強い思いを持っている方が勝つ。
後半戦はまだまだ始まったばかりだ。
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