優一に会いに来ようと病院に来たが、やはり兄弟の邪魔は出来ないと天馬と悠那は剣城を兄の所へ置いて、帰ろうと外に出て噴水の近くまで歩いてきた。
雨はもう降らないだろう、そんな事を考えながら天馬と歩いていれば病院に通っている子供たちか、お見舞いとしてきた子供たちがサッカーボールを蹴っていた。
男の子二人がボールを楽しそうに取り合っており、天馬と悠那は思わずその子達の様子に頬を緩ませながら見入ってしまった。

「パスパス!」

楽しそうにボールを交互に蹴ってたり、奪い合ったり。その姿は確かに小学生だった頃の自分と天馬みたいに見えた。そうか、この頃からずっとサッカーをやり続けていたのか。自分も天馬も、そしてこの少年達も。どちらもサッカーをやり続けていたのかかなり上手い。これは選手としては楽しみかもしれない。
目の前でやるこの少年達はきっと天馬と悠那の存在に気付いていないだろう。こちらに気にせずボールを追いかけていく。
暫く二人の目の前で蹴っていた少年達は二人から退くように再びボールを追いかけ始めた。

『楽しそうだね』
「うん。まるで俺達みたいだよね」

その言葉にまた悠那は呆気らかんとした。まさか自分と同じ事を考えていたなんて。こちらを向いてニコッと笑う天馬。それを見た瞬間、また自分の頬はさっきみたいに熱を帯びだした。彼の何気ない一言が自分のペースを崩していく。悠那は天馬を直視出来なくなってしまったのか、直ぐに顔を反らす。大丈夫、天馬は普通に言っているだけ。そんな事を自分に言い聞かせるように悠那は天馬より先に一歩踏み出した。
その時だった。

「おーい!」
『え?』

ドサッ!

不意に、自分の近くにあった木からいきなり人が飛び出してきて悠那と見事衝突してしまった。いや、それ以前に何で木から人が飛び出してくるんだ。なんて考えながら転んだ衝動で痛む体に顔を歪めた。痛い、頭とお尻が痛い。どうやら強く打ったのだろう。上手く交わせなかった。
そんな事より、と悠那は目を開けた。
すると、自分に不意に写ったのは自分にぶつかってきた人の背後にあった太陽。もう既に陽が暮れている所為か、橙色に輝いていた。一体何なのだ、と太陽からその人物の方へと視線をやった。
目が、合った。

「ごめん、大丈夫…?」

まるで、背後にある太陽に負けないような橙色の髪色に、まるで太陽を連想させるような髪型。そして、水色の瞳。暖かそうな声色に、悠那は直ぐにこの人物の第一印象が決まった。この人、太陽みたいな人だ、と。
そして、自分はこの人物に押し倒されたのだ。間近で見た彼の顔はそれはもう整っており、あまり直視が出来ない。見た限り同い年ぐらいだろう。だが、格好は病人が着るようなパジャマ。
悠那は徐々に顔を赤くさせるも、「だ、大丈夫…」と答えた。

「大丈夫?」
『大丈夫だって…』
「涙目だけど」
『大丈夫だってば…』

というか、この太陽の人はいつ退いてくれるのだろうか。先程から天馬が心配してくれているのは分かるがちょっとだけ表情が怖い。ごめんなさい天馬様、今度からはちゃんと受け身が取れるように頑張りますからその痛い視線どうにかなりませんかね。
確かに痛くて涙が出そうになりましたがあなたの視線も怖くて涙が出そうなのよ。

「ああっ!ボールがあ!」
『「「?」」』

ふと、さっきまでボールを追いかけていた少年達の声が響いた。その声に、三人がそちらを向く。そして、次に三人の目に映ったのは宙を舞うボールの存在。どうやらあの少年達のどちらかが強く蹴り過ぎて高く飛んでしまったのだろう。これはやはり選手として期待出来そうだ。なんて、呑気な事も言えない。早くボールを取らないと、と思った時、自分の上に乗っていた太陽の少年と天馬がいち早く反応して、ボールを取ろうとしていた。

「肩借りるよっ!」
「うわっ!」

先に跳び上がったのは天馬。だが、その跳び上がった天馬にあの太陽の少年が肯定的に天馬の肩に飛び乗り、先程よりも高く跳んで見せた。台にされた天馬はそのまま落ちてきて、台にしていった太陽の少年の方はもう既にボールと同じくらいの高さまで飛んでいた。信助に引きを取らないその高さに、悠那は起き上がりながら間抜けながらも口を開き彼の姿を見せる。跳んだ瞬間、スローモーションのようにかかり、ゆっくりに見える。
やはり、彼は…

