このフィールドで試合が開始され、数分経った頃。まだ仕掛けに慣れていないのか、雷門は今まで以上に悪戦苦闘であった。自分の不注意で相手にボールを渡してしまったり、バンパーにボールが当たってしまったりとかなり難しい仕掛けである。
そして、ようやく錦にボールが繋がった。錦はそのまま幻影学園陣内へ不覚切り込んでいく。
「“アクロバットキープ”！！」
目の前に幻影学園の道家を必殺技で交わし、暮内がマークに来そうになったところで錦は幻影学園のゴール目掛けてミドルシュートを打ちこんだ。
ゴール前には確かあの黄色い模様があった筈。悠那は息を呑みながらボールの先を見た。
ボールが黄色い模様と十分な距離になった時、その仕掛けは動き出した。
バシイッ！！
「何ぜよ！？」
ゴール前にあった黄色い模様は先程のバンパーと同じように形を現して、ゴールを入れさせまいと言わんばかりに錦の蹴り込んだボールを弾き返した。そう、その姿はピンボールの玉を弾き返すフリッパー。
やはりそうだったのか、と悠那は念のためそのフリッパーから離れるかのように足を引いた。
「天馬！」
「はい！」
弾き返されたボールは雷門の選手の方には行かず、幻影学園の選手である札野に渡ってしまった。だが、それを見た神童は彼の付近に居た天馬に指示を出す。札野は止まれまいと言わんばかりに直ぐ味方にパスを出す。だが、それを阻止したのは神童に指示された天馬だった。パスされたボールをヘディングでコースを変える。コースを変えたまでは良かったが、ここはピンボールスタジアム。このフィールドはピンボールのような仕掛けになっているのだ。
天馬がヘディングでコースを変えられたボールはそのまま勢いを殺さずに真っ直ぐにそちらへ向かっていくが、バンパーがそのボールに反応してしまい、ボールを弾き返してしまった。
そして、その跳ね返ったボールは走っていた真帆路の足元に落ちてしまいそのままドリブルをしてきた。幻影学園のカウンター攻撃だ。
「止めるド、真帆路！！」
「天城先輩…」
天城が待っていたと言わんばかりの気迫で真帆路のマークに付こうと駆け上がっていく。
だが、数秒攻防戦をやった後、真帆路は天城を交わしていった。
「邪魔なんだよ」
「っ！」
『行かせませんよっ！』
交わした際に真帆路が見せた表情。笑みを浮かべて天城にそう言い放つが、直ぐに止めにきた悠那がスライディングで真帆路からボールを離した。ボールはそのままフィールドから出てしまったが、それでも雷門はピンチを防げた。
「いいド悠那！！」
「ふん…少しはやるようだな」
止める事は出来なかったものの、優先しなければならないのは自分の気持ちではなく雷門の勝利。悠那が真帆路の動きを止めた事に天城は安堵の表情を浮かべて彼に声をかけた。それを聞いた悠那は照れるように頭を掻きながら天城に一礼した。
「ナイスディフェンスだ」
『ありがとうございますっ』
「でも、難しいですね。ボールがどこへ行くか分からない」
「…ああ」
これでは鬼道もまともなゲームが組み立てられないだろう。何せこのスタジアムはピンボール。自分達はピンボールゲームの中に入れ込まれたと同じ。どこから玉が飛んでくるのか、どこではじき出されるのか、どこに弾き飛ばされるのか。全てがランダムに見える。
ふと、視線を神童と天馬から外しベンチの方へと移した。そこにはこのフィールドを睨みつけるかのように見ている鬼道の姿。あの様子ではまだ攻略出来ていないのだろう。
ピ―――ッ！！
再び試合開始のホイッスルがフィールド中に鳴り響き、試合が動き始める。ボールは幻影学園から。ボールを味方から貰った暮内はそのままドリブルで上がってくる。
倉間が暮内のマークに付こうと口角を上げながら近付いたが、彼もまたフッと笑って見せてバックパスをする。
だが、そこには誰も居なかった。
「何っ？」
いや、ここのフィールドでボールを受け止める者は他に居た。それは飛んできたボールに直ぐ反応を見せるあのバンパー。フッとボールに反応したバンパーが上がりだし、他の場所へとボールを弾き飛ばす。そのボールは札野に渡り、信じたくはないが、計算で暮内はバンパーを利用し札野に渡したのだろう。
「幻一！」
「はあっ！」
飛んできたボールを札野は直ぐに幻一にパスを出した。
そして幻一もまた一度ボールを胸で受け止めると、直ぐにシュートに入った。あの距離からのシュートなら威力も弱いし三国も取れるだろう。そんな事を考えながらそのボールの経緯を見ていた次の瞬間だった。
バシイ！！
『早くなった…！？』
《不知火がスピードを上げる加速帯を使った！》
どうやらあの黄色い逆三角形が縦に三つ並んでいるのはボールの速度を上げられる物らしい。その上を通り過ぎようとするボールの速度がそのままの意味で加速しだし、三国の守るゴールへと向かっていく。
だが、そんなもので止められない三国であり、何とか三国はキャッチしていた。
《これは危なかった！なんとボールに弾かれたボールを幻影学園が一気にシュートまで持っていった！》
「今の攻撃…ボールの跳ね返る方向が分かっているんだ」
『加速帯の使い方も知ってたね…』
「うん…」
つまり、幻影学園はこのフィールドの事を事前に知っており、使い方も何となく分かっている。現にこうして仕掛けを利用し雷門は攻められているのだ。そして、どう攻略すればいいのかも。天馬と顔を見合わせるも、お互いの瞳に映る自分は不安そうな表情をしており、目の前に居る自分と似ている人物もまた不安そうに表情を曇らせていた。
だが、フィールドの様子、相手の選手の動き、そしてこのスタジアムの仕掛けをずっと見ていた鬼道は暫く黙っていたが、ようやく動き出した。
「春奈」
「はい」
「バンパーやポールが作動した時の映像を記録してくれ」
「記録…ですか？」
とは言っても今までは映像ではなく写真で相手の動きやらを見てきていた。映像を求められても、春奈は戸惑うばかりだった。すると、そんな彼女に助け舟を出すかのように春奈の視界にこの空気に似合わないだろうピンク色の物が入った。
近すぎて一瞬では分からなかったが、次第にそれがカメラである事も、誰の所持物なのかも分かった。視線をそっと彼女の方へと移せばそこにはいつもと変わらない微笑みを浮かべていた茜が居た。
「これ動画もオーケー」
このカメラのおかげで雷門の勝利と、彼女の一番マネージャーらしい活躍が披露されるのはあと少し。
…………
………
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