そして、始まったホーリーロード地区予選。最初の対戦相手になったのは、天河原中。
勝敗指示は雷門側の負けと決まっており、ゴールキーパーである三国もまたその指示に従う事を決意していた。
だが、神童が天馬達を代表してゴールに迫っていたボールを止めて本気の勝ちを取りに向かった。キャプテンならではの行動。そんな彼に肝を抜かれるも、彼は天河原にシュートを放った。

そんな神童を見た三国は自分の忘れかけていたサッカーへの熱い思いを思い出し、今度こそ天河原のシュートを止めてみせた。

「俺達は一回戦からフィフスセクターの指示に逆らって、天河原中に勝利した」
『思えば、天河原のキャプテンさんが私の中に化身が居るって気付いたんだよね…』
「そうだったんだ!」

そう、皆と一旦離れたあの時。一人になった時に、不覚にも相手チームの人達と喋り込んでしまった。
そして、天河原のキャプテンである喜多さんにキミは化身を持っているのかと聞かれたのだ。何度も味わったあの感覚。あれが、化身の所為なんだと理解した。
化身だと分かった瞬間、自分の中には嬉しさがあったが、それと同時に不安が募ったのを覚えている。

敵は明らかに強くなってきている。このままでは化身に頼ってしまうのではないか、と。
敵は、相手チームだけじゃない。
地区予選、万能坂中との試合。試合が始まったと同時に剣城はオウンゴールしようとしていた。それにいち早く気付いた悠那もまたそのボールを止める訳でもなく、それを流すかのように軌道を変えて自分がオウンゴールしたかのように見せた。
敵も味方も驚愕の表情。

だけど、後半戦は水鳥と悠那の言葉で今までフィフスセクターを恐れていた先輩達が戦う決意を固めてくれたのだ。必殺技を次々繰り出して、雷門は見事万能坂中に勝利した。
雷門はついに、チーム一丸となった。そして、その証が悠那の化身――大空聖チエロ。
何者にも捕らわれない、何者にも染まる、あの大空が味方になった。

「次の対戦相手は帝国学園。そして、この時はまだ鬼道監督は帝国の総帥だった」
「フィフスセクターと戦うと決めた雷門にとって帝国はかつてない強敵だった」
『それでも私達は負けられない試合だった…
京介を除いて…』

その試合で、最初は跳ぶ事に躊躇があった信助も円堂の一言によりいつもみたいに高く跳ぶ事が出来た。
だが、その試合の日。雷門には一人だけ来ていない人物が居た。それが剣城京介。

彼は帝国との試合がある日を分かって来なかった。その理由は病院で入院している自分の唯一の兄である剣城優一の見舞いの為。
何故、彼は試合に出ないのか。それは雷門の勝つ所を、見たくないからだ。天馬や自分の幼馴染みである悠那のサッカーバカさをこれ以上聞きたくない。それ以前に彼は万能坂中との試合で雷門が勝つ為に動いてしまったのだ。
剣城にはどこにも逃げ場はない。それが彼の持っていた紙飛行機が語っているようにも思える。
しかし、万が一帝国が破れてしまったら兄の手術費は諦めてもらう事になっていた。

兄の事でフィフスセクターとの間で悩んでいた剣城。だが、とある看護婦の婦長のおかげで忘れていた思い出を思い出し、ついにフィフスセクターのサッカーを捨てる決心をした。

たった一人の嘘の所為で振り回されて傷ついていった人達は居た。幼馴染みの悠那やら、大好きなサッカーで傷つけられた先輩達やら、兄の一粒の涙。それを改めて実感した剣城は雷門の監督である円堂に自分をフィールドに一人の選手として入れてくれと頼んだのだ。
まず、動いたのは剣城の一人の幼馴染みである悠那。彼女が語る“オオカミ少年”の物語。
天馬や神童、倉間までもが嘘を言ってまで彼を信じると、言ってくれた。悠那が剣城をフィフスという狼からやっと救い上げる事が出来た瞬間だった。

