次の日の早朝。今日も朝の部活はあり、昨日部活を早退してしまった天城は真っ直ぐに鬼道の方へ向かいいきなり頭を下げた。
そして、

「すみませんでしたっ!」

こちらまで聞こえるかのような声で鬼道と春奈に謝った。
下げられた頭はまだ上げられず、鬼道と春奈もまた真剣そうな表情をして天城を見る。それはまるで見定めているかのような視線で、天城にとってはかなり痛いぐらいだろう。だが、それでも天城は自分の意見を言うと決めた。

「練習に参加させて下さい」

そこで、天城の顔が上げられた。それはもう、昨日までの曇った表情ではなくあの勇ましい天城らしい表情になっていた。その真剣な目を鬼道にぶつける。今度こそ自分は大丈夫だと、もう迷わないと。そう言っているような気がこちらからとしても十分に伝わった。
それを見かねてか、鬼道は数秒彼の表情を見た後、フッと笑みを浮かべた。

「よし」

そこで、天城は鬼道から承知を得た。

そして練習の時間。狩屋がドリブルを昨日みたいにしていく。どうやら、天城のチャレンジらしい。それに乗った狩屋もまた怪しく笑って引き受けた。

「へへっ、今日もまた抜いてみせるぜっ!」
「(次の試合…絶対出る。出なきゃならないドっ!)」

狩屋がもう目の前まで攻め込んでいるにも関わらず、天城は目を瞑っている。そして、彼が目を見開いた時にはもう、狩屋は天城を抜かそうとしていた瞬間だった。ふと、天城は狩屋の進路を絶ち、狩屋の動きを止めた。それに気付いた狩屋はボールを渡すまいと方向転換して再び天城を抜かそうとする。

「(昔には戻れない…けど、俺達がやろうとしている革命は正しいんだって、伝える事は出来るド!)」

また口角を上げてドリブルをしていく狩屋。動きは止める事は出来たが、この練習はボールを奪わなければ意味がない。つまり今の天城は抜かされたと同じ。それは天城が一番分かっている事。直ぐさま狩屋へと向かって走っていき、再びボールを奪おうとする。それを見た狩屋は顔を引きつらせて、逃げるかのようにドリブルをしていた。
天城がこう頑張れるのも、たった一人の友人の為が故。今度は簡単には行かなかった。

「(あの時は話せなかったけど、今度こそ、分かって貰うんだド!)」

狩屋と平等に並んだ瞬間、天城は狩屋と肩をぶつけ合わせて何とかボールを奪おうとする。狩屋もまた負けじと肩を押しながらもボールを保持する。
だけど、狩屋は天城の体力とは違う。小柄な体格でもあるが故、これはきつい。すると狩屋はぶつけるのを止めてボールを蹴っていた足でボールを止めて自分も止まる。急に肩を押す相手が居なくなった天城の体はそのまま傾いていき、ドスンと転がってしまう。それでも狩屋は一斎気にせずにドリブルを続けた。

「(真帆路に伝えるド)」

だが、転がっても天城は諦めなかった。うつ伏せになり、腕を大きく振りかぶってそのまま手を勢いに乗せて叩き付ける。すると、天城のあの重そうな体は一時的に宙へと浮き、立ち上がった。そんな彼の姿に天馬も信助も悠那も、そして狩屋もまた目を見開く。

「(俺の想い。大好きなサッカーで!!)」

怯んだ狩屋を見て、天城は一気に足に力を込めて狩屋の蹴るボールへ目がけてスライディングを仕掛けた。さすがの狩屋も反応しきれなかったのか、ボールは天城の足により弾かれてしまった。
目の前で転がるボール。彼等の様子を遠くから見ていた天馬達は嬉しそうに顔を見合わせる。

「今のプレイ…天城やるじゃないかっ!」
「ええっ」

そして、三国もまた天城の成長ぷりに歓喜の声を上げる。
そんな中、水鳥は輝に少しずつ近づいていき、彼の肩を力強く腕を乗せた。

「お前、何か知ってんだろ?」
「い、いえっ!」
「…本当か?」
「ほ、本当です…」
「……ッチ、」

どうやら水鳥は天城の様子が変わったのを輝が何か知っているのかと思ったのだろう。だが、彼から出たのは否定の言葉。水鳥の圧力にも負けじと知らない事を言えば、案外簡単に抜ける事が出来た。きっとまだ水鳥は自分は何か知っていると思い込んでいるだろう。いや、知っていると言えば知っている。だが、これは自分と天城との約束。誰にも言わないと、約束したのだ。
輝は、天城を見るなり良かったと微笑んだ。

「(染岡…お前が指摘していた問題は、解決したようだ)」
「俺が行くド!!」

木戸川戦の後、染岡はチームの皆と馴染めずに居た一乃、青山、天城に指摘した。茨の道を行く彼等に、直接伝えるのではなくなるべく自分達で気付けるようなそんな言葉を。
天城だけは、何故かそれに気付くのが遅かった。だが、今の彼を見てどうだろうか。完全にもう雷門の一員とした顔をしている。
鬼道はフィールドで走る天城を見て、フッと笑いかけた。

…………
………

試合当日。
ホーリーライナーが音を立てて走っていた。それは中でも響いており、電車の揺れも感じられる。
だが、中は相変わらずと言うべきか。向かい合った選手達の中に会話もなければ仲間と話す選手も居なかった。ただ、自分達に流れるのは沈黙。だが、それを壊したのは天馬だった。

「この人達が、幻影学園…」
「ッケ、なんかヤな感じだぜ」
『というか、怖いんだけど…』

目の前に居るのは間違いなく幻影学園の選手達。雰囲気からしてどことなく不思議なオーラが漂っているように感じられるが、実際に会ってみるとどこか不気味に感じられる。
特に、悠那の目の前に居る彼。確か、あの人は一年生の不知火影二。二年生の不知火幻一と兄弟の筈。似ている容姿が故に双子だと思われたが、一つ違いの兄弟だったらしい。まあ、そんな情報はどうでも良く、その影二という人物の視線が痛過ぎる。自分は何か彼にしただろうか。いや、今日初めて会ったばかりだ。何もしていない。
そんな事をもんもんと考えながら、悠那は視線を自分の膝元に移した。

一人ひとりが幻影学園を見る中、天城はただ一人だけをジッと見ていた。
視線の先を追えば、そこには目を瞑っている真帆路正の姿があった。
だけど、天城は何も言わずホーリーライナーは選手達を何の仕掛けがあるかも分からないフィールドへと向かった。

そして辿り着いた場所は、今にも大人の人達が喜んで入りそうな所。
ライナーから降りた雷門は唖然とその場所を見上げた。

「これが、ピンボールスタジアム…」
「すごーい…!」
「どんな仕掛けがあるか分からない。気を引き締めて行こう」
「ああ」

今度はどんな仕掛けなのか、相手はどんなプレーをしてくるのか。
全てはこの会場に行くまで分からない。

…………
………



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