『太陽…』

太陽みたいだ。
その少年は、ボールと同じ高さまで上がるとそのまま一回転し、ボールを踵で蹴り込んだ。
その無駄のない動きに、彼に台にされた天馬は感心するかのように見上げて、悠那もまた「おお…」と声を漏らす。
だが、少年から放たれたボールは近くにあった木に当たり、まだ威力が残っていたボールは方向を変えて病院の方へ。
そちらを見れば、人影が二つ程あり今のボールが行ってしまったらあの二人に当たってしまい、怪我をさせてしまうだろう。病院なのに怪我人を増やす訳にもいかない。早く蹴り返さなくては!と、動こうとしたとき、天馬の方が早かったのか彼はもう既に自分より早く走っていた。

間に合え、と心の中で冷や冷やしながら見ていれば、天馬はボールをお腹で受け止めてそのまま威力を殺した。何とか間に合った。その事に、悠那は胸を撫で下ろし、太陽の少年もまた安心したように微笑んだ。
そんな彼等の連携プレーに、少年達は目を輝かせていた。

「「すげえっ!」」

そんな彼等の姿に、悠那は小さく微笑んだ。彼等の初めての目的がもしかしたら天馬達かもしれない。天馬が豪炎寺に憧れたように、彼等もきっと天馬達を憧れとして見てくれただろう。
そんな事を感じながら、微笑んでいれば、傍に居た太陽少年(仮)がボールを拾おうとしている天馬に近付いて行った。それを見た悠那もまた彼に続くように天馬へと駆け寄る。
すると、太陽少年は天馬が持とうとしたボールに足を乗せてそのまま持ち上げる。

『「?」』

何をするのだろうか、と天馬と顔を見合わせた後に再び太陽少年へと目を向ける。すると、太陽少年はフッと笑みを浮かばせてそのまま持ったボールを蹴り始めた。それを見て、きっと「僕達もやろう」という意味が伝わった。
すぐさま天馬と顔を見合わせてニッと笑うと二人して彼を追いかけた。

ボールの取り合い。最初はお互いにボールに触れて競い合っていたが、太陽少年も本気になってきたらしく、ボールを保持。ドリブルしていく彼の姿を見た天馬は軽く深呼吸をして、走り出した。
対して差は縮まらないだろうと、考えていたのか太陽少年は笑ったまま。だがしかし、直ぐ自分の隣まで来た天馬を見て、太陽少年は気を抜かしていたのか驚いた表情をして、あっさりとボールを取られていた。
完璧に彼等の世界だ。悠那は途中から抜けていたらしく、少年達の傍で天馬と太陽少年を見学している。
ボールを奪った天馬は振り返って太陽少年に笑みを見せてきた。

「「おおっ!すっげえ!」」
「やるね」
「キミこそ」

「やるね!」
「キミこそ!」
「「かっこいい〜!」」

傍で見ていた少年達。天馬と太陽少年のやり取りを見るなり、自分達もと真似をして再び嬉しそうに叫ぶ。どうやら、本当に彼等の憧れはこの二人になれたらしい。
そんな少年達の様子は本当に微笑ましく、クスッと笑んだ。

「ああっ、ボール返すねっありがとう!」
「「取ってくれてありがとう!」」
「じゃあねえ!」
「バイバーイ!」

ボールをキャッチした少年達はそう天馬達に言うと、さっそうと帰って行く。きっと違う場所でまた天馬達の真似をして練習をするだろう。そんな事を考えながら彼等に手を振った後、天馬達の方へと駆け寄る。それを見た太陽少年は二人を見比べた。

「キミ達、雷門中の選手だよね」
「うんっ」
「いいいなあっ、思う存分サッカー出来て。僕入院中でサッカー止められてるんだあ」

きっとこのジャージで分かったんだろう。そして、サッカーの上手さからして雷門の事も少しは知っている筈。天馬が頷けば、太陽少年は羨ましがるような声で両腕を頭の後ろでくみ上げた。そして、彼の言葉に天馬と悠那は目を見開かせた。

『えっ、じゃあこんな事したらよくないんじゃ…』
「いいのいいのったまにはね」

確かに元気そうにしてサッカーをしていたし、大した外傷はない。もしかしたら体内での病気かもしれない。だが、そんなのが全くないかのように二人に笑みを見せてくる太陽少年。確かこの病院で入院していた逸仁もこんな調子で話しかけてきた事がある。不覚にも、この少年がその逸仁と重なって見えてしまった。
本人が大丈夫ならこちらとしても助かるが、やはり心配になってしまう。
そんな事を思った時だった。

「――太陽君!」
「ぎっ…!」

ふと、女の人の声が背後から聞こえてきた。



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