こうして改めて始まった後半戦。先輩達が一番苦労していた必殺タクティクスの“アルティメットサンダー”。最初は成功しなくて悠那の怒りを買ってしまい、天馬にもまたサッカーが泣いていると言われた。
彼は気付いた。もし自分が兄に償える方法がるのなら何の為にサッカーをするのか。
それは、

京介と優一のサッカーをする事だ、と。

そこからだ。剣城がアルティメットサンダーを完成させた。
タクティクスは完成され、帝国のDFを吹き飛ばした。そこから天馬の新しい必殺技で帝国に一点を取り、続いて信助、剣城という悠那を抜いた一年生達が決めて帝国に勝った。

「そういえば、ユナ。あの折り鶴どうなったの?」
「あ、確か剣城が初めて悠那にあげたプレゼントだったんでしょ?」
『あ、ああ…うん。そうだよ』

忘れもしないあの小さな頃の思い出。何故か悠那の紙飛行機を持っており、そしてその紙飛行機は折り鶴になって彼女の元へと戻ってきた。それは剣城が再び悠那に約束をする為に出来たもの。
ユナとサッカーをやりたい。それが、剣城の精一杯の約束だった。

『確か、鞄の中に…あ、あった!』
「ふふっ、いつ見ても変わらずのボロボロさねっ」
『う、うっさいなあ…』
「あれ、でもこんな紐あったっけ?」

先程までお弁当を食べていた所にあった自分の鞄を持ってきて中をごそごそと漁る。すると、そこから出てきたのは乾いた色をしたボロボロの折り鶴。元々これは白かったものだったが、それを覆すような茶色さ。よく見れば、折り目も若干ずれている。昔は不器用と言っていたが、今もやはり不器用だったのだろう。それを見た瞬間微笑ましく感じてしまう。余程嬉しかったのだろう。
葵の言うこんな紐というのは、折り鶴の胴体らへんから見える紐。それはずっと伸びており、一つの輪になっていた。

『ああ、これ?もう無くさないように紐付けたの。練習以外はこれを首にかけてるんだ』
「なるほど。でも、折り鶴の首飾りかあ…」
『可愛いでしょ』
「うん、可愛い」

ちょっとズレたような表情をさせながら葵が唸っていれば、胸を張る悠那。そんな彼女に傍で見ていた茜は小さく微笑んで可愛いと言った。それだけならまだしも、茜はその悠那の見せてきた折り鶴をその愛用のカメラで撮っていた。

「……」
「(あ、天馬がなんか拗ねてる)」
『帝国の次って確か海王学園だよね?』
「あ、ああ…そうだったな…」
「(あ、神童先輩もなんか動揺してる)」

地区予選決勝、対戦相手は海王学園となった。
決勝でも次々と繰り出される先輩達の必殺技。そして、ついに天馬にも化身が使えるようになったのだった。“魔神ペガサス”、何ともまあ天馬らしい化身が彼から生まれた。
海王学園に勝利した雷門は、ホーリーロード全国大会の進出が決まった。

「キャプテン」
「何だ?」

一通り、今までの事を振り返った天馬達。そんな天馬は神童へと声をかけた。

「キャプテンと錦先輩、それに俺とユナ。シードでもないのに、どうして化身が出せるんでしょうか?」
「ああ…」

そう、それは先程までおにぎりを食べながら話しの話題となっていた化身。自分達の少ない知識では中々答えが出ない。マネージャーなんてもっとだ。信助もリラックス出来たと言うものの、食べ過ぎた所為で思うように動けないでいた。それならまだ、フィフスの事を詳しく知っている神童に聞こうと、そんな所だろう。
だが、その神童も表情を伺えばそういえばと言わんばかりに声を漏らす。

