「次の対戦相手が決まった」

場所は変わり、ミーティングルーム。そこに集まった部員達を集めるなり、鬼道は画面の前に立った。
相変わらず天城の様子は晴れない。輝もその事を随分と気にしているのか、浮かない表情をしている。そんな中、鬼道は自分達に次の対戦相手が決まった事を告げた。
皆に緊張が走った。

「幻影学園だ」
「幻影学園!?」

あまり聞き覚えのない学校名に疑問符を浮かばせながら鬼道を黙って見ていた悠那達だったが、一人だけその学校の名前を聞いた瞬間に声を上げる者が居た。
それは今まで確かに肩を落として顔を俯かせていた天城。誰もがその天城の反応に目をやった。

「天城?」
「あ…ぁ、何でもないド…」

そんな筈はない。部活中でもそんなに喋っていない天城が今ここで声を上げたのだ。余程その幻影学園とやらを知っているのだろう。動揺しているのが何よりの証拠。だが、そう言った天城に対して三国は深追いせずに、皆と一緒に次の説明を聞く事にした。

「幻影学園は優れたテクニックを持つチーム。そのプレースタイルはマジシャンにも例えられるわ」

パソコでカタカタと打ち込み、皆の目の前にある大画面へと幻影学園の選手達を映し出した。紫色のユニフォーム。雰囲気もどこか今からマジックでもしそうな程の不思議な選手達が写った。
これが、幻影学園の選手達。すると、春奈はもう一度パソコンのキーボードを押し、一人の選手をアップで映し出した。

「彼がキャプテンで、エースストライカーの真帆路正。最強の必殺技を持つプレーヤーと言われているわ」
「最強の必殺技?」

真帆路正。
彼が映し出された瞬間、天城は先程よりも目を見開かせ信じられないと言わんばかりに口も間抜けながらも開けていた。こう思うのもおかしいと思われるが、彼の姿はどこか違和感を覚える。もちろん写真だからそう感じるのはおかしい。だけど、やはり違和感を覚えさせるのだ。
そんな中、天馬達がその真帆路という人物の情報で注目したのは“最強の必殺技”という所だった。

「必殺技、“マボロシショット”は百発百中。打てば必ずゴールが決まっているの」
「すごーい…」

打てば必ずゴールが決まってしまう、そんな必殺技。きっとそれはシュートを打つ人にとっては最も目指していた必殺技になるだろう。百発百中という事はキーパーの必殺技も効かないという事だろう。ならば、相当威力の高い必殺技なのだろう。
それを聞いた信助、天馬、悠那は顔を見合わせる。本当にマジシャンみたいな話しに驚かざるえない。

「真帆路君の別名は、“笑わないストライカー”どんな時もシュートが決まった時でさえ感情を出さないそうよ」
「っ!」

そこで、何の違和感かが分かったかもしれない。写真でも冷めたような様子で写っている。そして、今の説明でもまた。ふと、天城の脳裏には自分がまだ幼かった頃の時の記憶が過った。そこには幼い自分と、写真とはまた様子が違うが、幼く無邪気に笑って見せる真帆路の姿があった。二人で仲良くボールを蹴り合い、無邪気に笑っている、そんな記憶。

「感情をコントロールする事で、常に冷静な判断をする事が出来る、か」
「ちゅーか、フィフスん所に居る奴って結構個性的な奴ばっかだよなあ」
「笑みしか浮かべないあの壱片逸仁とはまた逆の奴が相手とはな」

笑みを浮かべる事で自分を造り、相手になるべく自分の事を読まれないようにしている逸仁と比べ、真帆路は正にその逆。笑みを浮かべずに相手にも味方にも読まれないようにしている。
逸仁は、過去笑わない人物だった。なら、真帆路も今はこれだが、昔は笑っていたのでは?
皆が幻影学園の情報を聞くなり、考え込む中、天城の脳裏では再び昔の記憶が蘇えってきていた。

