昨日は色々あり、あまり休んだ気がないが試合も近いので口々と言えない。
ユニフォームに着替えれば試合に向けて即練習。悠那はいつもと変わらない調子で天馬、信助、剣城と共に練習に励んでいた。確かに混乱する事はあったが練習は練習。サッカーをやっている時はサッカーの事しか考えないようにしている。
そう自分で決めた。悠那は自分の足元にあるボールを蹴る。それは確かに天馬の方に向かったが、天馬は少しだけ反応が遅れたのか、上手く受け取る事が出来ずに零してしまい、後ろにい居た信助が受け取ってしまった。

『ご、ごめん天馬』
「ううん、大丈夫だよ!俺こそごめん!」

何だか、ぎこちなく感じてしまうのは気のせいだろうか。
今のは天馬にちゃんと渡ろうとしていたのだが、天馬は反応が遅れてしまった。何故だろうか。ふと、疑問符を浮かべたが、それはまた視界に写った天城の呆然としている姿に遮られた。

『天城先輩…?』

さっきからボーっとしている気がする。
いや、休み前からずっとだ。確か、木戸川清修との試合前からずっと。ベンチに居た時は天城先輩からイライラやら時折寂しそうな表情が伺えた。

「悠那?どうしたの?」

うむ、と唸った瞬間、そんな悠那の様子に気付いた信助がこちらを見上げてくるなりそう聞いてくる。その声かけに悠那は考え込むのを止めてこちらを見上げているだろう信助へと視線を下げた。

『いや…天城先輩、元気ないなって』

そう信助に伝えてから、天城の方へまた視線を戻す悠那。それを見習うように信助もまた天城の方へと視線をやった。すると、次に映ったのは輝のパスを受け止められなかった天城の姿。急いで天城は自分の逃したボールを輝に謝りながら取りに行く。そんな天城の様子に輝も違和感を感じたのか、首を傾げていた。

「本当だ…どこか調子悪いのかなあ…?」
『うーん…天城先輩も心配だけど、』
「うわあ!」

と、ここで悠那の後頭部に酷い衝撃が降ってきた。それは鈍痛でありながら地味な痛さを自分に主張してくる。これは随分と経験がある痛みだな、と当たった所を軽く触れて後ろを振り返ってみた。すると、そこには呆れ顔で天馬を見る剣城と、顔の色を青くしていく天馬の姿。どうやら今のは天馬からの攻撃だったのだろう。そして、自分に痛みを教えたのは近くに転がっているボール。信助も天馬がした事に気付いたのか、冷や汗をかきながら悠那と天馬を見比べていた。

「あ、あのねユナ…今のは…」
『…問答無用じゃボケェェエエッ!!』
「うわぁぁああ!!」

お前は何回失敗すれば気が済むんじゃぁぁああ!!と言わんばかりに悠那は天馬に向けて黒いオーラを漂わせながら天馬を追いかける。そして、それを見た天馬は青くなっていた顔色を更に青くしていき彼女から逃げていく。
そう、天馬は今ので初めて失敗していた訳じゃない。サッカー部の練習が始まるなり悠那からのパスだけ失敗し、天馬が悠那にパスをしようとすれば何故か失敗してしまう。どこからどう見ても、天馬の様子もおかしい。しかも悠那限定となればさすがの悠那も怒鳴らずにはいられなかった。

『さっきから天馬君、嫌がらせしてんの?さっきまで我慢して気付かないフリしてたけどさすがに今のは見逃せないねえ』
「い、いや!本当にわざとじゃないんだって!落ち着いてよユナ!」
『落ち着くのは天馬の方じゃぁぁあああ!!』

さっきまで一方的な鬼ごっこだったが、天馬は剣城を盾に悠那が落ち着くよう言葉をかける。盾にされた剣城はそれはもう心底嫌そうに顔に陰りを増す。
そして、悠那もまた剣城を盾に取られてしまい彼の身長の所為で殆ど天馬が見えなくなってしまった事にどんどんと怒りのゲージを上げていく。
だが、それは直ぐに収まって剣城の後ろに居る天馬に今度は本当に落ち着いた様子で彼に声をかけた。

『…まだ、昨日の事気にしてるの?』
「! べ、別に…」
『私は大丈夫だって言ってんじゃん』
「だ、だから…その、」
「昨日の事?悠那、昨日何かあったの?」

悠那が静かにそう聞けば、剣城の後ろに居た天馬は小さく肩を揺らす。それを見て肯定的だと考えられた。
だが、話しの内容を理解していない剣城と信助は悠那と天馬を交互に見ながら不思議そうな表情をさせる。そして、それを見た天馬は顔を俯かせながら剣城の背後から渋々と出てきてちゃんと悠那の前まで歩み寄った。

「ごめん、ちょっと気にしてた…」
『ちょっとじゃないよね?』
「…本当はたくさん気にしてました」

ここまでしおらしい天馬は初めてかもしれない、と剣城と信助は思った。そして、ここまで強気な悠那も。昨日の間、この二人に一体何があったのだろうか。

「本当は、無理してるんじゃないかって。ユナの大丈夫はあてにならないし、人に頼れって言っても頼らないタイプだから、俺が…悠那の鏡である俺が少しでも支えてあげなきゃって…」
『天馬…謝られながらこんなに貶されたの初めてだよ私…
でも、ありがとう。大丈夫、今の私の大丈夫は本当に大丈夫なんだから!』

ね?と天馬へと微笑みかければ、天馬は少しだけ安心したように笑みを浮かべてうん、と小さく頷いて見せた。

「どうしちゃったんだろうね?二人共…」
「…さあな」

ふい、と剣城は顔を反らし近くに転がっていたボールを足で拾うなりその場でリフティングをし始める。そんな彼を見た信助の頭の中はより一層疑問符が浮かんできてしまい、信助は一人でんー?と首を捻って考え込んでしまった。

…………
………

「ちーっす」
「よろしくお願いしまーす!」

時は早くも放課後。
部活に入っている生徒達だけ学校に残り、サッカー部員達もまた部室に来ていた。全員が来るまで、天馬は体を解しており、信助は近くにあった椅子に座っており、剣城もまた椅子に座っている。悠那はこの場には居ないが、彼女の鞄と思える品物がある以上一年生達は全員来ているようだ。
だが、その中で輝は一人だけ浮かなさそうに先程から一点の方を見るなり表情を曇らせていた。さっきまで椅子に座っていた狩屋はそんな輝に気付いたのか、彼に近付いて行く。

「な〜にじーっと見てんだ?」
「…いや、なんか天城先輩の様子がいつもと違う気がして…」
「ん?」

からかい半分で輝に聞いた狩屋。だが、輝の反応はいつもと違く曇った表情を崩さずにまた見ていた方へと視線を戻す。どうやら天城の様子がおかしいと感じていたらしく、狩屋もまた輝の視線の先に居るであろう天城の方へと目をやる。すると、そこにはソファに座ったまま動かない天城のどこか寂しそうな背中が見えた。

「腹減り過ぎて動けねえだけじゃねえのか?」
「それならいいんだけど…」
「…何だあ?いつもみたいに引っ張りまわされなくて、物足りないとか言い出すんじゃないだろうなあ?」
「ち、違うよ!」

元気のない輝を励まそうとしているのか、狩屋なりに気を使っているのか輝の肩に自分の腕を乗せてそうからかいだす。そこで輝は少しだけいつもの調子に戻り狩屋のからかいの餌食になってしまった。
部活の中がそんな穏やかな空気になっている中、ただ天城一人だけ不安そうに顔を俯かせていた。



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