「俺、剣城に聞いた事あるんです。でも、アイツ何にも言わなくって」
『化身を二つ持つ事は異常っていうのが分かっただけだよね』
「うん」
「…フィフスセクターなら、化身が何か分かるかもしれないな」

元々化身というのは、フィフスセクターが生み出したものでもある。剣城も訓練を受けて化身を得たに過ぎない。それをシードでもない自分達が自ら生み出したのだ。そして、化身を二つ生み出す事をしようとしていたのも元はフィフス。確かに、化身の事はフィフスが一番詳しく知っているかもしれない。

「今まで色んな化身あったよね?」

天河原中の隼総英聖が持っていた“鳥人ファルコ”。光良夜桜が持っていた“奇術魔ピューリム”。万能坂中の篠山ミツルが持っていた“機械兵ガレウス”。帝国学園の龍崎皇児が持っていた“竜騎士テディス”。御門春馬が持っていた“黒き翼レイブン”。海王学園の湾田七雄人が持っていた“音速のバリウス”。浪川蓮助が持っていた“海王ポセイドン”。井出乗数が持っていた“精鋭兵ポーン”。
化身はどんどん出てきて、どんどん強力になっていた。

「ホーリーロード全国大会が行われるのは六つのロシアンルーレットスタジアム」

一回戦はその六つの内の一つであるサイクロンスタジアム。
竜巻が発生するとんでもない仕掛け。
更に強力な化身が出現。月山国光の兵頭司が持っていた“巨神ギガンテス”。それから壱片逸仁が持っていた二体目の“大森聖フォレスタ”。苦戦したものの、何とか勝つ事が出来た。

「でも、月山国光も最後は分かってくれた。俺達のサッカーが、本当のサッカーだって」
『逸仁さんも、私達を試しているように見えました』

彼の言っていた“やらなきゃならない事”。それはもう、終わっているのだろうか。それともまだ苦戦しているのか。それは、逸仁にしか分からない事だった。

そして二回戦はスノーランドスタジアム。対戦相手は北国からやってきた白恋中。
この試合でも雷門はフィフスセクターに支配されていた白恋の選手達を目覚めさせる事が出来て、悠那に新しい化身を出せるようになった。――大炎聖フィアンマ。
誤解していた雪村の信頼をまた得た吹雪は、本当の師弟のようだった。

「そいや、悠那。よく足負傷したまま試合出来たよなァ」
『っう…もう勘弁して下さい…あの時は寒かったし、冷え症だし、感覚が麻痺してたからまだ痛みを感じずに出来たんです』

いや、ちょっとは痛みがあったけど、そんなのが気にならないくらいに試合に集中していたのだ。そして、二体目の化身も現れた事によって辛さを増して、その後の記憶が正直無いのだ。自分でも超人かっと内心つっこんでいたぐらいだ。異常過ぎる。

「…もう絶対に、あんな真似するなよ」
『し、しませんよ!絶対!はい!』

あの時の事は正に黒歴史だ。なんて感じていれば、不意に横からただならぬオーラを発している神童が視界に入ってきた。どうやらまだ根に持っているのだろう。絶対を強調して言う彼に殺気を覚えた悠那は涙目になりながら全力で彼と約束した。
完全に神童に怯んでいる悠那。これから化身でも出しそうな神童を見た水鳥は静かに「鬼だな」と呟いた。

白恋中との試合が終わったその次の日。円堂が監督を辞任して、雷門を去って行った。
そして、円堂監督の後任には鬼道監督が付いた。色々と揉めた事があったが、皆も鬼道を監督として認めて信助も納得していた。

そして、新しい戦力も加わった。
信助と悠那と同じ、DFの狩屋マサキ。FWの影山輝。そして、イタリアから帰ってきたMFの錦竜馬。
革命の風は絶対に止まない。本当のサッカーを取り戻すその日まで。