小学生の頃、仲良く遊んできた天城と真帆路。友達という絆が二人にはあったが、ある日突然それは無かったかのようにお互いの距離は離れていっていた。

そんな記憶が過った天城はそれを振り切ろうと頭を左右に振る。
だが、そんなんで今思い出した事を忘れる事も出来ず、また天城の顔は下へと俯かれてしまう。
先程の天城の様子といい、今の天城の様子といい、さすがの輝も心配せざる得なく、輝はただひたすら天城を見る事しか出来なかった。

…………
………

対戦相手が決まった事により、練習が開始された。
午後の練習活動は中のグラウンドでやる事になっている。狩屋がボールを持っており、ドリブルで駆け上がって行く。そして、彼の目の前には先程から顔を俯かせて肩を落としている天城が居た。

「天城!!」
「――っ!」

まだボーっとしていたのか、天城は鬼道に声をかけられた瞬間に頭を上げて、改めて狩屋を止めなければならないと分かった。だが、気付いた時にはもう遅く、狩屋は何もしなくとも天城の横を素通りする事に成功した。

「よしっ、抜いた!」
「あ…、」

ボールを保ち続けた狩屋はそのままゴール前へいき、そのままシュートをした。狩屋から放たれたボールは三国が止めて、ゴールには入らなかったが狩屋自身の役目は遂げた。ボールを持ったまま、三国はふと一歩も動けなかった天城をじっと見やる。
霧野もまたDFの要とは言え、先輩に向かってはそう強い口調もできない。呆れるように頭を掻いていた。

「天城、グラウンドから出ろ」
「! すみません!もう一度!」
「今日は帰れ」
「ぁ…分かりました…」

天城の抱えている事は皆には分からなかったが、きっと今の天城にとって今の鬼道の言葉は追い討ちに近かっただろう。だが、これは監督の判断。誰も鬼道に言わず、天城もそれ以上の事を言わず静かにグラウンドから出て行った。

「青山、天城のポジションに入れ。一乃、お前も入る準備をしておけ」
「「はいっ」」

鬼道の何の問題ない指示に、青山も一乃も一瞬怯んだが、これで練習に参加出来るのだ。二人は返事をすると、青山は天城のポジションに入りに行き、一乃もまた体を解していく。練習が再開されようとしている中、天城は一度足を止めて拳を強く握りしめてもう一度自分の足を動かした。

「鬼道監督、どうして…」
「いつもの天城さんじゃなかったからだ」
「ここの所、悩んでるみたいだな」
「先輩達気付いてたんですか?なら、どうして…」

いつもより小さく見えてしまう天城の背中を見て居た堪れなかったのか、そう呟く。そんな天馬の疑問に答えたのは鬼道地震ではなく、神童と三国。どうやら天城の様子がおかしいと感じていたのは輝や悠那だけじゃなかったらしい。いや、天馬も実際の所気付いていた。
いつも霧野みたく誰よりも大きな声を上げてDF陣に指示を出していた天城が、今ではこの様子だ。何でもない筈がないのだ。
そんな天城だったからこそ、天馬は分からなかった。天城も仲間なのだから先輩達は心配する筈なのに、何も気にしないように振る舞っていた。それが、天馬にとってはよく分からない行動だと思ったのだ。
そんな天馬の問いに、三国は顔を一度俯かせ、再び上げた。

「話せるなら、とっくに俺達に話してるさ。多分、今あいつが抱えている問題はあいつ自身で解決するしかないんだろう」

そう、決して自分達が信頼されてないからという訳で話せないんじゃない。それは天城も、三国達も分かっている事。
だから、横から口を出さない。天城が自分で解決したいのなら、そうすればいい。もし、一人で抱えきれなかった時に手を差し出せばいい。
そこで、天馬は気付いた。
何故、悠那が自分にあまり相談しないのか。それは信頼されていない訳じゃなかった。彼女も彼女自身で解決したい事があったのだ。彼女は今まで孤独だった。もちろん両親や彼女の師匠も居ただろう。だけど、身内にもその師匠にも心配かけまいといつも壁を作っていた。だから、人に頼る事を躊躇していた。
天城とは立場は微妙に違うが、天城も悠那の事は段々分かってきたように思えた。

…………
………



prevnext


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -