自分の目の前には最初、何もない暗闇しかなかった。
どこを見ても暗闇。だけど、自分の姿は見えていた。気付けば自分は暗闇の中。だけど、別にそんな事は気にしなかった。怖くもねえし、別にそれでもいいと思えていた。自分しか見えないのなら、それでいいと。
どこに足を運ぼうと、それが前じゃなくて後ろに進んでいても、はたまた進んでいなくても、それが自分の決めた道ならそれでいいと思えた。
だけど、そこへ一筋の光を見つけた。
自然と俺の足はその光に向かって歩いていた。それがどういう意味なのか、ただ自分の足が勝手にその光へと進んでいく。あの光は何なのか、俺は何に向かってこの足を進めているのか。分からなかった。
分からなかったけど、これでいいのだと誰かがそう言った。
気付けば、自分の目の前に一本の道が出来ていた。
延々と続いている一本の道。
歩いても歩いても、その道に終わりが見えない。ふと、目の前に人が見えた。自分ではない。小さな人影。遠すぎて、よく見えない。
何故俺の前を歩いて、自分はその人影を追うように歩いているのか。
知りたい。
あいつは一体何者なんだ。何で俺の目の前に居る。
答えろ。
お前は一体何者なんだ。何で俺の目の前で、笑っている。
歩いても歩いても、はたまた走ってみても掴めないあいつの後ろ。追いつけない。
何の為に自分はこの道を歩いている?何の為に走っている?
もう見えない。あいつの姿が見えない。
やっと、やっと…掴めそうな距離に来たのに、あいつはもう居ない。
一筋の光は消えてしまった。
また自分の見ていた光景が暗闇で真っ暗になってしまった。もう何も見えない。自分の姿さえも、見えなくなってしまった。
足を進めてみても、もうあの光は見えない。また自分は立ち止まってしまった。
誰かを追ってここまで歩いてきたのに、その誰かすら見失ってしまった。
自分は何の為に歩いているのか、自分ですら分からなくなってしまった。
――逸仁さん
だけど、自分の目の前に、自分が目指すものが再び現れたとしたら?
俺は、今度こそ――
彼女を守ってやるんだ――…
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