「フィフスセクターは、サッカーを管理してどんな世界を造りだそうとしているんだろう」
「こんな想いでサッカーをして、その先に何があるのかな」
「…その答えは、ホーリーロードを勝ち抜いた先にあるんだと思う。
それを知る為にも、俺達は戦い続けるんだ」
『「「はい!」」』

管理しているフィフスセクター。管理されている選手達とサッカー。
何故フィフスはサッカーを今まで管理しているのだろうか。これからもサッカーを管理し続けるのだろうか。きっと、何らかの理由がある筈。ならば、その理由を暴いて革命を成功させなければならない。

「…それにしても、本当に化身って何なんだろう」
「俺、知りたいです。他の選手はどうやって化身を生み出しているのか。そこにフィフスセクターの狙いも見えてくると思うんです」
「化身かあっ、僕も化身出せたら円堂監督が帰ってきた時、ビックリしちゃうだろうなあ!」
「うん。あたし達も化身、使えたらいいよなァ」
「…私遠慮しまーす、」
「あたしは欲しいっ」

彼等の言葉を聞いて、悠那は拍子抜けた表情をした。確かに化身の事をもっと理解出来ればきっとフィフスセクターの目的だって分かる。
信助も化身を使いたそうにしていた。けど、それはそれ相当な覚悟と体力が必要になっていく。事実、悠那だってそうだった。自分が初めてチエロを出した瞬間、徐々に体力が奪われた。からのフィアンマ。あの化身は本当に体力を徐々にではなく一気に奪っていくのだ。円堂にも使うなと約束もした。

『……』

化身が何なのか分かったら、本当にフィフスの目的が分かるのだろうか。他の選手達はどうやって)化身を生み出しているのだろうか。化身を生み出す目的も分かるのだろうか。
悠那は静かに皆から視線を外して、自分の頭上に広がる大空へと向けた。いつまでも蒼くて広い空。そこらへんに散らばる雲は風に吹かれて少しずつ動いている。まさにチエロのようだった。
炎というのは最初の内は小さく燃えるものの、燃え移ってしまえば一気にそこを自分の居場所にしてしまう。フィアンマもそうだった。
化身を一つしか持てない選手と、化身を二つも持てる選手の違いは、何なのだろうか。

『私も知りたい、化身の事。フィフスの事』

そうすれば、今まで感じていたモヤモヤが一気に晴れる気がする。

ポーンッと、神童がボールを高く蹴り上げた。それを天馬と信助がまるで犬みたいに目を輝かせてそのボールへと向かって走っていく。それを傍らで見やる神童と悠那。神童は小さく微笑んだ後、すぐに笑みを戻した。

「(円堂監督が何故去ってしまったのか、俺達はその理由をまだ知らない。
でも、監督はきっとどこかで戦っているんだ。例え離れていても、俺達の革命の風は円堂監督に必ず届く!)」

目の前で天馬と信助がボールの奪い合いをしている。それを見て、悠那も段々やりたくてうずうずしてきたらしく、神童の隣から離れて彼等の傍まで駆け寄っていった。
もちろん二人はあの元気な笑みを見せて入れてくれた。

『(守兄さん、私もう我が儘言わないよ。だって、守兄さんの困った顔を見るのはもう嫌だから。
いつか雷門に戻ってきた時、驚かせるくらいに成長するからね)』

鞄を投げつけて必死に円堂の歩みを止めたあの時の事。円堂は結局何も言わずに化身の事を忠告した。その時の円堂の表情を伺えばあの困ったような笑み。太陽が雲を被ったのだ。それを見た瞬間、自分の心臓が痛むのを感じた。罪悪感。
だから、もう二度と円堂を困らせるような真似はしたくない。
そんな思いを秘めた悠那は信助にボールを渡した。

「天馬!」
「(円堂監督、俺達戦い続けます!皆が本気のサッカーをする日を、サッカーはきっと待ってるんです!)」

雷門から吹く風は、もっともっと強くなっていく。




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